東北大学電気通信研究所共同プロジェクト研究
第一回 色覚科学研究会・東北大学電気通信研究所・2007年9月20日〜21日
2007年9月21日(金)発表

引き算による

北 岡  明 佳 立命館大学文学部心理学専攻

Since September 18, 2007


「武田信玄」

薄い黄色と濃い青色の渦巻きがあるように見えるが、左半分は白(R=255, G=255, B=255)と黒(R=0, G=0, B=0)であるのに対し、右半分は黄(R=255, G=255, B=0)と青(R=0, G=0, B=255)である。

Copyright Akiyoshi .Kitaoka 2007 (March 12)

「風林火山」

「武田信玄」の白黒黄青と同じであるが、この図では違いがはっきりわかる。

Copyright Akiyoshi .Kitaoka 2007 (March 12)

→ ムンカー錯視(色のホワイト効果)


「水色と黄緑色のハートの絨毯(部分)」

水色のハートと黄緑色のハートがあるように見えるが、どちらも同じ色である。

Copyright Akiyoshi .Kitaoka 2007 (January 10)



「黄と白のハート」

黄色のハートと白のハートがあるように見えるが、物理的には同じ黄色である。*

*物理的には黄色、という表現は、厳密に言えば心理学的ではないなあ・・・

Copyright Akiyoshi .Kitaoka 2007 (January 10)

→ 色の土牢錯視


「ぐるぐる 3」

それぞれの同心円の内側の4つのリングは同じ色であるが、違う色に囲まれると異なって見える。画面から離れてみた方が効果が大きい。

Copyright Akiyoshi .Kitaoka 2007 (January 15)

「ぐるぐる 6」

それぞれの同心円の内側の4つのリングは同じ色であるが、違う色に囲まれると異なって見える。画面から離れてみた方が効果が大きい。

Copyright Akiyoshi .Kitaoka 2007 (January 15)

→ 遠隔色対比と逆方向の色の同化


 錯視とは

錯視(visual illusion)とは、視覚性の錯覚のことである。「目の錯覚」と呼んでもOKであるが、錯視の多くは目ではなく脳で起こると考えられる。また、錯視と言う場合は、錯覚のうち比較的低次なものを指すことが多い。


錯視の分類
1. 形の錯視(幾何学的錯視) カタログ 専門書
2. 明るさの錯視  カタログ 
3. 色の錯視  カタログ(配布資料) 
4. 動きの錯視  静止画が動いて見える錯視のカタログ

(5. 立体視の錯視)
(6. 視覚的補完の錯視) カタログ
(7. だまし絵)
錯視のカタログのページ
錯視のカタログのある本
関連する知覚心理学の本
北岡の最新刊「だまされる視覚 錯視の心理学」

 1. 色の対比
 2. 色の同化
 3. 彩度対比
 4. ムンカー錯視
 5. 色の土牢錯視
 6. 遠隔色対比・遠隔色同化
 7. ネオン色拡散
 8. 表面色知覚による色の錯視
 9. 色立体視(進出色・後退色)
10. ベンハムのコマ(フェヒナー色)
11. 色が変わる錯視
12. 他の錯視に及ぼす色の効果
   
色が動く錯視に及ぼす効果(ロレアル賞受賞記念講演)
参考 色彩学会2005年シンポジウムの発表

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前回の打ち合わせの発表:

北岡明佳 (2007) 色の錯視 (東北大学電気通信研究所共同プロジェクト研究「視覚の統合処理過程の解明とその応用」・打ち合わせ講演会、2007年3月5日(月)17:00-18:00)  HTML(発表用)


キルシュマンの法則(色の対比の法則) (2009年3月5日修正、Graham and Brown (1965) からの抄訳)
(1)誘導領域(取り囲む領域)と比較してテスト領域(ターゲット領域)が小さければ小さいほど、色の対比は大きい。

(2)色の対比は2つの領域が離れていても起こる。しかし、離れれば離れるほど対比の効果は減少する。

(3)色の対比の量は誘導領域の面積によって異なる。

(4)色の対比は、明るさの対比がないか少ないところで最大となる。 (第3法則と呼ばれる)

(5)明るさが同じならば、色の対比は誘導する色の飽和度(彩度)に影響される。


---(以下、トーク時の文面)

キルシュマンの法則(色の対比の法則)
1. 誘導領域に比較して検査領域が小さいほど色の対比は大きい。

2. 色の対比は誘導領域と検査領域が離れていても生じるが、その間隔が大きくなるほど効果は小さくなる。

3. 明るさの対比が少ない時に、色の対比の効果は大きい。

4. 誘導領域が大きいほど色の対比の効果は大きい。(法則3と4は入れ替わっている場合がある)

5. 明るさが等しいとき、誘導領域の彩度が高い方が色の対比の効果は大きい。

---(ここまで)


Graham, C. H. and Brown, J. L. (1965) Color contrast and color appearance: Brightness constancy and color constancy. In C. H. Graham (Ed.), Vision and visual perception, New York: John Wiley & Sons (pp 452-478). (In this paper, the third and fourth laws are exchanged)

Kirschmann, A. (1891) Ueber die quantitativen Verhältnisse des stimultanen Helligkeits- und Farben-Contrastes. Philosophische Studien, 6, 417-491.

Yund, E. W. and Armington, J. C. (1975) Color and brightness contrast effects as a function of spatial variables. Vision Research, 15, 917-929.

