活動実績

日本認知科学会第29回大会ワークショップ:高次認知処理の自動性とコントロール

日時:2012年12月15日(土)15:00-16:25

場所:仙台国際センター 白橿2

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企画者:服部 雅史(立命館大学)・鈴木 宏昭(青山学院大学)

司会者:鈴木 宏昭(青山学院大学)

話題提供者:
渡邊 克巳(東京大学)「認知課題の複雑さと意識と無意識の関係性」
服部 雅史(立命館大学)・織田 涼(立命館大学)「洞察問題解決における意識と無意識の関係性」
北村 英哉(東洋大学)「高次認知処理の自動性とコントロール:実験社会心理学から」

指定討論:
山 祐嗣(大阪市立大学)「高次認知処理の自動性とコントロール」

企画趣旨:
 認知処理の二重性の問題は,認知科学や心理学のさまざまな領域で古くから注目を集めてきた。問題解決に関するMaier (1931)の先駆的研究は,本人が気づかないうちにヒント情報を活用できることを示し,意識的過程と無意識的過程の乖離を実証した。推論研究においては,分析的で論理的な意識的過程とは別に,バイアスを引き起こす非論理的な無意識的過程の存在が仮定されてきた(Wason & Evans, 1974)。知覚や注意に関しては,コントロールされた意識的過程と自動化された無意識的過程の違いが明らかにされた(Schneider & Shiffrin, 1977)。それらとは独立して,本人の内省報告が実際の行動から乖離することが明らかにされ(Nisbett & Wilson, 1977),社会的推論や行動に対する自動的処理が注目されるようになっていった(Bargh & Pietromonaco, 1982)。しかし,このようにさまざまな二重過程理論の存在が互いに認識され,その共通性や相違,相互関係について論じられ始めたのは,ごく最近のことである(Frankish & Evans, 2009)。

 異なる領域で論じられてきた意識的・無意識的過程が,互いに対応するものかどうかは,まだ明確になってはいない。ゲシュタルト心理学者Duncker (1945)は,習慣的(無意識的)思考が問題解決を阻害することを示し,機能的固着と呼んだ。同様に,Evansに代表される推論研究者は,無意識的な過程がエラーやバイアスを引き起こし,意識的過程がそれを正すものとみなしてきた。このような意識的過程の介入はIQの高さと関係があるという証拠もある(Stanovich, 1999)。

 一方,それとは対照的な知見もある。知覚課題達成や感覚運動スキルについては,集中するより注意をそらした方が課題成績が上昇することを示唆する証拠がある(Beilock, Carr, MacMahon, & Starkes, 2002; Olivers & Nieuwenhuis, 2005)。高次認知活動においても,一時的に問題から離れた方が効果的な場合があり,孵化効果として古くから知られてきた。また,言語隠蔽効果,すなわち言語化によるパフォーマンスの低下は,問題解決に関しても確認されているが(Schooler, Ohlsson, & Brooks, 1993),これは,意識的過程が高次認知活動を妨害する例とみなすことができる。さらに,近年の意思決定研究では,意識的過程が介入しない方が,むしろ「よい」決定が実現されるとする多くの研究成果が得られている(e.g., Dijksterhuis, Bos, Nordgren, & van Baaren, 2006; Gigerenzer, Todd, & The ABC Research Group, 1999)。同様に,社会的文脈における判断や行動に関しても,適応的無意識(Wilson, 2002)の考え方は,これらの見方と整合的である。

 さらに重要な論点は,両過程の関係や相互作用である。もし両者の関係が,無意識的過程の一部が意識に移行する(e.g., Zhong, Dijksterhuis, & Galinsky, 2008)というようなものであれば,両者が完全に独立とは考えにくい。そうだとすれば,意識的過程が無意識的過程に介入するというのは,正確に何を指すのだろうか。このような点については,まだほとんど何も明らかにされていない。ごく最近になって,両過程の関係に関する研究も現れてきているものの(e.g., Evans, 2007; Thompson, Prowse Turner, & Pennycook, 2011),多様な意識的過程と無意識的過程の相互作用を包括的に説明する理論のためには,さらなる領域横断的な議論が必須である。

 そこで本ワークショップでは,認知課題や処理水準によって意識的・無意識的過程の性質が異なるのか,異なるとしたら何がどのように異なり共通の枠組みを目指すことが可能なのか,また,意識的過程と無意識的過程の関係はどうなっているのかについて議論したい。

References

  • Bargh, J. A., & Pietromonaco, P. (1982). Automatic information processing and social perception: The influence of trait information presented outside of conscious awareness on impression formation. Journal of Personality and Social Psychology, 43, 437–449.

