第17回錯覚ワークショップ・2023年3月3日
13:40-14:10 並置混色による色の錯視
立命館大学総合心理学部 北岡 明佳 email 2023/2/21 より 抄録
(1)赤く見えるコカコーラの缶
"Illusory reddish Coca-Cola can"
Copyright Akiyoshi Kitaoka 2021 (October 13)
(2)錯視的な黄色
"Illusory yellow"
Illusory yellow is observed in the lower-right disk, but the color is white.
Copyright Akiyoshi Kitaoka 2021 (June 12)
expanded image
Original image
Illusory yellow is perceived. pic.twitter.com/8jgjQglo0v
— Akiyoshi Kitaoka (@AkiyoshiKitaoka) June 12, 2021
(3)RGB縞が白だけでなく黒にも見える錯視
「RGBで白と黒」
左の絵の髪と服は白く見え、右の絵では黒く見えるが、同じRGBの縞模様である。
Copyright Akiyoshi Kitaoka 2016 (August 15)
拡大画像
原図
動画表現
cf.
「白と黒」
左の絵の髪と服は白く見え、右の絵では黒く見えるが、同じ輝度の灰色である。左は乗算的色変換(透明変換)、右は加算的色変換(半透明変換)。
Copyright Akiyoshi Kitaoka 2018 (May 28)
(4)ムンカー錯視
「水色と黄緑の渦巻き」
水色の螺旋と黄緑の螺旋があるように見えるが、どちらも同じ色(r = 0, g = 255, b = 150) である。この色の錯視はモニエ・シェベル錯視に近いと思うが、彼らの理論には合わないのかもしれない。
Copyright A.Kitaoka 2003
(左)赤いハートがマゼンタ色やオレンジ色のハートに見える。 (右)緑のハートがシアン色や黄緑色のハートに見える。
(5)混色には2種類ある
加法混色(左)(ディスプレーなど)と減法混色(右)(印刷など)
加法混色は、「キャンバス」は黒(K)。原色は、赤(R)、緑(G)、青(B)。赤と緑の混色で黄色(Y)が得られ、緑と青の混色でシアン色(C)、青と赤の混色でマゼンタ色(M)が得られる。赤と緑と青を混色すると、白(W)が得られる。
減法混色は、「キャンバス」は白(W)。原色は、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(黄色)(Y)。シアンとマゼンタの混色で青(B)が得られ1、マゼンタとイエローの混色で赤(R)、イエローとシアンの混色で緑(G)が得られる。シアンとマゼンタとイエローを混色すると、黒(K)が得られる2。
1 白から赤を取り除いた色(シアン)と白から緑を取り除いた色(マゼンタ)を合成することで、白から赤と緑を取り除く効果が得られ、青が見える。
2 現在の印刷では、シアンとマゼンタとイエローを混色した時、しまりのある黒が得られないので、別途黒インクが装備されていることが多い。
(6)モザイクと減色による色彩
モザイクは空間的な劣化、減色は色彩的な劣化
オリジナル画像(北海道・相生鉄道公園・2020年10月撮影)
モザイク画像の例(1ブロックは、20 pixel x 20 pixel。減色はナシ)
27色に減色した例(色はRGBそれぞれ3階調。モザイクはナシ)
125色に減色したモザイク画像の例(色はRGBそれぞれ5階調。1ブロックは、10 pixel x 10 pixel)
(7)並置混色には2種類ある
並置混色は、いわばモザイク(点描)+ 減色
オリジナル画像
加法混色画像の例
「減法混色」画像の例
並置混色における加法混色(左)と「減法混色」(右)
「1画素」(1つのブロック)は、3つの要素的画素(subpixel)から成る。加法混色では、キャンバス(背景)は黒で、要素的画素は、赤、緑、青である。「減法混色」では、キャンバス(背景)は白で、要素的画素は、シアン、マゼンタ、イエロー(黄色)である。
加法混色画像の部分を拡大
加法混色画像の部分を拡大
(8)並置混色には、もう1種類ある
RGB加法混色と「CMY減法混色」の中間のような混色画像の例
中間のような混色画像の部分を拡大
左端はRGB加法混色の並置混色、右端はCMY減法混色の並置混色、中央は何と呼べばよいか。とりあえず、「中間混色」ということにしておく。
北岡明佳 (2021) 「新しい並置混色による錯視とVRへの応用」 (2021年9月12日(日)10:30-11:50・第26回日本バーチャルリアリティ学会大会(立命館大学・オンライン)・基調講演1) Presentation (html)
Copyright Akiyoshi Kitaoka 2021 (May 12)
(9)3種類の並置混色を組み合わせることで得られる錯視
