エドガー・アラン・ポーの小説『天邪鬼』には,「してはいけない」と思ってしまったせいで,することを止められなくなって自滅に向かう主人公が描かれています。
日常生活の中で,私たちは,自分の「意識」が自分をコントロールしていると素朴に感じています。しかし,近年の研究によって,意識されない心的過程が思考や行動に大きな影響を与えていることがわかってきました。
こうした問題について,「見えない」刺激を使った実験を通して研究しています。
Hattori, M., Sloman, S. A., & Orita, R. (2013a). Effects of subliminal hints on insight problem solving.Psychonomic Bulletin & Review, 20(4), 790–797. doi: 10.3758/s13423-013-0389-0
Hattori, M. (2014g). Subliminal problem solving: Dual processes of cognition and their interaction.The Second New Paradigm Psychology of Reasoning Conference. École Pratique des Hautes Études, Paris, France. June 5.
一生懸命努力しても,なかなかよいアイデアが浮かばないことはよくあります。その反面,まったく関係ない何かをしているときに,なぜか,ふとよいことを思いつくこともあります。
ひらめきやよいアイデアは,どこから来るのでしょうか。創造性は努力によって向上するのでしょうか。
こうした疑問を解明するため,実験によって,洞察や創造的認知のしくみに迫る研究をしています。
服部雅史・吉田 靖 (2000a). 創造性と潜在的認知・メタ認知 日本心理学会第64回大会発表論文集, 818. 京都大学
吉田 靖・服部雅史 (2002a). 創造的問題解決におけるメタ認知的処理の影響 認知科学, 9(1), 89–102. doi: 10.11225/jcss.9.89
吉田 靖・服部雅史・尾田政臣 (2005a). アイデア探索空間と創造性の関係 心理学研究, 76(3), 211–218. doi: 10.4992/jjpsy.76.211
「ポジティブorネガティブな感情で問題を解くと、正解率が上がる?!」(by NOCC!! 2019.10.17)
「よいアイデアが生まれるとき、生まれないとき」 (立命館大学 人間科学研究所『人間科学のフロント』 [2015年7月] より)
たとえば火事が起きたら,なぜ起きたのかを考えます。こういった因果推論は,日常生活の中で,誰もが自然に行っている認知活動です。
しかし,「煙草の火が原因」と言うことはあっても,「空気中の酸素が原因」と考えることがないのはなぜでしょうか。また,無数の原因候補の中から,どうやって本当の原因を決めているのでしょうか。
私たちは,一つの出来事に対して,その原因を一つに決めようとする傾向を持っています。この傾向が,さまざまな思考のバイアスに関係していると考え,実験を通して多様な現象の関係を明らかにしています。
服部雅史 (2008b). 推論と判断の等確率性仮説:思考の対称性とその適応的意味 認知科学, 15(3), 408–427. doi: 10.11225/jcss.15.408(日本認知科学会論文賞受賞論文)
Hattori, M. & Oaksford, M. (2007a). Adaptive non-interventional heuristics for covariation detection in causal induction: Model comparison and rational analysis. Cognitive Science, 31(5), 765–814. doi: 10.1080/03640210701530755
論理的に考えることの重要性は,教育やビジネスの場でも強調されます。論理的思考が難しいのは,私たちの思考が,「ありそうなこと」(確率)に基づいているからです。
たとえば,「合格したら電話する」と聞いていたとき,電話があっても合格しているとは限りません。「AならばB」だからといって「BならばA」とは限りません。しかし,不合格のときにわざわざ電話してくる可能性が低いことを知っていれば,たとえ論理的に誤りでも,「合格」という推測は正しい確率が高いので有益な推論ともいえます。
こうして,確率論的分析によって,私たちの論理的推論の誤りやすさを明らかにすることができます。
Hattori, M. (2016c). Probabilistic representation in syllogistic reasoning: A theory to integrate mental models and heuristics. Cognition, 157, 296–320. doi: 10.1016/j.cognition.2016.09.009
Hattori, M. (2002d). A quantitative model of optimal data selection in Wason's selection task. The Quarterly Journal of Experimental Psychology: Human Experimental Psychology A, 55(4), 1241–1272. doi: 10.1080/02724980244000053
シャーロック・ホームズは,「事件の夜に犬が吠えなかった」という事実から,犯人についての重要なヒントを得ました(『銀星号事件』)。しかし,普通は,「吠えない」という不在情報に気づくのは容易ではありません。
生起・不生起は,論理記号では肯定・否定によって表現されますが,心理的には,いわば「図と地」の関係を構成します。つまり,肯定と否定は,記号的には対称ですが,心理的には対称ではありません。
こうした思考の非対称性が,さまざまな思考のエラーやバイアスの共通原因になっていると考え,実験を通してそれを検証しています。
服部雅史 (2014d). 思考の図と地:フレーミングによる肯定・否定の非対称性 立命館文学, 636, 131–147.
Hattori, M., Over, D., Hattori, I., Takahashi, T., & Baratgin, J. (2016a). Dual frames in causal reasoning and other types of thinking. In N. Galbraith, E. Lucas, & D. Over (Eds.), The thinking mind: A festschrift for Ken Manktelow (pp. 98–114). London: Routledge.