さかさま顔の過大視               と                      仁和寺の仁王さん

立教大学・新座キャンパス6号館・2007年12月1日(土) 13:30~15:30 立教大学・RARCのHP抄録

北岡 明佳(立命館大学 文学部 心理学専攻email

2007/11/19より


「蛇の回転」

蛇の円盤が勝手に回転して見える。

Copyright A.Kitaoka 2003 (September 2, 2003)


「水色と黄緑の渦巻き」

水色の螺旋と黄緑の螺旋があるように見えるが、どちらも同じ色(r = 0, g = 255, b = 150)である。この色の錯視はモニエ・シェベル錯視に近いと思うが、彼らの理論には合わないのかもしれない。

Copyright A.Kitaoka 2003


「ワープ」

(リメーク)

真ん中を見ていると、星がまたたいて見える。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2003 (reproduced Febryary 23, 2007)


「藍藻」

5本の配列は平行であるが、左上から時計回り・反時計回りと交互に傾いて見える。動く錯視もある。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2007 (August 29)


 錯視とは?

●錯視(visual illusion)とは視覚性の錯覚のことであり、錯覚とは実在する対象の真の特性とは異なる知覚のことである。

●錯視には、形の錯視(幾何学的錯視)、明るさの錯視、色の錯視、運動視の錯視などがある。だまし絵なども錯視に含められることがある。

●特に生存の役には立たないと思われる現象ほど錯視と呼ばれやすい。

●錯視は、錯視量が多いほど「美しい」(Noguchi and Rentschler, 1999)。しかし、その科学的根拠は不明である。

錯視全般の分類(ウェブページ)   錯視のカタログ(ウェブページ)  北岡の錯視本(ウェブページ)


 本日の大胆な仮説

●錯視は錯視量が多いほど「美しい」だけでなく、美しいものには錯視がある(のではないか)。


立命館大学の桜(平成19年4月8日)

立命館大学の桜をもっと見る


「入学式」

灰色で描いたサクラの花びらに、色が付いて見える。

Copyright Akiyoshi .Kitaoka 2007 (March 2)

図にカーソルを載せると、花びらは灰色であることがわかる。


究  

「建勲神社から見た比叡山」

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2007 (November 19)


ドローソフトのトレースツールを用いてベクトル化してみる。

美しさが減る。


ベクトル化した画像の彩度を上げる。

美しさが回復する。


ペイントソフト(フォトレタッチソフト)でぼかしてみる。


元画像


ぼかしても美しい。


さらにぼかしても美しい。


さらにもっとぼかしても美しい。


原型がわからないほどぼかしても、美しさは残る。


ドローソフトのトレースツールを用いてベクトル化してみる。


美しさが減る。


ベクトル化した画像の彩度を上げる。


美しさが増す。


ここで遊びたくなったので、やむをえず、遊んで仕上げた。

「大天竜の小さな家」

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2007 (November 19)

作品名を付けてアート作品の出来上がり。なお、これは錯視デザインではありません。念のため。


形態はそのままで、彩度を下げてみる。


元画像


彩度が下がると美しさが減る。


色味がなくなるまで彩度を下げると、さらに美しさが減る。


特に美しいというわけではない画像の、彩度を上げてみる。


東映太秦映画村の恐竜さん
(2005年10月2日撮影)


彩度を少し上げると少し美しい感じがする。


彩度をもっと上げるともっと美しい感じがする。


彩度をさらに上げてみたら、バスクリンのお風呂という感じ。美しさは増したと思うが、奇妙さが出てきた。


さらに進めると、奇妙さが全面に出てきて、美しさはよくわからないような・・・アオコが浮いているようにも見えるし。


彩度を最大にする(各色の彩度を最大にする)と、異様な世界といった感じ。


美しい画像の、彩度を上げてみる。


元画像


彩度を上げると、美しさは増す。


さらに彩度を上げると、若干美しさが増す。もう天井?


