Cognitive psychology of visual illusions

日本認知心理学会第5回大会(2007年5月26日、27日)・第3回独創賞受賞記念講演
2007年5月27日・京都大学百周年時計台記念館1F百周年記念ホールにて
(Memorial Talk for Akiyoshi's receiving the Award from the Japanese Society for Cognitive Psychology)

北岡 明佳 (Akiyoshi Kitaoka)
立命館大学文学部心理学専攻email
HP

2007/5/23より  左上の絵をクリックしてスタート


錯視とは(What is visual illusion?)

「最適化型」フレーザー・ウィルコックス錯視・タイプ II

「蛇の回転」

蛇の円盤が勝手に回転して見える。

Copyright A.Kitaoka 2003 (September 2, 2003)


「最適化型」フレーザー・ウィルコックス錯視・タイプ III

「伸びるマフラー」

マフラーが左右に拡大するように見える。マフラーの毛糸を節約できるかもしれない。

Copyright Akiyoshi .Kitaoka 2007 (April 16)


Y接合部の錯視

「秋の沼2」

中の領域が動いて見える。垂直・水平のエッジが傾いて見える。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2003 (corrected April 12, 2006)


オオウチ錯視(Ouchi illusion)
(Ouchi, 1977; Spillmann et al., 1986)

The inset appears to move.

Ouchi, H. (1977) Japanese optical and geometrical art. Mineola, NY: Dover.

Spillmann, L., Heitger, F. and Schuller, S. (1986) Apparent displacement and phase unlocking in checkerboard patterns. Paper presented at the 9th European Conference on Visual Perception, Bad Nauheim


関連した学会発表

Kitaoka, A. and Murakami, I. (2007) Rotating Ouchi illusion. Poster presentation in VSS2007, Sarasota, Florida, USA, May 15, 2007. Abstract (MS-Word) VSS2007 Abstract (including all) (PDF) new!


「ダイヤモンドオオウチ錯視」

円の内側が動いて見える。

Copyright Akiyoshi .Kitaoka 2006 (October 3)


ムンカー錯視(Munker illusion)の一種と思われる錯視

「レモン色の渦巻きとクリーム色の渦巻き」

渦巻きにはレモン色のとクリーム色のと2種類あるように見えるが、どちらも同じ黄色(R255, G255, B0)である。

Copyright A.Kitaoka 2005 (May 22)


色の土牢錯視

「水色と黄緑色のハートの絨毯(部分)」

水色のハートと黄緑色のハートがあるように見えるが、どちらも同じ色である。

Copyright Akiyoshi .Kitaoka 2007 (January 10)

cf. Dungeon illusion: Bressan, P. (2001) Explaining lightness illusions. Perception, 30, 1031-1046.


光の錯視

「光るフジツボの詰め合わせ」

白い部分が輝いて見える。さらに、白い部分に暗いものが光って見える。

Copyright Akiyoshi .Kitaoka 2006 (November 17)

参考

北岡明佳 (2007) 光の錯視 (第40回光学五学会関西支部連合講演会・大阪市立大学文化交流センター ホール・平成19年1月27日(土)) HTML(発表用)


明るさの錯視

"Brightness contrast: Miscellaneous 2007"

(a)-(k) The central square in the left half appears to be darker than that in the right one, though they are identical in luminance. (a)-(h) are the new demonstrations. (i) is the standard type. (j) is known (I guess). (k) is the enhanced brightness contrast I presented before. (l) is White's effect, where the central square in the left half appears to be brighter or lighter than that in the right one.

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2007 (February 5)


明るさの錯視(表面色知覚メカニズムのデモを錯視風にしたもの)

「エーデルソンのチェッカーシャドウ錯視風グラデーションの錯視」

C = D である。

Copyright Akiyoshi .Kitaoka 2005 (August 12)

分解して確かめる(MS-Wordファイル)


縁飾りエッジの錯視

「カメの回転」

カメの集団が回転して見える。そのほか、左右に動いて見える錯視や、垂直・水平に並んだエッジが傾いて見える錯視もある。

Copyright Akiyoshi .Kitaoka 2006 (June 19)


市松模様錯視

「膨らみの錯視」

市松模様の床が膨らんでこちらにせり出しているように見えるが、物理的にはすべて正方形で描かれており、感じられる丸みは錯視である。

Copyright A.Kitaoka 1998

Kitaoka, A. (2007) Tilt illusions after Oyama (1960): A review. Japanese Psychological Research, 49, 7-19. PDF request to me


渦巻き錯視

「渦巻きの詰め合わせ」

同心円のリングが渦巻きに見える。ついでに回転して見える。

Copyright Akiyoshi .Kitaoka 2006 (June 13)

Kitaoka, A., Pinna, B., and Brelstaff, G. (2001). New variations of spiral illusions. Perception, 30, 637-646.


