2024年5月21日(火)19:00-20:30
立命館アカデミックセンター講座

の錯視をンする

立命館大学総合心理学部 北岡 明佳 email


こんにちは。立命館大学総合心理学部の北岡と申します。錯視の研究(視知覚の研究)をしています。

立命館大学大阪いばらきキャンパス B棟(スタバのある建物)5階にある錯視の廊下



本講義の内容

1. 古典的な錯視いろいろ
2. 静止画が動いて見える錯視いろいろ
3. 明るさ変化による動きの錯視
4. 消える錯視
5. エイムズの部屋とベタ踏み坂
6. 白と黒の縞模様に色が見える錯視など色の錯視
(メインイベント!)

●立命館大学にお越し頂き、まことにありがとうございます。
●近代的な錯視研究は150年以上の歴史がありますが、最近の20年においても大いに進歩しました。
●錯視にはいろいろ種類がありますので、いくつか紹介し、色の錯視について実際に作ってみたりする中で、解説したいと思います。


1. 古典的な錯視いろいろ


古典的な幾何学的錯視の例。(a)ミュラー=リヤー錯視。上下の水平線分は同じ長さであるが、下の方が長く見える。(b)エビングハウス錯視。リングの中の円は左右同じ大きさであるが、大きい円のリングに囲まれた左の円よりも、小さい円のリングに囲まれた右の円の方が大きく見える。(c)ポンゾ錯視。Λや<の頂点に近い方に置かれた対象が大きく見える。具体的には、2本の水平線分は同じ長さだが、上の方が長く見える。2つの円は同じ大きさだが、左の方が大きく見える。(d)ポッゲンドルフ錯視。2つの斜線は一直線上にあるが、右の斜線の方が上方に変位して見える。(e)ツェルナー錯視。垂直より反時計回りに45度傾いた黒い線は互いに平行だが、交互に傾いて見える。交差する短い線との交差角度の過大視の現象である。(f)へリング錯視(湾曲錯視)。水平線分が曲がって見える。上の線分は上に凸、下の線分は下に凸に見える。(g)ミュンスターベルク錯視。白と黒の正方形の列を図のようにずらして配置し、列の境界に線分を描くと、図ではそれらは水平であるが、交互に傾いて見える。本図のように線が灰色の時は、カフェウォール錯視(Café Wall illusion)と呼ばれることが多い。(h)フレーザー錯視。垂直より反時計回りに45度傾いた仮想線に沿って短い斜線の列が描かれているが、列の傾きは短い斜線の傾きの方向に変位して見える。ツェルナー錯視とは逆の錯視である。(i)フレーザー錯視の渦巻き錯視。フレーザー錯視では、傾いて見えるのは線分であるが、傾いて見える対象を円状に配置した時に観察できる錯視である。具体的には、同心円が渦巻きのように見える。


chi03_4L-colorillusion.doc


参考書

後藤倬男・田中平八(編)(2005) 錯視の科学ハンドブック 東京大学出版会

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北岡明佳 (2010) 錯視入門 朝倉書店

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北岡明佳 (2019) イラストレイテッド 錯視のしくみ 朝倉書店

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北岡明佳 (2022) だまされる視覚 錯視の楽しみ方 (文庫本版) 化学同人


北岡明佳著 人はなぜ錯視にだまされるのか? トリック・アイズ メカニズム カンゼン刊

(定価:1,600円(税別) ISBN 978-4-86255-020-0) アマゾンのページ

錯視のメカニズムの解説多し!



2. 静止画が動いて見える錯視いろいろ


「蛇の回転」

円盤が回転して見える。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2003



「竹林」

ゆらゆらして見える。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2014 (January 5)



「エンボスドリフト錯視」
(サイン波型)

内側の正方形領域が動いて見える。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2016 (February 15)


「サクラソウの畑」

背景の市松模様はすべて正方形だが、波打って見える。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2002



3. 明るさ変化による動きの錯視

「扉を開けたまま走る電車」

停車中の電車が右に走行するように見える。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2021 (February 9)

北岡明佳 (2021) 「輝度変化による運動錯視(リバースファイなど)の再検討」 (2021年3月2日(火)15:40~16:20・第15回錯覚ワークショップ(Zoom Webinar)) Presentation (html)




キックバック錯視(kickback illusion)の例

長方形は等速運動しているが、縦線に引っかかってガクガクするように見える。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2021 (August 17)

