東京大学・公開シンポジウム
イリュージョン ― 錯覚から知る心と脳の働き
2005年8月6日(土)

北岡 明佳 (立命館大学)

since August 4, 2005


「蛇の回転」

蛇の円盤が勝手に回転して見える。

Copyright A.Kitaoka 2003 (September 2, 2003)

説明(強化型フレーザー・ウィルコックス錯視) (PDF file)

蛇の回転のページ


「どんぐりふぶき」

外側のどんぐりの環が拡大するように見える。縮小や回転あり。

Copyright A.Kitaoka 2004 (April 20)


「ローラー」

ローラーが回転しているように見える。

Copyright A.Kitaoka 2004 (April 20, 2004)

子供のころ、洗濯機にはこんなのがついていた。(年齢がバレる)


「周辺ドリフト錯視」基本図形

説明(強化型フレーザー・ウィルコックス錯視) (PDF file)


静止画が動いて見える錯視の分類(一覧表HTML)

静止画が動いて見える錯視の分類(総説HTML)


わかること・その1 視覚的位置の情報処理と視覚的運動の情報処理の乖離

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仮現運動 (かげんうんどう)(apparent movement)

QuickTime(mov)

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運動残効
(motion aftereffect)

MAE01.mov

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リバーストファイ運動
(reversed phi movement)

Flash(swf) --- QuickTime(mov)

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運動視を司る領域と考えられる MT+ 野
(この図ではMT/V5)

from: Logothetis, N.K. (1999). Vision: a window on consciousness. Scientific American (November), 281, 44-51.


わかること・その2 運動視のゲシュタルト(高次の心理学的要素)の種類

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直進運動

「提灯の詰め合わせ」

中の提灯が右に動いて見える。

Copyright A.Kitaoka 2005 (August 4)
(2004年8月3日の作品)

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回転運動

「ブラウン運動」

うごめいて見える。

Copyright A.Kitaoka 2004 (April 17, 2004)

高校生のみなさんへ: 本当のブラウン運動(Brownian motion)はこんなのではありません。


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拡大・縮小運動

「拡大ハンカチ」

ハンカチが近づいてくるように見える。

Copyright A.Kitaoka 2004 (5/1)

「縮小ハンカチ」

ハンカチが遠ざかっていくように見える。

Copyright A.Kitaoka 2004 (5/1)

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波の運動

「コメの波」

波打って見える。

Copyright A.Kitaoka 2004 (5/1)

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粘性の高い流動体の運動

「高粘性流動体」

粘り気の高い流動体が動くように見える。

Copyright A.Kitaoka 2005 (4/18)

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かげろう運動

「海底3」

ゆらゆら見える。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2005 (April 18)

下図は違う錯視だけど・・・

「海底2」

ゆらゆら見える。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2005 (April 15)


わかること・その3 不随意眼球運動(?)の個人差

1. 意図的にこの錯視を停止することができる(目を動かさないようにする)。 試す

2. 固視微動は関係あるらしい。

Murakami, I, Kitaoka, A. and Ashida, H. (投稿中) A positive correlation between fixation instability and the strength of illusory motion in a static display.

3. 年齢が高くなると、この錯視が見えなくなる確率が高くなるらしい。 VSS2005での調査

朝日新聞連載中

最後に、

●「周辺ドリフト錯視」は周辺ドリフト錯視(peripheral drift illusion)ではなかった


この何もしなくても動いて見える錯視を最初に報告したのは、Fraser and Wilcox (1979) と考えられる。

Fraser, A. and Wilcox, K. J. (1979) Perception of illusory movement. Nature, 281, 565-566.


次の研究論文は、20年後の Faubert and Herbert (1999) と私(北岡)は思った。彼らは、このような図で回転して見える錯視を「周辺ドリフト錯視」(peripheral drift illusion)と名づけた。

Faubert, J. and Herbert, A. M. (1999) The peripheral drift illusion: A motion illusion in the visual periphery. Perception, 28, 617-621.


続く論文は、Naor-Raz and Sekuler (2000) と考えられる。

Naor-Raz, G. and Sekuler, R. (2000) Perceptual dimorphism in visual motion from stationary patterns. Perception, 29, 325-335.


さらに続く論文が、Kitaoka and Ashida (2003) である。

Kitaoka, A. and Ashida, H. (2003) Phenomenal characteristics of the peripheral drift illusion. VISION (Journal of the Vision Society of Japan), 15, 261-262

この論文で、「周辺ドリフト錯視」の錯視量を大いに増強する法則を見つけた、つもりであった。


ところが

周辺ドリフト錯視とは、まばたきする時に瞬間的に起こる錯視的運動のことであって、ゆっくり動いて見える錯視とは別物であることに、最近私(北岡)は気づいた。単なる私の勘違いである。

本文1ページ目に方法が書いてあった。下記黄色マーク部分が重要な箇所である。


暫定的結論

「蛇の回転」などの基本錯視は「周辺ドリフト錯視」ではなく、「フレーザー・ウィルコックス錯視」(Fraser-Wilcox illusion)と呼ぶべきということのようである。


何もわかっていない。


すべての責任は論文を読み間違えた私(北岡)にあるので、訂正作業をするとともに、両錯視の現象とメカニズムをこれから明らかにしなければならない。


新著「トリック・アイズ グラフィックス」の中では、図の説明やカタログに「周辺ドリフト錯視」っていっぱい書いちゃったなあ・・・

北岡明佳 (2005) トリック・アイズ グラフィックス 東京:カンゼン / Kitaoka, A. (2005) Trick Eyes Graphics. Tokyo: Kanzen.


周辺ドリフト錯視改めフレーザー・ウィルコックス錯視の基本図形と思われるもの・その1

左は反時計回り・右は時計回りに回転して見える。


周辺ドリフト錯視改めフレーザー・ウィルコックス錯視の基本図形と思われるもの・その2

左は時計回り・右は反時計回りに回転して見える。


本当の周辺ドリフト錯視の図?

まばたきを連続してすると、中の列が右に動いて見える?

私(北岡)は、目を細めて見ると、中の列が右に寄って見える。


まばたき時の見えのシミュレーション・その1

どうでしょうか?


まばたき時の見えのシミュレーション・その2

どうでしょうか?


まばたき時の見えのシミュレーション・その3

どうでしょうか?


結論

くわい。


北岡明佳の錯視のページ