文字列が傾いて見える錯視

「安全工学傾き錯視」

「安全工学」文字列は右上がりに見える。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2007 (April 15)

少し動いて見えるような気も・・・


「立命館心理学傾き錯視」

「立命館」文字列は右下がりに見え、「心理学」文字列は右上がりに見える。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2006 (August 7)


「科研交付傾き錯視」

科研交付科研交付科研交付、とMSゴシック体で書くと、水平に字を並べているのに右下がりに見える。付交研科付交研科付交研科、なら右上がりに見える。つまり、上から右下がり、右上がり、右下がり、右上がり、右下がりに見える。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2006 (April 25)


錯視は範囲の取り方が2つある。

1. 狭義の錯視

 メカニズムそのものには機能性のない誤った知覚


2. 広義の錯視

 機能性のある知覚メカニズムの誤動作としての知覚と、狭義の錯視を合わせたもの


「透明に見える山」

中央の山が透明に見える。

Copyright Midori Takashima 2007
高島翠さんより, 2007/5/1

(東京都町田市内の小山馬場谷戸公園付近から西の方角を望む)

北岡明佳のコメント: Adelson-Anandan-Andersonのモデルで言えば、bistable transparency (両義的透明視あるいは二値安定透明視あるいは反転可能透明視)である。

なお、「透明に見える山」の報告はこれが初めてではなく、池田(1993)(関西大学『社会学部紀要』第25巻第1号pp.165-168)によると、大阪府吹田市の一角から遠望した山に見えるとして、写真が載っている。その池田によると、Metzger (1953) に既に載っている。


透明視については、以下を参照されたい。

透明視講義用のプリント

Kitaoka, A. (2005) A new explanation of perceptual transparency connecting the X-junction contrast-polarity model with the luminance-based arithmetic model. Japanese Psychological Research, 47, 175-187. Reprint or PDF request to me


関連した錯視写真

「透明に見えるビル」

中央のビル(クリスタルタワー)が透明に見える。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2007 (May 1)



「透明に見える川」

川が透明に見える。(実際に透明ぢゃー)

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2007 (May 1)

鴨川の上流の高野川です。清流とまでは言えませんが。


例えば、透明視(perceptual transparency)は普段は錯視扱いされないが、上図のように錯視扱いされることもある。それは、錯覚というものが、「実在する対象の特性とは異なる知覚」 であることによる。対象の実在性は実は自明のことではなく、「錯視刺激」を知覚する時に既に用意されている知識あるいはスキーマに依存する。この点が、錯視の認知心理学的性質である。

Illusion refers to the misperception that differs from the properties of a real object. Actually, the reality of an object depends on the knowledge or schema of the observer. This point is one of the important aspects of illusion that require cognitive psychology.


「立命館湖」

立命館大学衣笠キャンパスが水没したように見える。

Copyright A.Kitaoka 2004 (August 14)

ここが水没するようでは京都市街全域水没で~す。もちろん大阪も、神戸も。

実際の風景

「京大湖」

京都大学が水没したように見える。

Copyright A.Kitaoka 2007 (May 24)

実際の写真

錯視本の宣伝 北岡明佳 (2007) "脳を刺激するサイエンスアートブック トリック・アイズ デザイン" カンゼン 好評発売中?

ISBN978-4-901782-96-8  定価 1,714円


北岡明佳(著) 化学同人 B6・196頁・定価 1470円(本体1400円+税) ISBN978-4-7598-1301-2


顔の錯視いろいろ

「さかさま顔の過大視」

上下の顔の大きさは同じであるが、下の方が大きく見える。

Copyright Akiyoshi .Kitaoka 2007 (February 16)

cf. 上視野の過大視、サッチャー錯視


「顔ジャストロー錯視」

同じ大きさの顔であるが、下の方が大きく見える。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2006 (August 4)


「頭の高さの錯視」

右の図ほど頭の高さが高いように見えるが、実際には同じ高さである。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2006 (August 2)