Howe, P. D. L., Thompson, P. G., Anstis, S., Sagreiya, H., & Livingstone, M. S. (2006). Explaining the footsteps, belly dancer, Wenceslas and kickback illusions. Journal of Vision, 6, 1396–1405. doi: 10.1167/6.12.5

Kitaoka, A. & Anstis, S. (2021). A review of the footsteps illusions. Journal of Illusion, 2, #5612, 1-22. PDF --- Website --- https://doi.org/10.47691/joi.v2.5612 --- Movies and figures


4. 消える錯視

盲点の体験デモ
「モー点」

左の十字を左目をつぶって右目だけで見ていると、視距離によっては牛が消えて見える。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2009 (July 17)


ニニオの消失錯視

12個あるドットを同時に知覚することは困難である。

2009/7/16

Ninio, J. & Stevens, K. A. (2000). Variations on the Hermann grid: an extnction illusion. Perception, 29, 1209-1217.


「色相環の消失」

十字を見ていると、色相環が消えて見える。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2020 (May 24)


「なかなかわからない北岡」

北岡が見えるかも。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2015 (October 7)


「隠れんぼモナちゃん(リザちゃんかも)」

モナリザが見えるかも。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2023 (August 2)

  

暗い画像単独あるいは明るい画像単独なら見えやすい。





自分の顔でやると楽しいかもしれない。

「ワードやパワポでつくる高周波パターンによる隠し絵」


原稿 (クリックしてPDFをダウンロード)



(素材)

画像 (クリックして高解像度ファイルをダウンロード)

(素材)

画像 (クリックして高解像度ファイルをダウンロード)

(素材)

画像 (クリックして高解像度ファイルをダウンロード)



パターン作成プログラム <August 10, 12, 13, 14, 15, 21, September 15, 2022>

  


つくり方実演

加算的色変換と乗算的色変換 <August 2, 2023>

 



5. エイムズの部屋とベタ踏み坂

形の恒常性(shape constancy)・・・台形は奥行き方向に傾いた平面上の長方形に見える。


エイムズの部屋(Ames room)


この坂道はかなりの急勾配に見えるが、6.1%(3.49゜)の勾配である。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2017 (September 8) 大根島より望遠レンズで撮影。カメラは、NIKON P900。撮影日は 2017年9月8日(金)。以下同様。



みんな撮る撮る。



望遠で撮ると、上り坂の形は長方形に近くなり、形の恒常性から視線に対して垂直に近くなる。


6. 白と黒の縞模様に色が見える錯視など色の錯視

本日のメインイベントです!


「錯視的黄色」

右下の円の一部は黄色く見えるが、白と黒の縞模様である。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2021 (June 12)


拡大図




コーラの缶は赤く見えるが、黒と白の縞模様でできている。


拡大図


ムンカー錯視

「水色と黄緑の渦巻き」

水色の螺旋と黄緑の螺旋があるように見えるが、どちらも同じ色(r = 0, g = 255, b = 150) である。この色の錯視はモニエ・シェベル錯視に近いと思うが、彼らの理論には合わないのかもしれない。

Copyright A.Kitaoka 2003


(左)赤いハートがマゼンタ色やオレンジ色のハートに見える。 (右)緑のハートがシアン色や黄緑色のハートに見える。


並置混色とムンカー錯視の対応のデモ



「白黄と青黒」

左のいばらき童子の目は白と黄に見え、右のいばらき童子の目は青と黒に見えるが、その白と青は同じ色(R100, G100, B255)で、その黄と黒も同じ色である(R100, G100, B0)。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2024 (April 17)


「本当の目の色」(何が本当なのやらですが)



「RGBで白と黒」

左の絵の髪と服は白く見え、右の絵では黒く見えるが、同じRGBの縞模様である。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2016 (August 15)

拡大画像


原図


動画表現


cf.

「白と黒」

左の絵の髪と服は白く見え、右の絵では黒く見えるが、同じ輝度の灰色である。左は乗算的色変換(透明変換)、右は加算的色変換(半透明変換)。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2018 (May 28)


「目の色の恒常性錯視 2019」

上列は、左から目の色は、赤、青、水色、下列は、左から緑、黄色に見えるが、下列右の目とほぼ同じ灰色である。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2019 (August 21)


Eyes appear to be chromatic, though they consist of black and white stripes.

