立命館大学文学部心理学専攻 北 岡 明 佳

2011年1月6日より  顔認知2010ハンドアウト


1. アイシャドーによる視線方向の錯視

1.1 暗いアイシャドーによる視線方向の錯視(対比的効果)


すっぴんの顔がこうだとする。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2010

左上の顔は上向きの視線に、右上は下向き、左下は向かって左向きの視線に、右下は向かって右向きの視線に相対的に変位して見える。すなわち、視線方向は付けたアイシャドーとは反対の方向に変位して見える。



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この錯視を起こすためにはベタ塗りでよい。グラデーションに描かなくてもよい。





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両眼にそれぞれ上下にアイシャドーを付けると、どこを見ているかわからない顔になる。一方、両眼の耳側にアイシャドーを付けると寄り目に見え、鼻側に付けると開散した目に見える。目の相対的位置が変わって見える幾何学的錯視も起きる。


1.2 明るいアイシャドーによる視線方向の錯視(同化的効果)


すっぴんの顔がこうだとする。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2010

左上の顔は上向きの視線に、右上は下向き、左下は向かって左向きの視線に、右下は向かって右向きの視線に相対的に変位して見える。すなわち、視線方向は付けたアイシャドーの方向に変位して見える。


1.3 暗いアイシャドーと明るいアイシャドーによる視線方向の錯視の合成

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左上の顔は上向きの視線に、右上は下向き、左下は向かって左向きの視線に、右下は向かって右向きの視線に相対的に変位して見える。すなわち、視線方向は暗いアイシャドーとは反対方向に、明るいアイシャドーとは同方向に変位して見える。

肌と白目の間の輝度コントラストが相対的に低い側に視線方向が変位して見える錯視であるとも言える。


2. アイラインによる視線方向の錯視

2.1 暗いアイラインによる視線方向の錯視(同化的効果)

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2010

左上の顔は上向きの視線に、右上は下向き、左下は向かって左向きの視線に、右下は向かって右向きの視線に相対的に変位して見える。上下は筆者には弱い同側変位だが、左右は反対側変位と一貫していない。


2.2 明るいアイラインによる視線方向の錯視(対比的効果)

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2010

左上の顔は上向きの視線に、右上は下向き、左下は向かって左向きの視線に、右下は向かって右向きの視線に相対的に変位して見える。上下は筆者には弱い反対側変位だが、左右は反対側変位に見えたり、同側変位に見えたりする。


2.3 暗いアイラインと明るいアイラインによる視線方向の錯視の合成

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2010

左上の顔は上向きの視線に、右上は下向き、左下は向かって左向きの視線に、右下は向かって右向きの視線に相対的に変位して見える。


3. まつげによる視線方向の錯視

3.1 暗いまつげによる視線方向の錯視(対比的効果)

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2011 (January 6)

左上の顔は上向きの視線に、右上は下向き、左下は向かって左向きの視線に、右下は向かって右向きの視線に相対的に変位して見える。すなわち、視線方向は付けたまつげとは反対の方向に変位して見える。「暗いアイシャドーによる視線方向の錯視」を弱くしたような効果である。左右方向の錯視(下2つ)はそれなりに錯視量が多いかもしれない。


3.2 明るいまつげによる視線方向の錯視(同化的効果)

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2011 (January 6)

左上の顔は上向きの視線に、右上は下向き、左下は向かって左向きの視線に、右下は向かって右向きの視線に相対的に変位して見える。すなわち、視線方向は付けたまつげの方向に変位して見える。「明るいアイシャドーによる視線方向の錯視」の効果を弱くしたような錯視である。


3.3 暗いまつげと明るいまつげによる視線方向の錯視の合成

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2011 (January 6)

左上の顔は上向きの視線に、右上は下向き、左下は向かって左向きの視線に、右下は向かって右向きの視線に相対的に変位して見える。すなわち、視線方向は暗いまつげとは反対方向に、明るいまつげとは同方向に変位して見える。「暗いアイシャドーと明るいアイシャドーによる視線方向の錯視の合成」の効果を弱くしたような錯視である。


4. 白目の輝度勾配の効果(充血錯視)

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2010

左上の顔は上向きの視線に、右上は下向き、左下は向かって左向きの視線に、右下は向かって右向きの視線に相対的に変位して見える。すなわち、視線方向は白目を暗くした方向に変位して見える。

下2つ(左右方向の錯視)は、輝度に誘導された視線方向のずれ効果(luminance-induced gaze shift)あるいは充血錯視(bloodshot illusion)(Ando, 2002)の図である。上2つ(上下方向の錯視)はおそらく筆者のオリジナル。

Ando, S. (2002). Luminance-induced shift in the apparent direction of gaze. Perception, 31, 657-674.