「RGBで白と黒」
左の絵の髪と服は白く見え、右の絵では黒く見えるが、同じRGB(赤・緑・青)の縞模様である。
Copyright Akiyoshi Kitaoka 2021 (May 10)
「CMYで白と黒」
左の絵の髪と服は白く見え、右の絵では黒く見えるが、同じCMY(シアン・マゼンタ・イエロー)の縞模様である。
Copyright Akiyoshi Kitaoka 2021 (May 10)
(10)「中間」の並置混色の別バージョン
「左右の絵は何かが違います。何でしょう」
拡大してみると、構成している縞の色が異なる。
Copyright Akiyoshi Kitaoka 2021 (May 18)
拡大図
Copyright Akiyoshi Kitaoka 2021 (May 19)
3種類(1種類は2タイプから成るので、合計4種類)の並置混色
Copyright Akiyoshi Kitaoka 2021 (May 19)
(11)ここまでのまとめ
RGB加法混色の並置混色と「CMY減法混色」の並置混色は、仮称「中間混色」の並置混色(すべて鮮やかな色で構成される並置混色)を介して連続している。RGB加法混色の並置混色のサブピクセルにそれぞれ100%のRGBを加法混色すると「中間混色」の並置混色となり、それに同様に加法混色をすると「CMY減法混色」の並置混色となる。
(12)並置混色は、3つの原色のうち2つを加法混色することで、2つのサブピクセルに縮減できる。
RとGを加法混色して、一つの縞に統合した並置混色図
拡大図
GとBを加法混色して、一つの縞に統合した並置混色図
拡大図
BとRを加法混色して、一つの縞に統合した並置混色図
拡大図
(13)サブピクセル2つの並置混色でも、さらに白色1つ分の加法混色をする余地がある。
RとGを加法混色して、一つの縞に統合したところにBを、Bの縞にRとG(すなわち黄)をそれぞれ加法混色した。
拡大図
cf. 元画像(再掲)
GとBを加法混色して、一つの縞に統合したところにRを、Rの縞にGとB(すなわちシアン)をそれぞれ加法混色した。
拡大図
cf. 元画像(再掲)
BとRを加法混色して、一つの縞に統合したところにGを、Gの縞にBとR(すなわちマゼンタ)をそれぞれ加法混色した。
拡大図
cf. 元画像(再掲)
左の絵の髪と服は白く見え、右の絵では黒く見えるが、青と黄色の縞模様である。
左の絵の髪と服は白く見え、右の絵では黒く見えるが、赤とシアン色の縞模様である。
左の絵の髪と服は白く見え、右の絵では黒く見えるが、緑とマゼンタ色の縞模様である。
左の絵の髪と服は白く見え、右の絵では黒く見えるが、黒と白の縞模様である。
Copyright Akiyoshi Kitaoka 2023 (February 22)
(14)青と黄と黒あるいは白の縞で表現する赤
昔の国鉄のディーゼル急行の窓まわりが赤く見える。赤く見えるところは、青と黄と黒の縞でできている。
昔の国鉄のディーゼル急行の窓まわりが赤く見える。赤く見えるところは、青と黄と白の縞でできている。
つくり方実演
Spatial color mixing with three color lanes <October 13, 14, 2022>
(15)黒と白の縞で表現する赤のつくり方
つくり方実演
Spatial color mixing with two color lanes <September 25, 26, 27, October 13, 2022>
"Illusory reddish Coca-Cola can"
Copyright Akiyoshi Kitaoka 2021 (October 13)
(16)錯視的黄色のつくり方
「錯視的黄色」
右下の円の一部は黄色に見えるが、黒と白の縞模様である。
Copyright Akiyoshi Kitaoka 2021 (June 12)
つくり方実演
Spatial color mixing with two color lanes <September 25, 26, 27, October 13, 2022>
「錯視黄光背のハート」
錯視的黄色がハートの周囲に見える。
Copyright Akiyoshi Kitaoka 2020 (March 28) (uploaded July 10, 2020)
(17)ムンカー錯視と並置混色の連続性
ムンカー錯視(Munker illusion)
黄と青の縞の青部分に赤を乗せるとオレンジ色に見え、黄部分に赤を乗せると赤紫がかって見える。緑を乗せるとそれぞれ黄緑と青緑に見える。高空間周波数図形で錯視量が多い。
Munker, H. (1970) Farbige Gitter, Abbildung auf der Netzhaut und übertragungstheoretische Beschreibung der Farbwahrnehmung. München: Habilitationsschrift.