「視線方向の錯視」

向かって左の女の子はこちらを見ているように見えるが、向かって右の女の子は向かって右の方向を見ているように見える。しかし、絵としては、両者とも同じ目である。この錯視を視線方向の錯視(Wollaston, 1824)という。なお、原画は若いお兄さん

Copyright Akiyoshi .Kitaoka 2006 (July 20)

Wollaston, W. H. (1824) On the apparent direction of eye in a portrait. Philosophical Transactions of the Royal Society of London, B114, 247-256. (下記山口先生の解説から孫引き)

山口真美 (2006) 乳児に視線はどう見えるのか? 心理学ワールド, 34(特集・視線とコミュニケーション), 5-8.







「図の大きさによる視線方向錯視」

これらの図は絵としては同じ図で大きさが異なるだけであるが、図が大きい時(上の方の図)、視線はやや下向きのように見えるのに対し、図が小さい時(下の方の図)、視線は前方に向いているように見える。パソコン画面を近くから見るのと遠くから見るのとを比較した場合でも、同じ効果が得られる。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2007 (May 3)

めがねをかけている人は、大きい図をめがねなしで見ると、視線が前方に向いて見える場合がある。Olivia の Hybrid Images (日本では「マリリンシュタイン」の画像で有名)も参照されたい。


「視線方向の錯視2」

画像1では、女の子は上を見ているように見える。マウスを画像に乗せると画像2となり、画像2では女の子はこちらを見ているように見える。しかし、絵としては、顔の輪郭と髪の輪郭以外はすべて同じである。この錯視を視線方向の錯視というかどうかは定かでない。

Copyright Akiyoshi .Kitaoka 2006 (July 21)


ところで

変化の見落としは錯視か?
Is change blindness an illusion?



「変わったのはどこ?」

2枚の画像が切り替わるたびに、1箇所だけ変化する。

Copyright Akiyoshi .Kitaoka 2006 (May 24)




ステレオフューズすれば一発でわかる(該当部分が視野闘争する)。




それでもわからない人向けの動画


変化の見落としは錯視扱いされる傾向にある。 なぜ?
Change blindness tends to be regarded as something like illusion. Why?


"Change blindness is the striking failure to see large changes that normally would be noticed easily" (Simons and Rensink, 2005)



ところで

「不変化の見落とし」は錯視か?
Is "no-change blindness" an illusion?








「変わらないのはどこ?」

Only one image does not change. Which is it?

2枚の画像が切り替わるたびに、8つのうち1つだけ変化しない。それはどこ?

Copyright Akiyoshi .Kitaoka 2007 (May 26)










ブランクなしならすぐわかる。
No change is readily detected without blank.


「不変化の見落とし」は錯視扱いされる傾向にはない。 なぜ?
No-change blindness does not tend to be regarded as something like illusion. Why?


No-change blindness is a failure to see no-change that observers normally would NOT have any idea about.


 観察者が変化の検出を容易であるはずだと認識している場合、変化の見落としは錯視ということになる(実際の知覚としては容易でないから)。一方、「不変化の見落とし」という刺激条件を観察者はあらかじめ想像しないため、錯視扱いされにくい。

 If observers suppose that they should notice the change EASILY, change blindness is an illusion because it is actually difficult to notice (perceive) the change. On the other hand, "no-change blindness" does not tend to be an illusion because observers usually do not imagine the situation.  



話かわって、

オバケは錯視か?
 (Is the apparent motion promoted by motion lines an illusion?)

「瞬間移動2」

瞬間的に移動したように見える。

Copyright Akiyoshi .Kitaoka 2007 ( February 16)

これは岡部望氏(アニメーター)のいうところの「本当のオバケ」のテクニック


Apparent movement with speed lines (motion lines)

Copyright Akiyoshi .Kitaoka 2006 (March 2)


「高速どんぐるりん」

どんぐりの輪が高速に回転して見える。

Copyright Akiyoshi .Kitaoka 2006 (February 16)

普通の「どんぐるりん」↓

+


「蛇のフィギュアスケート」

円盤が高速で回転しているように見える。

Copyright Akiyoshi .Kitaoka 2006 (February 22)


 不自然な画像なら、オバケも錯視扱いかもしれない。

 The apparent motion promoted by motion lines may be regarded as an illusion when the mechanism is used in "artificial" images.