さらにもっと彩度を上げると、美しさが増す。紅葉でない部分の美しさが増したようである。


さらに進めると、だんだんありえない感じにはなるが、美しさは増す。


彩度を最大にするとこの世のものとは思えない感じであるが、美しさはさらに増したのでは。


他の種類の美しい画像の、彩度を上げてみる。


元画像


彩度を上げると、美しさは増す。


さらに彩度を上げると、美しさはさらに増す。


さらにもっと彩度を上げると、美しさはさらに少し増して、極楽の建物といった感じ(?)。


さらに進めると、水面と雪と雪空に色がついてきて奇妙な感じ。


彩度を最大にすると、しっとりした美しさがなくなるようだ。


グラデーションが関係しないと思われる美しい画像をトレースしてみる。

国際会館駅の紅葉(平成16年12月6日)


元画像


トレースしたところ。一見、元画像と大差ない。美しさの減少は、細部がつぶれて彩度が減少した程度に相当すると思われる。


もちろん、彩度を上げると、美しさは増す。


 ここまでのまとめ
●全体の彩度が高いと図は美しいという傾向がある。
●形あるいは構図と彩度には交絡がある(よい組み合わせと、よくない組み合わせがある)。
●色のグラデーションがあると図は美しいという傾向がある。

彩度と錯視の関係について考える。

「水色と黄緑色のハートの絨毯」

水色のハートと黄緑色のハートがあるように見えるが、どちらも同じ色である。

Copyright Akiyoshi .Kitaoka 2007 (January 10)

cf. Dungeon illusion: Bressan, P. (2001) Explaining lightness illusions. Perception, 30, 1031-1046.


「水色と黄緑色のハートの絨毯(部分)」

水色のハートと黄緑色のハートがあるように見えるが、どちらも同じ色である。

Copyright Akiyoshi .Kitaoka 2007 (January 10)

cf. Dungeon illusion: Bressan, P. (2001) Explaining lightness illusions. Perception, 30, 1031-1046.


「原子核の色」

水色と黄緑色の核があるように見えるが、同じ色である。核がぎらぎらして見える。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2007 (September 23)


「レモン色の渦巻きとクリーム色の渦巻き」

渦巻きにはレモン色のとクリーム色のと2種類あるように見えるが、どちらも同じ黄色(R255, G255, B0)である。

Copyright A.Kitaoka 2005 (May 22)


「武田信玄」

薄い黄色と濃い青色の渦巻きがあるように見えるが、左半分は白(R=255, G=255, B=255)と黒(R=0, G=0, B=0)であるのに対し、右半分は黄(R=255, G=255, B=0)と青(R=0, G=0, B=255)である。

Copyright Akiyoshi .Kitaoka 2007 (March 12)

「風林火山」

「武田信玄」の白黒黄青と同じであるが、この図では違いがはっきりわかる。

Copyright Akiyoshi .Kitaoka 2007 (March 12)


色見本


「武田信玄と風林火山のアニメーション」

「武田信玄」・・・薄い黄色と濃い青色の渦巻きがあるように見えるが、左半分は白(R=255, G=255, B=255)と黒(R=0, G=0, B=0)であるのに対し、右半分は黄(R=255, G=255, B=0)と青(R=0, G=0, B=255)である。 「風林火山」・・・「武田信玄」の白黒黄青と同じであるが、この図では違いがはっきりわかる。

Copyright Akiyoshi .Kitaoka 2007 (November 24)


200ms版(400ms周期)


 本日の墓穴

●「美しいものには錯視がある(のではないか)」というのが本日の仮説なのであるが、「武田信玄」と「風林火山」の関係については、錯視に誘導されたものとはいえ、「彩度が高いほど美しい」というだけなのでは?


しかし、

本日の大発見?

