ロレアル賞連続ワークショップ2005
第2回 11月25日(金) PM6:30-8:30
「錯視 アート?サイエンス?心理学?脳神経科学?」
東京デザインセンター

北 岡  明 佳
立命館大学文学部心理学専攻

Since November 21, 2005


錯視(visual illusion)とは、視覚性の錯覚のことである。「目の錯覚」と呼んでもOKであるが、錯視の多くあるいはすべては目ではなく脳で起こる。また、錯視と言う場合は、錯覚のうち比較的低次なものを指すことが多い。


錯視の分類
1. 幾何学的錯視(形の錯視) カタログ 専門書
2. 明るさの錯視  カタログ 
3. 色の錯視  カタログ 
4. 動きの錯視  静止画が動いて見える錯視のカタログ

(5. 立体視の錯視)
(6. 視覚的補完の錯視) カタログ
(7. 反転図形)

錯視のカタログのページ 錯視のカタログのある本 関連する知覚心理学の本


1. 色の対比
2. 色の同化
3. 彩度対比
4. ベンハムのコマ(フェヒナー色)
5. 色立体視(進出色・後退色)
6. ムンカー錯視
7. ネオン色拡散
8. 遠隔色対比・遠隔色同化
9. 色が変わる錯視
(10. 他の錯視に及ぼす色の効果)
参考 色彩学会2005年シンポジウムの発表

色の対比

ある領域が別の色の領域で囲まれると、そこに囲んだ色の反対色が誘導される現象。灰色領域が青で囲まれると黄が誘導され(左図)、同じ灰色領域が黄で囲まれると青が誘導される(右図)。


色の同化

ある領域に、色の付いた細い線が乗ると、その色味が誘導されて見える現象。赤い領域に青線を乗せると赤紫に見え(左図)、同じ赤の領域に黄線を乗せるとオレンジ色に見える(右図)。


彩度対比

彩度(色の鮮やかさ)の高い色に囲まれた領域の彩度は低く見え(左図)、彩度の低い色の囲まれた領域の彩度は高く見える(右図)。


酒井の色対比・・・彩度対比の一種?色の対比の一種?色の恒常性の一種?


中の正方形の色は同じであるが、左のは灰色に見える。

中の正方形の色は同じであるが、右のは灰色に見える。


左上5列の「灰色」と右下5列の「赤」は物理的には同じであり、右上5列の「灰色」と左下5列の「緑」は物理的には同じである。


左上5列の「灰色」と右下5列の「青」は物理的には同じであり、右上5列の「灰色」と左下5列の「黄」は物理的には同じである。

酒井香澄(「Landの二色法による色再現とBelseyの仮説検証」立命館大学文学部哲学科心理学専攻2002年度卒業論文)の発見をベースにしている。


酒井の色対比による作品「あじさい」↓

斜めに並んだ3個同士は同じ色であるが、右の方が赤味が多く見える。

Copyright A.Kitaoka 2005 (May 26)


「緑のタヌキ」と「ピンクの正方形」・・・色の恒常性の一種?色の対比の一種?

中央の灰色が緑に見える。こういう深い緑はモニターでは出せないはずだったのだが・・・

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2005 (October 14)

中心の小さい正方形はピンクに見えるが、実際には灰色(のグラデーション)である。

Copyright Akiyoshi .Kitaoka 2005 (October 14)


栗木一郎先生のデモ  元のページ(NTT CS基礎研究所)  そのコピー(アクセスできない場合に使用) 


最初に作った作品「ドラゴン」・・・錯視量が少ない↓

左の大きい正方形の中心の小さい正方形は緑色に見えるが、下の列の左の黒(r = 50, g = 50, b = 50)と同じである。一方、右の大きい正方形の中心の小さい正方形は紫色に見えるが、下の列の右の灰色(r = 80, g = 80, b = 80)と同じである。

Copyright Akiyoshi .Kitaoka 2005 (October 13)


「強化型色対比」

<基本図形と考えられるので著作権フリー(引用は必要)>

正方形の色は a = d と b = c のように見えるが、物理的な色は b = d である。

by Akiyoshi Kitaoka 2005 (May 27)

ただの色対比にあらず。上下の正方形を取ると、錯視量が減る(下図)。

Piersの論文1)に刺激されて作成。

1) Howe, P. D. L. (2005) White's effect: Removing the junctions but preserving the strength of the illusion. Perception, 34, 557 - 564.

