京都工芸繊維大学・ デザイン科学専攻・特別講義A(春学期) 2006年7月11日(火)

北岡 明佳(立命館大学文学部) email

2006/7/6より


要旨  錯視を全面に押し出したデザイン(錯視デザイン)がある。錯視デザインは錯視以外のことは特に表現しないので、定義上はアートからは遠いのであるが、一見アートの雰囲気もある。本講義では、錯視のサイエンス(心理学)とアートの側面から、錯視デザインを掘り下げてみたい。

キーワード: 錯視 デザイン アート 知覚心理学 だまし絵 美


「カメの回転」

カメの集団が回転して見える。そのほか、左右に動いて見える錯視や、垂直・水平に並んだエッジが傾いて見える錯視もある。

Copyright Akiyoshi .Kitaoka 2006 (June 19)


●錯視とは視覚性の錯覚のことであり、錯覚とは実在する対象の真の特性とは異なる知覚のことである。

●錯視には、形の錯視(幾何学的錯視)、明るさの錯視、色の錯視、運動視の錯視などがある。

●錯視は、錯視量が多いほど「美しい」。

錯視全般の分類(ウェブページ)   錯視のカタログ(ウェブページ)


1. 幾何学的錯視(形の錯視)


幾何学的錯視(形の錯視)(プリント)


市松模様錯視(checkered illusion)

「膨らみの錯視」

市松模様の床が膨らんでこちらにせり出しているように見えるが、物理的にはすべて正方形で描かれており、感じられる丸みは錯視である。

Copyright A.Kitaoka 1998


Kitaoka, A., Pinna, B., and Brelstaff, G. (2004). Contrast polarities determine the direction of Café Wall tilts. Perception, 33, 11-20.



「クッション」

すべて長方形か正方形でできているが、丸みや立体感が感じられる。

Copyright A.Kitaoka 1998
(c)北岡明佳 2002 「トリックアイズ」 (カンゼン刊)


「拡大クッション・ゴールド」

すべて正方形か長方形でできているのにクッションのように見え、しかも拡大して見える。

Copyright Akiyoshi .Kitaoka 2006 (February 24)

立体感のある幾何学的錯視3


「旗」

すべて正方形でできているが、はためいて見える。

Copyright A.Kitaoka 1998
(c)北岡明佳 2002 「トリックアイズ」 (カンゼン刊)


「アトランティス」

すべて正方形でできているが、膨らんで見える。動きの錯視もある。

Copyright Akiyoshi.Kitaoka 2006 (February 24)


「ダニ」

内側が動いて見える。斜め線はそれぞれ一直線上にあるのだが、内側と外側で傾きが違って見える。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2006 (July 8)


制作の観点から市松模様錯視を考えると、以下の通り。


「ウルトラマンの波」

正方形が波打って見える。

Copyright A.Kitaoka 2005 (March 16) (December 25, 2004作成)


「紅葉」

正方形の市松模様が歪んで見える。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2006 (July 8)


縁飾りエッジの錯視(illusion of fringed edges)

「カメ」

垂直・水平のエッジが傾いて見える。

Copyright A.Kitaoka 1999


「カメの養殖」

垂直・水平のエッジが波打って見える。

Copyright A.Kitaoka 2002


縁飾りエッジの錯視


「月明かりに照らされた生まれたばかりのカメ」

垂直・水平に描かれたカメの境界が傾いて見える(縁飾りエッジの錯視)*。また、カメの集団が波打って動いて見える。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2006 (June 17)

*Kitaoka, A., Pinna, B., and Brelstaff, G. (2004). Contrast polarities determine the direction of Café Wall tilts. Perception, 33, 11-20.

ダリの作品みたいにタイトルが長くなってしまった。


「亀の回回回回回回転」

図で6つある「回」という字は、紫と黄の要素図形を正方形状に配列してあるのだが、ひずんで見える(縁飾りエッジの錯視)*。また、回という字が動いて見える。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2006 (June 20)

*Kitaoka, A., Pinna, B., and Brelstaff, G. (2004). Contrast polarities determine the direction of Café Wall tilts. Perception, 33, 11-20.

カメというよりワタリガニ?


新しい幾何学的錯視が多く載っている論文

Kitaoka, A. (1998). Apparent contraction of edge angles. Perception, 27, 1209-1219.

Kitaoka, A., Pinna, B., and Brelstaff, G. (2001). New variations of spiral illusions. Perception, 30, 637-646.

Kitaoka, A., Pinna, B., and Brelstaff, G. (2004). Contrast polarities determine the direction of Café Wall tilts. Perception, 33, 11-20.