  • Beilock, S. L., Carr, T. H., MacMahon, C., & Starkes, J. L. (2002). When paying attention becomes counterproductive: Impact of divided versus skill-focused attention on novice and experienced performance of sensorimotor skills. Journal of Experimental Psychology: Applied, 8, 6–16. doi: 10.1037/1076-898x.8.1.6

  • Dijksterhuis, A., Bos, M. W., Nordgren, L. F., & van Baaren, R. B. (2006). On making the right choice: The deliberation-without-attention effect. Science, 311, 1005–1007. doi: 10.1126/science.1121629

  • Duncker, K. (1945). On problem-solving. Psychological Monographs: General and Applied, 58(5), 1–113.

  • Evans, J. St. B. T. (2007). On the resolution of conflict in dual process theories of reasoning. Thinking & Reasoning, 13, 321–339. doi: 10.1080/13546780601008825

  • Frankish, K., & Evans, J. St. B. T. (2009). The duality of mind: An historical perspective. In J. St. B. T. Evans & K. Frankish (Ed.), In two minds: Dual processes and beyond (pp. 1–29). New York, NY, US: Oxford University Press.

  • Gigerenzer, G., Todd, P. M., & The ABC Research Group. (1999). Simple heuristic that make us smart. Oxford, UK: Oxford University Press.

  • Maier, N. R. F. (1931). Reasoning in humans: II. The solution of a problem and its appearance in consciousness. Journal of Comparative Psychology, 12, 181–194.

  • Nisbett, R. E., & Wilson, T. D. (1977). Telling more than we can know: Verbal reports on mental processes. Psychological Review, 84, 231–259.

  • Olivers, C. N. L., & Nieuwenhuis, S. (2005). The beneficial effect of concurrent task-irrelevant mental activity on temporal attention. Psychological Science, 16, 265–269. doi: 10.1111/j.0956-7976.2005.01526.x

  • Schneider, W., & Shiffrin, R. M. (1977). Controlled and automatic human information processing: I. Detection, search, and attention. Psychological Review, 84, 1–66.

  • Schooler, J. W., Ohlsson, S., & Brooks, K. (1993). Thoughts beyond words: When language overshadows insight. Journal of Experimental Psychology: General, 122, 166–183.

  • Stanovich, K. E. (1999). Who is rational? Studies of individual differences in reasoning. Mahwah, NJ: Elrbaum.

  • Thompson, V. A., Prowse Turner, J. A., & Pennycook, G. (2011). Intuition, reason, and metacognition. Cognitive Psychology, 63, 107–140. doi: 10.1016/j.cogpsych.2011.06.001

  • Wason, P. C., & Evans, J. St. B. T. (1974). Dual processes in reasoning? Cognition, 3, 141–154. doi: 10.1016/0010-0277(74)90017-1

  • Wilson, T. D. (2002). Strangers to ourselves: Discovering the adaptive unconscious. Cambridge, MA: Belknap/Harvard University Press.

  • Zhong, C.-B., Dijksterhuis, A., & Galinsky, A. D. (2008). The merits of unconscious thought in creativity. Psychological Science, 19, 912–918.doi: 10.1111/j.1467-9280.2008.02176.x

日本心理学会第79回大会シンポジウム:思考の意識性と無意識性
(Consciousness and unconsciousness in thinking)

日時:2015年9月24日(木)15:30-17:30

場所:名古屋国際会議場 レセプションホール第1室(東)

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企画者:服部雅史(立命館大学)・鈴木宏昭(青山学院大学)

司会者:鈴木宏昭(青山学院大学)

話題提供者:
土谷尚嗣(モナシュ大学) “Consciousness, cognitive access, and accessibility”
服部雅史(立命館大学)「潜在メタ認知:問題解決における非意識的情報の非意識的コントロール」
鈴木宏昭(青山学院大学)「洞察における意識と無意識の背反と調和」
三輪和久(名古屋大学)「科学的発見における古い『思考の帽子』のかぶり直しの潜在的準備」

概要

 私たちの精神は,コントロールされた意識的過程と,自動的な無意識的過程からなるという考え方がある。無意識的過程については,近年,その重要性が広範囲に明らかにされてきているが,二者の関係については,まだほとんど明らかになっていない。おそらく,意識が全精神過程を支配するという考えが間違っているのと同様,意識が無意識的過程に完全に追従するという考えも正しくないであろう。たとえば,洞察研究では,解が意識化される前に行動面である種の表出が観察されるという現象があり,これは,意識が無意識的過程を後追いしているとも考えられるが,一方で,言語陰蔽効果のように意識化が無意識的過程に影響を及ぼすこともある。また,注意には,対象を無意識的に捕捉するという機能がある半面,意識的コントロールによって認知資源を振り分ける機能もあり,両者の複雑な関係が示唆される。本シンポジウムでは,こうした両者の関係について議論したい。

日本認知科学会第35回大会オーガナイズド・セッション:
認知コントロールの促進的側面と阻害的側面

日時:2018年8月30日(木)8:40-11:10

場所:立命館大学大阪いばらきキャンパス A棟2F AC232

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企画者:西田勇樹(立命館大学/日本学術振興会)・織田涼(東亜大学)