もし先行研究で同じものがあるのを発見されましたら、ご一報下さい。直ちに修正します。 北岡にメールする


照明と表面色の分離メカニズムを用いた(?)作品「色グラデーションの錯視」↓

A と D、B と C が同じ感じに見えるが、物理的には C と D が同じである。

Copyright Akiyoshi .Kitaoka 2005 (August 12)


キルシュマンの法則(色の対比の法則)
1. 誘導領域に比較して検査領域が小さいほど色の対比は大きい。

2. 色の対比は誘導領域と検査領域が離れていても生じるが、その間隔が大きくなるほど効果は小さくなる。

3. 明るさの対比が少ない時に、色の対比の効果は大きい。

4. 誘導領域が大きいほど色の対比の効果は大きい。(法則3と4は入れ替わっている場合がある)

5. 明るさが等しいとき、誘導領域の彩度が高い方が色の対比の効果は大きい。

Graham, C. H. and Brown, J. L. (1965) Color contrast and color appearance: Brightness constancy and color constancy. In C. H. Graham (Ed.), Vision and visual perception, New York: John Wiley & Sons (pp 452-478). (In this paper, the third and fourth laws are exchanged)

Kirschmann, A. (1891) Über die quantitativen Verhältnisse des stimultanen Helligkeits- und Farben-Contrastes. Phil. Stud., 6, 417-491.

Yund, E. W. and Armington, J. C. (1975) Color and brightness contrast effects as a function of spatial variables. Vision Research, 15, 917-929.

法則3には否定的見解が出ている。
Kinney, J. A. S. (1962) Factors affecting induced colors. Vision Research, 2, 503-525.
Oyama, T. and Hsia, Y. (1966) Compensatory hue shift in simultaneous color contrast as a function of separation between inducing and test fields. Journal of Experimental Psychology, 71, 405-413.
しかし、

作品「無響室」・・・明るさの対比が少ない時に、色の対比の効果が大きい。

小さい正方形には赤味がかったものと青みがかったものがあるように見えるが、右下の正方形の灰色と同じである。

Copyright Akiyoshi .Kitaoka 2005 (June 11)


遠隔色対比

赤い線がある程度青い線より離れたところに置かれると、青の補色の黄色味がかって見える。黄色の線の間に置かれると黄の補色の青味がかって見える。

北岡明佳 (2001) 錯視のデザイン学(6)・色彩知覚の知られざる不安定性 日経サイエンス, 31(7), 128-129.


作品「色の分裂」・・・遠隔色対比の誘導図形は線でなくてもよい。↓

青色の正方形のまわりの赤はオレンジ色に見え、黄色の正方形のまわりの赤はマゼンタ色に見えるが、同じ赤である。

Copyright Akiyoshi .Kitaoka 2005 (May 27)


作品「非接触ながらも色の対比」・・・遠隔色対比の距離効果が認められない場合がある。↓

同じ赤が、左ではマゼンタがかって見え、右ではオレンジがかって見える。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2005 (September 30)


作品「のりがはがれたあと」・・・遠隔色対比はネオン色拡散と関係づけるとおもしろい。↓

白背景に青と黒の格子なのだが、黄色いものが見える。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2005 (September 30)

Van Tuijl, H. F. J. M. (1975). A new visual illusion: Neonlike color spreading and complementary color induction between subjective contours. Acta Psychologica, 39, 441-445.

Sohmiya, S. (2005) Explanation for neon color effect in achromatic line segments on chromatic inducers based on the multiple interprertation hypothesis. Perceptual and Motor Skills, 101, 267-282.


cf. ネオン色拡散

色の十字の周りがパッチ状に同色に色づいて見える。

Varin, D. (1971) Fenomeni di contrasto e diffusione cromatica nell'organizzazione spaziale del campo percettivo. Rivista di Psicologia, 65, 101-128.

Van Tuijl, H. F. J. M. (1975). A new visual illusion: Neonlike color spreading and complementary color induction between subjective contours. Acta Psychologica, 39, 441-445.

Redies, C. and Spillmann, L. (1981). The neon color effect in the Ehrenstein illusion. Perception, 10, 667-681.


遠隔色同化

赤い線がある程度青い線より離れてはいるが近くに置かれると、青味がかって見える。黄色の線に近づくと、黄味がかって見える。

北岡明佳 (2001) 錯視のデザイン学(6)・色彩知覚の知られざる不安定性 日経サイエンス, 31(7), 128-129.


遠隔色対比と遠隔色同化を用いた作品「赤いメガネ」↓

左右のメガネの赤は同じであるが、違った色に見える。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2005 (April 18)


遠隔色対比と遠隔色同化を用いた作品「花屋さん」↓

同じ赤がオレンジ色やマゼンタ色に見える。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2002
in Trick Eyes, 2002


普通の色の同化を用いた作品「ひまわりとダリア」↓

同じ赤が青味がかったり、オレンジ色に見える。

Copyright A.Kitaoka 2001


赤い正方形の内と外で線がずれて見える人がいる。


色収差による色ずれの作品「額がガクガク」↓

青い線の正方形が赤と緑の境界のところでずれているように見える。作者にはそう見えるが、理論的にはそう見えない人もいると思われる。そのほか、ヘルマン格子錯視や色の同化が見られる。