幾何学的錯視の参考書

今井省吾 (1984) 錯視図形-見え方の心理学- サイエンス社

大山正・今井省吾・和気典二(編) (1994) 新編 感覚・知覚心理学ハンドブック 誠信書房

後藤倬男・田中平八(編) (2005) 錯視の科学ハンドブック 東京大学出版会

北岡明佳 (2005) トリック・アイズ グラフィックス カンゼン 

北岡明佳 (印刷中) 錯視の楽しみ方 化学同人 (2007年1月刊行予定)


2. 明るさの錯視


明るさの錯視(プリント)


ホワイト効果

White, M. (1979) A new effect on perceived lightness. Perception, 8, 413-416.


One of Adelson's illusions

Although gray diamonds are identical, there appear to be light-gray ones and dark-gray ones.

Adelson, E. H. (1993) Perceptual organization and the judgment of brightness. Science, 262, 2042-2044..

Adelson, E. H. (2000) Lightness perception and lightness illusions. In M. Gazzaniga (Ed.), The New Cognitive Neurosciences, 2nd ed. Cambridge, MA: MIT Press. (pp. 339-351)

Professor Adelson's page


Logvinenko illusion

Although gray diamonds are identical, there appear to be light-gray ones and dark-gray ones.

Logvinenko, A. D. (1999) Lightness induction revisited. Perception, 28, 803-816.


「エイの詰め合わせ」

エイは正方形で描かれているが、形がゆがんで見える(ずれたグラデーションの錯視)*。そのほか、暗いエイの目は明るく見え、明るいエイの目は暗く見えるが、同じ輝度のグラデーションである。また、灰色の垂直・水平線が場所によって明るく見えたり暗く見えたりする明るさの錯視(ログヴィネンコ錯視?)も含まれている。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2006 (June 12)

*Kitaoka, A. (1998). Apparent contraction of edge angles. Perception, 27, 1209-1219.


錯視的階段状ゲルプ効果


明るさの錯視の参考書

後藤倬男・田中平八(編) (2005) 錯視の科学ハンドブック 東京大学出版会

北岡明佳 (2005) トリック・アイズ グラフィックス カンゼン 

北岡明佳 (印刷中) 錯視の楽しみ方 化学同人 (2007年1月刊行予定)


3. 色の錯視


色の錯視(プリント)


ロレアル講演2005


色の錯視3


水彩効果(water color effect)

Pinna, Brelstaff and Spillmann, 2001; Pinna, Werner and Spillmann, 2003


「水彩効果の拡大」

本当は白なのに淡いオレンジ色のように水彩効果のかかった領域が拡大して見える。

Copyright Akiyoshi .Kitaoka 2006 (April 12)


色の錯視の参考書

調査中


4. 静止画が動いて見える錯視


静止画が動いて見る錯視(プリント)


静止画が動いて見える錯視の分類(ウェブページ)


「蛇の回転」

蛇の円盤が勝手に回転して見える。

Copyright A.Kitaoka 2003 (September 2, 2003)

蛇の回転のページ
蛇の回転・錯視量増強版
 蛇の回転・フリッカーによる錯視量増強版
蛇の回転・いろいろ

基本錯視を説明した論文(最適化型フレーザー・ウィルコックス錯視)(PDF)


「蛇の拡大」

蛇のディスクが拡大して見える。

Copyright Akiyoshi .Kitaoka 2006 (May 25)


「蛇の回転」には見えない人が少数いる。

VSSでの調査

放送大学面接授業での調査


最適化型フレーザーウィルコックス錯視の分類


最適化型フレーザー・ウィルコックス錯視 Type I


「タイムトンネルショー」

リングが回転して見える。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2006 (February 24)


「オバケ」

「目」が拡大して見える。

Copyright Akiyoshi .Kitaoka 2006 (February 25)

拡大・縮小錯視4


「ぎんなん」

ぎんなんのリングが回転して見える。

Copyright A.Kitaoka 2004 (6/25)


「桃の回転2」

桃のリングが回転して見える。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2006 (February 17)


「エンドウマメの蛋白質」

マメが動いて見える。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2006 (February 21)


「蛇の回回回回回回転」

図で6つある「回」という字は、青と黄の要素図形を正方形状に配列してあるのだが、ひずんで見える(ずれたエッジの錯視)*。また、回という字が動いて見える。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2006 (June 13)

*Kitaoka, A., Pinna, B., and Brelstaff, G. (2004). Contrast polarities determine the direction of Café Wall tilts. Perception, 33, 11-20.