「4種類の色の錯視の作り方」
物理的に同じ色(R=255, G=0, B=127)のハートが錯視によってピンクとオレンジのハートに見える。左から、ムンカー錯視(Munker illusion)、色の土牢錯視(chromatic dungeon illusion)、ドット色錯視(dotted color illusion)、デヴァロイス・デヴァロイス錯視(De Valois-De Valois illusion)である。 上図の高解像度ファイルはこちら(8000 x 3262 pixel, 10MB)。
Copyright Akiyoshi Kitaoka 2009 (June 1)
References
Munker illusion | Munker, H. (1970) Farbige Gitter, Abbildung auf der Netzhaut und übertragungstheoretische Beschreibung der Farbwahrnehmung. Habilitationsschrift, Ludwig-Maximilians-Universität, München. |
chromatic dungeon illusion | For the dungeon illusion: Bressan, P. (2001) Explaining lightness illusions.
Perception, 30, 1031-1046. Kitaoka (2007) http://www.psy.ritsumei.ac.jp/~akitaoka/saishin22e.html |
dotted color illusion | For the dotted brightness illusion: White, M. (1982) The assimilation-enhancing effect of a dotted surround upon a dotted test region. Perception, 11, 103-106. Kitaoka (2008) http://www.psy.ritsumei.ac.jp/~akitaoka/color10e.html |
De Valois-De Valois illusion | De Valois, R. L. and De Valois, K. K. (1988) Spatial Vision. New York: Oxford University Press. |
北岡明佳 (2012) 色の錯視いろいろ (4) 簡単で錯視量の多い色相の錯視図形の作り方 日本色彩学会誌, 36(1), 45-46. PDF(スキャンコピー) <配布資料>
「標準的なムンカー錯視」
左のハートは赤紫に見え、右のハートはオレンジ色に見えるが、同じ赤である。
Copyright Akiyoshi Kitaoka 2015 (June 2)
Copyright Akiyoshi Kitaoka 2016 (March 21)
下図は拡大画像
Copyright Akiyoshi Kitaoka 2016 (March 21)
「加法混色の並置混色によるムンカー錯視の説明図」
Copyright Akiyoshi Kitaoka 2016 (March 22)
「減法混色の並置混色によるムンカー錯視の説明図」
Copyright Akiyoshi Kitaoka 2016 (March 22)
Copyright Akiyoshi Kitaoka 2017 (November 27)
(18)ムンカー錯視と並置混色の関係一覧
画像をクリックすると、画像が拡大します。
(19)ムンカー錯視の考察
ムンカー錯視(の一部)は、2サブピクセルタイプの並置混色の原色に注目し、それと並置混色によって知覚される色と比較することで、「実際の色と知覚される色が異なる」という錯視の文脈で認識された現象と考えられる。
(20)総合的考察
色は適切な3色を選べば、混色によって多彩な色を表現できる。PC、スマホ、テレビ等のディスプレイでは、赤・緑・青(RGB)の3色を原色として、空間的に並置されたサブピクセルとして採用している(並置混色)。これらのサブピクセルは弁別閾以下の細かさで実装されているが、要素がわかるような大きさで表現しても、一定の範囲内であれば元の画像を知覚できる。この条件で、サブピクセルに他の原色を加法混色させるという新しい技法を導入することで、色の錯視のいくつか(ムンカー錯視や新しい色の錯視群)を一連の現象として説明できることがわかった。
ご清聴、ありがとうございました!
おしまい
北岡明佳 (2019) "Color illusion and histogram equalization" 第13回錯覚ワークショップ (2019年2月26日(火)16:30-17:00 ・ 明治大学中野キャンパス6階セミナー室3) Presentation (html)
参考 抄録の図
元の画像