Copyright A.Kitaoka 2003 (June 16, 2003)


色収差による色ずれの作品「色収差錯視チェッカーボード」・・・めがねの人専用↓

「色収差錯視チェッカーボード」

近眼で眼鏡をかけている人は、顔を右に向けて目は左でこの図を見ると、上半分のそれぞれの正方形の左側は鮮やかな水色、右側は黄色(あるいはオレンジ色)に見える。この時、下半分の正方形の両側は緑色に見える。顔を左に向けた場合はその反対。遠視あるいは老視の眼鏡をかけている人は多分逆。

Copyright Akiyoshi .Kitaoka 2005 (October 9)


軸上色収差


軸外色収差


色立体視(進出色・後退色)

赤が青より手前に見える人が過半数を占めるが、青が赤よりも手前に見える人も20%程度いる。


ムンカー錯視

黄と青の縞の青部分に赤を乗せるとオレンジ色に見え、黄部分に赤を乗せると赤紫がかって見える。緑を乗せるとそれぞれ黄緑と青緑に見える。高空間周波数図形で錯視量が多い。

Munker, H. (1970) Farbige Gitter, Abbildung auf der Netzhauf und ubertragungstheoretische Beschreibung der Farbwahrnehmung. Munchen: Habilitationsschrift.

ムンカー錯視のページ


cf. ホワイト効果

White, M. (1979) A new effect on perceived lightness. Perception, 8, 413-416.


ムンカー錯視を用いた作品「赤の渦巻き」↓

赤紫がかった赤い螺旋とオレンジ色がっかった赤い螺旋があるように見えるが、どちらも同じ赤である。

Copyright A.Kitaoka 2002
(c)北岡明佳 2002 「トリックアイズ」 (カンゼン刊)


ムンカー錯視を用いた作品「緑の渦巻き」↓

黄緑の螺旋と青緑の螺旋があるように見えるが、どちらも同じ緑である。

Copyright A.Kitaoka 2002
(c)北岡明佳 2002 「トリックアイズ」 (カンゼン刊)


ムンカー錯視を用いた作品「水色と黄緑の渦巻き」↓

水色の螺旋と黄緑の螺旋があるように見えるが、どちらも同じ色(r = 0, g = 255, b = 150)である。この色の錯視はモニエ・シェベル錯視に近いと思うが、彼らの理論には合わないのかもしれない。

Copyright A.Kitaoka 2003


cf. モニエとシェベルの図

Monnier, P. and Shevell, S. K. (2003) Large shifts in color appearance from patterned chromatic backgrounds. Nature Neuroscience,  6, 801-802.

cf. Howe, P. D. L. (2005) White's effect: Removing the junctions but preserving the strength of the illusion. Perception, 34, 557 - 564.


ムンカー錯視を用いた作品「レモン色の渦巻きとクリーム色の渦巻き」・・・被誘導領域は2つの誘導領域の明るさの中間になくてもよい↓

「レモン色の渦巻きとクリーム色の渦巻き」

渦巻きにはレモン色のとクリーム色のと2種類あるように見えるが、どちらも同じ黄色(R255, G255, B0)である。

Copyright A.Kitaoka 2005 (May 22)


ベンハムのコマ(フェヒナー色)

回転すると色が見える。


色が変わる錯視の作品「2つの輪」

内側のリングは縮小して見え、外側のリングは拡大して見える(最適型フレーザー・ウィルコックス錯視)。中心を見ながら図に目を近づけたり遠ざけたりすると、リングがお互いに反対方向に回転して見える(回転オオウチ錯視)。また、中心を見ながら図に目を近づけると内側のリングが赤味を増し、目を遠ざけると外側のリングが赤味を増す。1つの図で3つも錯視が楽しめるおトクな錯視デザイン。

Copyright A.Kitaoka 2005 (April 1)

トリック・アイズ グラフィックスに掲載


色が変わる錯視を説明する仮説・・・処理速度説↓

刺激イメージが網膜上で動いた場合、長波長の刺激の視覚処理が早く、短波長の刺激の視覚処理が遅いと考えると説明できる。図では矢印の先の赤が増加して見え、後方に残る青は黄色と打ち消しあって無彩色に近くなる。


他の錯視に及ぼす色の効果の例・「蛇の回転」・・・濃い灰色に青、薄い灰色に黄を割り当てると、最適型フレーザー・ウィルコックス錯視の錯視量は増す↓

蛇の円盤が勝手に回転して見える。

Copyright A.Kitaoka 2003 (September 2, 2003)

説明(最適型フレーザー・ウィルコックス錯視) (PDF file)

蛇の回転のページ


会場に展示の錯視デザイン10点


ご清聴ありがとうございました。


北岡明佳の錯視のページ