最適化型フレーザー・ウィルコックス錯視 Type IIa


「蛇の回転・三次元風」

ディスクがひとりでに回転して見える。

Copyright Akiyoshi .Kitaoka 2006 (May 30)


「虫君」

虫が左右に動いて見える。

Copyright Akiyoshi .Kitaoka 2006 (May 25)


「カレイ」

中央部分が右に動いて見える。

Copyright Akiyoshi .Kitaoka 2006 (May 1)


「コンピュータワーム」

虫が動いて見える。

Copyright A.Kitaoka 2005 (April 19)


「雷さん」

太鼓のリングが時計回りに回転して見える。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2006 (May 22)


「レモンの回転」

何もせずながめているだけでリングが回転して見える。一方、まばたきをするとそれとは反対方向に回転して見える。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2005 (November 6)


中心ドリフト錯視


「八重桜」

八重桜が拡大して見える。

Copyright Akiyoshi .Kitaoka 2006 (April 29)

サクラ2


「回遊」

内側の魚は時計回りに、外側の魚は反時計回りに回転して見える。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2006 (April 28)


「サクラの回転」

(リメーク版)

サクラの花びらのリングが回転して見える。外側は反時計回り、内側は時計回りである。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2005 (1/26)


その他の動く錯視


「ブルートレイン」

上半分は右に、下半分は左にゆっくり動いて見える。

Copyright Akiyoshi .Kitaoka 2006 (March 21)

動く錯視4


「保護色」

中の領域が動いて見える。

Copyright A.Kitaoka 2004 (7/16)


「雨」

中の雨が動いて見える。

Copyright A.Kitaoka 2005 (July 2)

2000年作品のリメーク


「桃の回転」

桃のリングが回転して見える。

Copyright Akiyoshi .Kitaoka 2006 (February 17)


高速運動錯視と「オバケ」


Apparent movement with speed lines (motion lines)

Copyright Akiyoshi .Kitaoka 2006 (March 2)


「高速どんぐるりん」

どんぐりの輪が高速に回転して見える。

Copyright Akiyoshi .Kitaoka 2006 (February 16)

普通の「どんぐるりん」↓

+



「蛇のフィギュアスケート」

円盤が高速で回転しているように見える。

Copyright Akiyoshi .Kitaoka 2006 (February 22)


「床屋の乱立・アニメ版」

各リングが回転して見える。回転方向は一定ではなく、時々切り替わる。

Copyright Akiyoshi .Kitaoka 2006 (January 13)


5. だまし絵と錯視デザイン


北岡の主張: 錯視デザインとだまし絵(あるいはトリックアート)は、アートしては同種で1)、サイエンスとしては別種である2)


1) 錯視デザインとだまし絵は、作品の目的は視覚のメカニズム自体を表現することである。

2) だまし絵は錯視を使っていない!


だまし絵の技術(1) 影(シャドー)と陰(シェード)

「隠されたジャストローの台形錯視」

上の図の台形が下の図の台形よりも大きく見える(ジャストローの台形錯視)がこれにすぐには気づかないのは、影が物体の空間位置の知覚に及ぼす効果のデモンストレーション(影の位置が違うだけなのだが上図では球が浮いて見える)に注意が取られてしまうためであろう。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2006 (June 29)


だまし絵の技術(2) 不可能図形


だまし絵の技術(3) 反転図形

「ひだの付いた金網の回転」

ひだの付いた金網が垂直軸を軸に回転しているように見える。上から1、3、5、7、9番の水平線が手前に見える時は、金網は観察者に対して右側方向に面しているように見え、次第に観察者に向かって面を回転してくるように見える。逆に、上から2、4、6、8番の水平線が手前に見える時は、金網は観察者に対して左側方向に面しているように見え、次第に観察者に向かって面を回転してくるように見える。

Copyright Akiyoshi .Kitaoka 2006 (June 22)

この錯視デザインの構成
(1)謎の(新型の?)動く錯視
(2)遠近反転図形
(3)運動方向反転図形

反転図形の決定版は、シルエット錯視(Kayahara, 2003)


だまし絵と錯視デザインの関係がわかる参考書

北岡明佳 (印刷中) 錯視の楽しみ方 化学同人 (2007年1月刊行予定)


6. 「錯視デザイン専攻」(もしあったら)に必要な科目


●錯視デザインをシステマティックに教えるとすると、何を履修する必要があるかを、北岡が勝手に考えた。

1. 錯視学
2. 知覚心理学
3. 認知心理学
4. 心理学概論
5. 視覚デザイン論
6. コンピュータグラフィックス入門
7. 視覚デザイン演習
8. 美術史
9. 哲学概論
10. 神経生理学

 

●錯視デザイン専攻を卒業・修了した学生の進路を、北岡が勝手に考えた。

総理大臣、文科大臣、京都工芸繊維大学長、芸術家、グラフィックデザイナー、大学教員、公務員、銀行員、占い師など(冗談です)


まとめ

錯視研究は、20世紀末から21世紀初頭にかけて、IT革命の余波によって、中興の時代を迎えている。錯視研究がどこへ行くのか誰にもわからないし、その応用である錯視デザインの行方に至っては誰にもわからない。きっと、若い皆さんの心の赴くままに発展していくのであろう。


立命館大学
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