そのような見方の違いだけで錯視となるカテゴリーは今までなかったのだろうか。

広義の錯視の
機能性のある知覚メカニズムの誤動作としての知覚
と言えば、

だまし絵 !

(トロンプルイユ(trompe l'oeil))


1. うかし絵
2. むりな絵
3. かえし絵
4. さかさ絵
5. かくし絵
6. りある絵
7. その他のだまし絵
現代のエスプリ「嘘の臨床・嘘の現場」
仁平義明先生編集・梅田光恵様ご担当
北岡明佳 「だまし絵のつくり方教室」(印刷中) より

1. うかし絵 (陰影による立体感と空間知覚 Shape and space perception from shading and shadowing) → 「トリックアート」によく使われている。

「隠されたジャストローの台形錯視」

上の図の台形が下の図の台形よりも大きく見える(ジャストローの台形錯視)がこれにすぐには気づかないのは、影が物体の空間位置の知覚に及ぼす効果のデモンストレーション(影の位置が違うだけなのだが上図では球が浮いて見える)に注意が取られてしまうためであろう。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2006 (June 29)


2. むりな絵 (不可能図形 impossible figure)

「心的回転実験用不可能図形」

2004/5/8

ペンローズの三角形(Penrose's triangle)

「昼と夜の柱」

面の向きが変わり、図と地も入れ替わる不可能図形である。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2007 (April 24)


3. かえし絵 (反転図形 reversible or ambiguous figure)

古典的な例

「メールボックス」

メールボックスの見えとして、右上から見たもの、右下から見たもの、左上から見たもの、左下から見たものの4つの見えが入れ替わる。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2007 (April 21)

図が左右に拡大して見える錯視もある。

「ルビンの盃・光沢とメガネ付き」

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2007 (April 24)

フィッシュガール(三輪みわ)

シルエット錯視(茅原伸幸)

「マリリンシュタイン」(Marylin Monroe-Einstein hybrid image)(Aude Oliva)


4. さかさ絵 (Upside-down figure)

「おねえさんと怪人」

和洋を問わず昔から人気のある顔の逆さ絵である。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2007 (April 7)

この図は動画です。しばらくお待ち下さい。


5. かくし絵 (Hidden figure)


「十字隠し電球」

右の図に左の図のような十字形が隠れているが、気づくのに時間がかかる。「よい連続の要因」というゲシュタルト心理学の法則を用いた隠し絵。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2007 (April 25)






「クイズ式隠し絵」

この種のクイズは結合探索課題タイプの隠し絵です。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2007 (April 29)

正解はこちら


6. りある絵 (絵なのに本物のように見えるだまし絵 Classic trompe l'oeil) → Virtual reality も含まれるかもしれない。






参考書として、福田繁雄 (2000) 福田繁雄のトリック・アート・トリップ 毎日新聞社 を推薦。


7. その他のだまし絵

7.1 アナモルフォーシス(anamorphosis)

7.2 メタモルフォーシス(metamorphosis)

7.3 ステレオグラム(stereogram)

「秋の沼の波3D」

平行法でも交差法でも図が波打って見える。

Copyright Akiyoshi.Kitaoka 2006 (August 22)

7.4 主観的輪郭と充填(subjective contour and filling-in)

「色光線錯視2」1)

一様な白い背景上を黄色の線が斜めに走って見える。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2001

1) 北岡明佳 (2001) 錯視のデザイン学(7):工学的にはとらえきれない幻の光知覚 日経サイエンス, 31(8), 66-68.

7.5 透明視(perceptual transparency)

「汽車ぽっぽ」

赤い車輪は汽車の手前に見える。

Copyright A.Kitaoka 2004 (12/18)

などなど


まとめ Summary

 錯視の認知心理学的側面を追求すると、だまし絵というカテゴリーの研究となるのかもしれない。

 Trompe l'oeil may be the visual illusion of cognitive psychology.

Thank you !


錯視の参考書

今井省吾 (1984) 錯視図形-見え方の心理学- サイエンス社
大山正・今井省吾・和気典二(編) (1994) 新編 感覚・知覚心理学ハンドブック 誠信書房
後藤倬男・田中平八(編) (2005) 錯視の科学ハンドブック 東京大学出版会
北岡明佳 (2005) トリック・アイズ グラフィックス カンゼン
北岡明佳 (2007) だまされる視覚 錯視の楽しみ方 化学同人


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