「武田信玄の顔色変化」

この動画は、2枚の静止画から成っている。1枚目(下図「風林火山」)は6秒間提示され、2枚目(下図「武田信玄」)は1秒だけ提示される。どちらの画像も、左側は白と黒の渦巻きで、右側は黄と青の渦巻きである。どこか同じ場所を見つめながら眺めていると、6秒間提示される1枚目は「正しく」見えるが、1秒間だけ提示される2枚目は、左側は黄と青の渦巻きで、右側は白と黒の渦巻きに見える。この錯視は、「錯視残効」 というものに違いない(そんなカテゴリーは今までなかったと思うが)。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2007 (November 27)


色のグラデーションについて考える。

「波紋」

Copyright A.Kitaoka 2003


「りんご・セザンヌ風」

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2004 (8/5)

ベルヌーイの渦巻き作品。


「薔薇光線」

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2007 (June 26)

そんな光線はない。


「夕日」

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2005 (December 10)


「満月」

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2005 (December 10)


「月から見た地球」

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2005 (December 10)


「印象派風・日の出」

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2005 (December 11)


「海王星」

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2005 (December 11)


「立命館湖」

立命館大学衣笠キャンパスが水没したように見える。

Copyright A.Kitaoka 2004 (August 14)

ここが水没するようでは京都市街全域水没で~す。もちろん大阪も、神戸も。

実際の風景

 色のグラデーションに見られる錯視
●最適化型フレーザー・ウィルコックス錯視・タイプ I (静止画が動いて見える錯視)
●グラデーションによる色の錯視
●グラデーションによる明るさの錯視や傾きの錯視
   など

最適化型フレーザー・ウィルコックス錯視


「蛇の回転」

蛇の円盤が勝手に回転して見える。

Copyright A.Kitaoka 2003 (September 2, 2003)


フレーザー・ウィルコックス錯視

Fraser, A. and Wilcox, K. J. (1979) Perception of illusory movement. Nature, 281, 565-566.


Faubert, J. and Herbert, A. M. (1999) The peripheral drift illusion: A motion illusion in the visual periphery. Perception, 28, 617-621.


Naor-Raz, G. and Sekuler, R. (2000) Perceptual dimorphism in visual motion from stationary patterns. Perception, 29, 325-335.


フレーザー・ウィルコックス錯視の最適化

Kitaoka, A. and Ashida, H. (2003) Phenomenal characteristics of the peripheral drift illusion. VISION (Journal of the Vision Society of Japan), 15, 261-262. PDF

黒→濃い灰色→白→薄い灰色→黒


現時点での(北岡による勝手な)最適化型フレーザーウィルコックス錯視の分類

(VSS DemoNight 2007)


参考 「だまされる視覚 錯視の楽しみ方」 ニュートン別冊「錯視 完全図解」


Murakami, I., Kitaoka, A. and Ashida, H. (2006) A positive correlation between fixation instability and the strength of illusory motion in a static display. Vision Research, 46, 2421-2431.



Backus, B. T. and Oruç, I, (2005) Illusory motion from change over time in the response to contrast and luminance. Journal of Vision, 5, 1055-1069. to get PDF


Conway, R. B., Kitaoka, A., Yazdanbakhsh, A., Pack, C. C., and Livingstone, M. S. (2005) Neural basis for a powerful static motion illusion. Journal of Neuroscience, 25, 5651-5656.


最適化型フレーザー・ウィルコックス錯視・タイプ I


「タイムトンネルショー」

リングが回転して見える。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2006 (February 24)


「オバケ」

「目」が拡大して見える。

Copyright Akiyoshi .Kitaoka 2006 (February 25)

拡大・縮小錯視4


「ヨーロッパの風邪」

床が回転して見える。

Copyright Akiyoshi .Kitaoka 2005 (September 7)
<originally 2004/10/15>

ヨーロッパでは風邪にかかってしまったが、気合でルーブル美術館は行った。


「赤富士」

赤富士が沈んでいくように見える。

Copyright Akiyoshi .Kitaoka 2006 (February 16)


「カメの回転」

カメの集団が回転して見える。そのほか、左右に動いて見える錯視や、垂直・水平に並んだエッジが傾いて見える錯視もある。

Copyright Akiyoshi .Kitaoka 2006 (June 19)

縁飾りエッジの錯視


最適化型フレーザー・ウィルコックス錯視・タイプ I の基本図形

黒→灰色、白→灰色


黒→灰色


白→灰色


黒→灰色 の代わりに 黒→マゼンタ(赤と青の合成色)