話題提供者:
川島朋也(神戸大学)「注意の制御とワーキングメモリ:注意の誘導と抑制の側面からの検討」
二宮由樹(名古屋大学)・三輪和久(名古屋大学)・寺井仁(近畿大学)「うまくいっているときにタイプ2は働くのか:正のフィ-ドバック下でのタイプ2の起動と潜在的モニター過程の関係」
本田秀仁(安田女子大学)・白砂大(東京大学)・松香敏彦(千葉大学)・植田一博(東京大学)「グラスの中身は半分“空”か“一杯”か? フレーム選択における参照点の影響と顕在的選択理由の分析」
小田切史士(青山学院大学)・山田優志(青山学院大学)・鈴木宏昭(青山学院大学)「洞察問題における課題と認知的負荷の相互作用」
服部雅史(立命館大学)・織田涼(東亜大学)・西田勇樹(立命館大学/日本学術振興会)「問題解決のパラドックス:プライミングの妨害性とノイズの有益性」

概要

 高い認知的な能力や努力が,必ずしも課題のパフォーマンスを促進するわけではない。近年,高い認知コントロールが及ぼす促進的および妨害的な影響の両面性に注目が集まっている。認知コントロールとは,目の前の課題とは無関連な情報を排除し,課題に対して注意を焦点化する能力を指す。認知コントロールの高さは,選択的注意やワーキングメモリだけでなく,より複雑で高次な認知過程にも関与し,課題のパフォーマンスに有利にはたらくと考えられる。一方,例えば洞察問題に関する研究は,ワーキングメモリ容量の大きい参加者に比べて容量の小さい参加者の方が洞察課題の成績が良いという実験結果を報告している。この知見は,高い認知コントロールがかえって課題の遂行を阻害することを示唆する。しかし,認知コントロールの影響に,なぜこうした両面性があるのか,またそのしくみについては,推論の域を出ない。こうしたしくみについて明らかにすることは,高次認知過程の新しい側面を明らかにすることができるという点で意義がある。

 認知コントロールの両面性について検討するためには,幅広い研究領域の発表から議論し,認知コントロールのはたらきについて再考することが必要である。なぜなら,高い認知コントロールによる阻害効果は,洞察課題だけでなく,記憶,注意,学習でも観察されているためである。本セッションでは,研究発表からどのような状況や課題において,認知コントロールがパフォーマンスを促進・阻害するのか議論し整理する。その上で,どのようなメカニズムが認知コントロールの両面性を引き起こしているのか総合的に議論する。そのために,本セッションでは,領域を限定せず,多角的な研究領域からの研究発表を募集する。本セッションから,認知コントロールに対する議論をより深めるだけでなく,研究交流の促進が期待される。

拠点会議

キックオフ・ミーティング

(服部・鈴木・三輪・西田・カストルディ)

日時:2015年4月16日(木)14:00-17:00

場所:立命館大学朱雀キャンパス中川会館303室

内容:今後の研究の展望について話し合った。

メンバー打ち合わせ

(服部・鈴木・三輪)

日時:2015年9月23日(水)11:00-12:30

場所:名古屋国際会議場 1号館7階 展望レストラン「パステル」

内容:シンポジウムの内容について話し合った。

実験材料作成打ち合わせ

(三輪・寺井・服部・織田・西田)

日時:2015年12月7日(月)13:30-16:30

場所:名古屋大学情報科学研究科棟4F407室(三輪研究室)

内容:固着版RATの作成可能性と方法について検討した。

メンバー打ち合わせ

(服部・鈴木・三輪・織田・西田・小田切・横山・小出・市川・松林)

日時:2016年3月3日(木)・4日(金)

場所:立命館大学大阪いばらきキャンパスB棟研究会室1

内容:2015年度の研究成果と今後の方針について話し合った

メンバー打ち合わせ

(服部・鈴木・三輪・織田・西田・小田切・横山・小出・市川)

日時:2017年3月3日(金)・4日(土)

場所:立命館大学大阪いばらきキャンパス C棟C371,B棟研究会室1

内容:2016年度の研究成果と今後の方針について話し合った

メンバー打ち合わせ

(服部・鈴木・三輪・小田切・二宮・下條)

日時:2018年3月27日(火)・28日(水)

場所:立命館大学大阪いばらきキャンパス C棟C371,B棟研究会室3

内容:2017年度の研究成果と今後の方針について話し合った

メンバー打ち合わせ

(服部・鈴木・三輪・小田切・横山・寺井・松林・二宮・下條・織田・西田)

日時:2019年3月26日(火)・27日(水)

場所:立命館大学大阪いばらきキャンパス C棟C272, C271

内容:2018年度の研究成果と今後の方針について話し合った