5. 顔の向きの効果(ウォラストン錯視)

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2010

左上の顔は上向きの視線に、右上は下向き、左下は向かって左向きの視線に、右下は向かって右向きの視線に相対的に変位して見える。すなわち、視線方向は顔の向きの方向に変位して見える。なお、目は4顔すべてで同じに描いてある。

この錯視を視線方向の錯視(Wollaston, 1824)という。なお、原画は若いお兄さん。上2つ(上下方向の錯視)はおそらく筆者のオリジナル。

Wollaston, W. H. (1824) On the apparent direction of eye in a portrait. Philosophical Transactions of the Royal Society of London, B114, 247-256. (下記山口先生の解説から孫引き)

山口真美 (2006) 乳児に視線はどう見えるのか? 心理学ワールド, 34(特集・視線とコミュニケーション), 5-8.


6. メガネ・ウォラストン錯視

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2011 (January 6)

左上の顔は上向きの視線に、右上は下向き、左下は向かって左向きの視線に、右下は向かって右向きの視線に相対的に変位して見える。すなわち、視線方向はメガネの位置の方向に変位して見える。



Copyright Akiyoshi Kitaoka 2010

「メガネ」の位置を操作することでジョヴァネッリ錯視やミュラー・リヤー錯視の仲間の幾何学的錯視(位置の錯視、大きさの錯視)を示すことができる。しかし、この図では視線方向は変わって見えない。


7. 逆メガネ・ウォラストン錯視

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2010

左上の顔は上向きの視線に、右上は下向き、左下は向かって左向きの視線に、右下は向かって右向きの視線に相対的に変位して見える。すなわち、視線方向はメガネの中心が目の中心からズレた方向と反対方向に変位して見える。黒目がちな人に起こる。


8. 目の枠の中の虹彩の位置の効果

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2010

左上の顔は上向きの視線に、右上は下向き、左下は向かって左向きの視線に、右下は向かって右向きの視線に相対的に変位して見える。すなわち、視線方向は黒目(虹彩)の中心が目の枠の中心からズレた方向に変位して見える。あたりまえと言えばあたりまえ。本図では、黒目の位置は顔の輪郭内で一定にしてある(目の枠の位置が異なっている)。


9. 虹彩の中の瞳孔の位置の効果

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2010

左上の顔は上向きの視線に、右上は下向き、左下は向かって左向きの視線に、右下は向かって右向きの視線に相対的に変位して見える。すなわち、視線方向は瞳孔の中心が虹彩の中心からズレた方向に変位して見える。目の青い人に起こる。


10. プルキンエ・サンソン像の位置の効果

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2010

左上の顔は上向きの視線に、右上は下向き、左下は向かって左向きの視線に、右下は向かって右向きの視線に相対的に変位して見える。すなわち、視線方向はプルキンエ・サンソン像(目の光点)が虹彩の中心からズレた方向に変位して見える。


11. 形の恒常性の効果

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2011 (January 6)

左上の顔は上向きの視線に、右上は下向き、左下は向かって左向きの視線に、右下は向かって右向きの視線に相対的に変位して見える。すなわち、視線方向は絵を台形状に変形することで知覚される絵の法線方向に変位して見える。


12. 渡辺錯視

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2010 (November 23)

特定の位置関係においては、視線は目の枠の中心と黒目を結ぶ線上からずれて見える。基礎生物学研究所の渡辺英治准教授が2010年に発見。


北岡明佳 (2010) 顔の錯視の探索的研究―視線方向の錯視いろいろ (学際的研究による顔認知メカニズムの解明・第2回領域班会議・沖縄県那覇市沖縄県市町村自治会館・2010年12月23日(金)~24日(金)・口頭発表は24日、ポスター発表は両日) 発表に使用したウェブページ

北岡明佳 (2010) 顔の錯視について 日本顔学会ニューズレター, 43, 2.

Kitaoka, A. (2010) Face illusions. Talk in the symposium "Multiphasic approaches to elucidate face perception", Japanese Psychological Association, the 74th Conference, September 20, 2010, 15:30-17:30, Osaka University. Presentation (html)

北岡明佳 (2009) 「顔の錯視研究の最前線?」 (文部科学省科研費新学術領域「学際的研究による顔認知メカニズムの解明」・2009年度第1回心理班研究会・「錯視と顔認知」・立命館大学衣笠キャンパス・恒心館729教室・2009年12月13日(日)発表) 発表に使用したウェブページ

北岡明佳 (2009) 「顔の錯視の探索的研究」 (新学術領域研究「学際的研究による顔認知メカニズムの解明」】・平成21年度第1回領域班会議 ウェルシティ札幌・2009年8月19日(口頭)・20日(ポスター)) 発表に使用したウェブページ


 北岡明佳の錯視のページ