結論1 暗から明への錯視は、赤あるいは青に置き換えると錯視量が増すようである。


白→灰色 の代わりに 黄→緑

結論2 明から暗への錯視は、黄あるいは緑に置き換えると錯視量が増すようである。


黒→灰色 の代わりに 黒→マゼンタ(赤と青の合成色)

白→灰色 の代わりに 黄→緑

結論3 暗から明への錯視を赤あるいは青に置き換え、明から暗への錯視を黄あるいは緑に置き換えると、錯視量が大いに増すようである。


参照 ロレアル賞受賞講演のページ  



グラデーションによる色の錯視


「馬」

黄色の馬と赤色の馬が描かれているように見えるが、物理的にはどちらも同じ色の馬である。

Copyright Akiyoshi .Kitaoka 2005 (August 18)

(CorelDRAW 9 のクリップアートを使用)


「色グラデーションの錯視」

A と D、B と C が同じ感じに見えるが、物理的には C と D が同じである。

Copyright Akiyoshi .Kitaoka 2005 (August 12)


「3つの水槽」

3つの「水槽」のうち2つは物理的に同じ色である。どれとどれか? 答え

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2006 (May 1)


「4つの水槽」

4つの「水槽」のうち2つずつは物理的に同じ色である。どのペアとどのペアか? 答え

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2006 (May 1)


「サーチライト」

黄色のサーチライトが当たっているように見える。各縦列の円の中の色グラデーションは同じであるが、上2つは黄色の円に見え、下2つは青の円に見える。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2005 (December 7)


「月とブラックホール」

円内は上下とも同じパターンであるが、上は月に見え、下はブラックホールに見える。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2007 (August 25)


「満月と夕日」

円内は左右で同じパターンであるが、左は満月に見え、右は夕日に見える。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2007 (August 21)


「3つの水槽」の答え・・・真ん中の正方形と右の正方形


「4つの水槽」の答え・・・一番左と左から2番目のペアと、一番右と右から2番目のペア


その他、グラデーションは錯視の宝庫



視覚的ファントム

「尾瀬沼」

湖面上に霧が出ているように見える。

Copyright Akiyoshi .Kitaoka 2006 (March 3)

視覚的補完


「光る菊」

菊の花の中心が光って見える。

Copyright Akiyoshi.Kitaoka 2005 (April 5)


「紫色のカフェウォール」

4本の細い水平線分が上から右・左・右・左に傾いて見える。ついでに、1、3、5列目は左に、2、4列目は右に動いて見える。

cf. Kitaoka, A., Pinna, B., and Brelstaff, G. (2004). Contrast polarities determine the direction of Cafe Wall tilts. Perception, 33, 11-20
Roncato, S. (2000) The effect of luminance variation on the apparent position of an edge. Perception & Psychophysics, 62, 762-785

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2006 (February 15)

水平線分を黒にすると、傾きが逆転する。動きには関係なし。


参考になる本

ニュートン編集室(編)・北岡明佳(監修) (2007) Newton別冊 脳はなぜだまされるのか? 錯視 完全図解 ニュートンプレス

「蛇の回転」を含む最近の錯視まで網羅して、わかりやすく図解しています。

(2007年10月1日発行 定価:2,415円(税込) ISBN 978-4-315-51803-0) アマゾンのページ

&

北岡明佳 (2007) 錯視のゲシュタルトと美 野口薫(編)「美と感性の心理学-ゲシュタルト心理学の新しい地平」 日本大学文理学部(発売は冨山房インターナショナル), pp. 681-688 (巻頭の口絵 pp. 7-11 を含む) のアブストラクト

PDF

&

    

&

   

北岡の錯視本いろいろ


 

まとめ

錯視と美の関係について、さらに研究を進めて細部を明らかにする必要がある。

 
ご清聴ありがとうございました。


北岡の顔 (見るほどのものではない) 京都の風景 (観光の参考に) 立命館の風景 (受験するなら立命館)


 北岡明佳の錯視のページ