上列は、左から目の色は、赤、黄、緑、下列は、左から水色、青、赤紫に見えるが、すべて黒と白の縞模様である。



コーラの缶は赤く見えるが、画素としては赤くない。


色チェック用プログラム

 



RGBでベタ塗りの色作成プログラム

 



sRGB値を各種パラメータに変換あるいは逆変換する変換式一覧

 




コーラの缶は赤く見えるが、黒と白の縞模様でできている。



コーラの缶は青く見えるが、画素としては青くない。


コーラの缶は青く見えるが、黒と白の縞模様でできている。


つくり方実演

ECVP2021 Show Time! 日本語版

 



RGBのヒストグラムの圧縮・伸展プログラム

 



並置混色・フルカラー・3サブピクセル方式 <October 13, 14, 2022>

 



並置混色・フルカラー・2サブピクセル方式 <June 8, 2023>

 


JavaScriptプログラム 


サンプル画像集のサイト 


以下、関連資料

Kitaoka, A. (2023). Spatial color mixing and color illusions. (March 4, 2023, 10:05-10:55, The 4th International Symposium 2023 by the International Research Center for Color Science and Art, Tokyo Polytechnic University) --- Presentation (html) --- Abstract --- PDF (manuscript)

北岡明佳 (2023) 並置混色による色の錯視 (2023年3月3日(金)13:30~14:10 第17回錯覚ワークショップ) Presentation (html)


▶色の恒常性の刺激図形には、少なくとも2種類ある。乗算的色変換(multiplicative color change あるいは 透明変換)あるいは加算的色変換(additive color change: 半透明変換)である。後者は色の錯視を作りやすい。


乗算的色変換


加算的色変換


The hypothesis of "histogram equalization" proposed by Shapiro et al. (2018) can explain these phenomena.

▶ヒストグラム均等化仮説:自然な画像は、すべての画素を調べると、RGB値それぞれ0~255(0%~100%)の全範囲に分布すると仮定する。視覚系は、この点で偏りのある画像が入力されると、それは何らかの要因で信号の分布が圧縮されたものと解釈し、RGB値それぞれが全範囲に分布するように引き伸ばされたものを知覚する。(RGB表色系はカラーディスプレーの規格であって、ヒトの視覚系の表色系と同じとは言えないという問題はある)

Shapiro, A., Hedjar, L., Dixon, E., and Kitaoka, A. (2018). Kitaoka's tomato: Two simple explanations based on information in the stimulus. i-Perception, 9(1), January-February, 1-9. PDF (open access)


Multiplicative color change (standard filtering, e.g. use of a color filter) 

multiplicative color change↓  ↑histogram equalization


Additive color change (alpha blending)

additive color change↓  ↑histogram equalization


▶乗算的色変換も、加算的色変換も、ヒストグラム均等化の逆変換「ヒストグラム圧縮」(histogram compression)である。


additive color change↓  ↑histogram equalization



▶乗算的色変換でも加算的色変換でもない自由なヒストグラム圧縮によって、色の錯視を作ることができる(色の恒常性は機能する)。


histogram compression↓  ↑histogram equalization



電車は青く見えるが、画素の色相は黄色である。


▶静脈は青く見える錯視は、「もともと血管部分が青い画像がヒストグラム圧縮によって皮膚の画像となった」と視覚系が判断(誤認)し、ヒストグラム均等化によって「青」を知覚することで成立する、と説明することができる。


histogram equalization↓  ↑histogram compression


静脈が青く見える錯視
Vein color illusion

Veins appear to be bluish, though the pixels are not.


「静脈錯視:腕」

この手の青く浮き出て見える静脈は物理的には青くなく、彩度の低いオレンジ色であった。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2014 (April 24)

Thanks to MK for your tremendous contribution!



「静脈錯視:腕 2」

青白く撮れた写真の場合でも、この手の青く浮き出て見える静脈は物理的には青くなく、彩度の低い黄色かオレンジ色であった。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2014 (April 24)


Copyright Akiyoshi Kitaoka 2017 (January 24)



▶ランドの二色法*も、同様にヒストグラム均等化説で説明できる。

*Edwin H. Land, E. H. (1959). Color vision and the natural image Part II. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, 45(4), 636–644.


Two-color method (Land's method)

color change with the two-color method (Land's method)↓

histogram equalization↓  ↑multiplicative color change


How to make an image with the two-color method (Land's method)

In image E, the tram appears to be bluish, though all the pixels are reddish.



ご清聴、ありがとうございました!

 


北岡明佳の錯視のページ