法則3には否定的見解が出ている。
Kinney, J. A. S. (1962) Factors affecting induced colors. Vision Research, 2, 503-525.
Oyama, T. and Hsia, Y. (1966) Compensatory hue shift in simultaneous color contrast as a function of separation between inducing and test fields. Journal of Experimental Psychology, 71, 405-413.
しかし、

「入学式」

灰色で描いたサクラの花びらに、色が付いて見える。

Copyright Akiyoshi .Kitaoka 2007 (March 2)

図にカーソルを載せると、花びらは灰色であることがわかる。


 ムンカー錯視       

黄と青の縞の青部分に赤を乗せるとオレンジ色に見え、黄部分に赤を乗せると赤紫がかって見える。緑を乗せるとそれぞれ黄緑と青緑に見える。高空間周波数図形で錯視量が多い。

Munker, H. (1970) Farbige Gitter, Abbildung auf der Netzhaut und übertragungstheoretische Beschreibung der Farbwahrnehmung. München: Habilitationsschrift.

ムンカー錯視のページ



cf. ホワイト効果

White, M. (1979) A new effect on perceived lightness. Perception, 8, 413-416.

White, M. (1981) The effect of the nature of the surround on the perceived lightness of gray bars within square-wave test gratings. Perception, 10, 215-230.


 色の土牢錯視   


土牢錯視(dungeon illusion)(Bressan, 2001)とは?

左の「牢屋」の灰色のダイヤモンド形は右のよりも明るく見えるが、物理的には同じ明るさである。

Bressan, P. (2001) Explaining lightness illusions. Perception, 30, 1031-1046.


色の土牢錯視とは?

左の「牢屋」のダイヤモンド形はオレンジ色に、右のは少し紫がかった赤に見えるが、物理的には同じ色である。

引用文献は調査中(ないかもしれない)

色の土牢錯視は雰囲気はムンカー錯視だが、普通に色の同化で説明することも可能だし、ゲシュタルト要因を考えて色の対比というのもあるのかもしれない。・・


 遠隔色対比   

赤い線がある程度青い線より離れたところに置かれると、青の補色の黄色味がかって見える。黄色の線の間に置かれると黄の補色の青味がかって見える。

北岡明佳 (2001) 錯視のデザイン学(6)・色彩知覚の知られざる不安定性 日経サイエンス, 31(7), 128-129.




遠隔色対比は下図のような配置でもOK


 逆方向の色の同化   


 遠隔色対比と逆方向の色の同化の協調   


ここから本題


(a) ムンカー錯視の標準形


(b) aで、上下の領域は必要か?


(c) aの黄と青に、赤を1当量混ぜてみたところ

 誘導縞はオレンジとマゼンタ


(d) aの黄と青に、緑を1当量混ぜてみたところ

 誘導縞は黄緑とシアン


(e) cの赤と緑を、黄と青に置き換えたもの


(f) cの赤と緑を、白と黒に置き換えたもの


(g) dの赤と緑を、黄と青に置き換えたもの


(h) dの赤と緑を、白と黒に置き換えたもの


(i) 被誘導色を誘導色の平均と反対の色にすると錯視量が多い


(j) eとfのオレンジを赤に置き換えたもの

      

 誘導縞は赤とマゼンタ


(k) gとhの黄緑を緑に置き換えたもの

      

 誘導縞は緑とシアン


(l) 赤とシアンを誘導すると予想される配置

 誘導縞は赤とシアン


(m) マゼンタと緑を誘導すると予想される配置

 誘導縞はマゼンタと緑


(m) 黄と青を対比のみで誘導すると予想される配置

 誘導縞は青と黒(上)、黄と白(下)


ところで、ネオン色拡散

色の十字の周りがパッチ状に同色に色づいて見える。

Varin, D. (1971) Fenomeni di contrasto e diffusione cromatica nell'organizzazione spaziale del campo percettivo. Rivista di Psicologia, 65, 101-128.

Van Tuijl, H. F. J. M. (1975). A new visual illusion: Neonlike color spreading and complementary color induction between subjective contours. Acta Psychologica, 39, 441-445.

Redies, C. and Spillmann, L. (1981). The neon color effect in the Ehrenstein illusion. Perception, 10, 667-681.


「黄ばみ3点セット」

格子の中央部分が黄ばんで見える。しかし、これらの図には黄色は使っていないし、輝度条件から考えるとネオン色拡散が起こる位置が逆である。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2007 (June 23)

References:

Van Tuijl, H. F. J. M. (1975). A new visual illusion: Neonlike color spreading and complementary color induction between subjective contours. Acta Psychologica, 39, 441-445.

Sohmiya, S. (2005) Explanation for neon color effect in achromatic line segments on chromatic inducers based on the multiple interprertation hypothesis. Perceptual and Motor Skills, 101, 267-282.


そのほか、水彩効果

「謎の水彩効果」

回廊部分が薄い黄色に色づいて見える。しかし、これらの図には黄色は使っていないし、輝度条件から考えると水彩効果が起こる位置が逆である。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2007 (June 23)

水彩効果(watercolor effect)あるいは水彩錯視(watercolor illusion):

Pinna, B., Brelstaff, G., and Spillmann, L. (2001) Surface color from boundaries: a new ‘watercolor’ illusion. Vision Research, 41, 2669-2676.


ご清聴、ありがとうございました。


立命館大学
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