The Symposium & Exhibition of Visual Illusion World 2011: Bridge of
Arts and Science
「錯視が活かされる世界:芸術と科学の架け橋」
共催:立命館グローバル・イノベーション研究機構(R-GIRO)
三次元映像のフォーラム(3Dフォーラム) (兼第95回研究会)
2010年3月12日(土)・立命館大学衣笠キャンパス創思館1Fカンファレンスルーム
錯視と3D その架け橋
抄録 ポスター・チラシ
北岡 明佳 (立命館大学 文学部 心理学専攻) email HP
2011/3/5より
錯覚とは、対象に関する知識とその対象の知覚のズレが認識されたものである。錯視は視覚性の錯覚である。
3Dとは、両眼立体視による奥行き視をデモンストレーションしたもの、あるいはそれを用いたディスプレーシステムのことである。
両者とも、きれいに決まると美しい! → 実験美学
両眼立体視(binocular stereopsis)いわゆる3Dの原理
「両眼立体視の説明用の図」
上の図は、「土星」が相対的に近くに「星」が遠くにある場合、それらを両眼で見た時にそれぞれの目にはどのように投射されるかを、上から見た図として示したものである。下の図はそれぞれの目における見えを示しており、右目の見えの「土星」と「星」の水平方向の間隔は左目の見えよりも大きい。このような両眼視差を手がかりとして奥行きの情報を復元する視覚の機能が、両眼立体視である。
Copyright Akiyoshi Kitaoka 2011 (March 2)
立体視の説明のプリント(18MB)
ポンゾ錯視は遠近法的錯視と扱われることがある。
ポンゾ錯視(Ponzo illusion)
Lipps, T. (1897) Raumästhetik und geometrisch-optische Täuschungen. Leipzig: Barth.
Ponzo, M. (1912) Rapports entre quelques illusions visuelles de contraste angulaire et l’appréciation de grandeur des astres à l’horizon. Archives Italiennes de Biologie, 58, 327-329.
左図では、上下の横線は同じ長さであるが、上の方が長く見える。右図では、左右の円は同じ大きさであるが、左の方が大きく見える。
「でっカー」
クルマの画角は同じであるが、右上の方が大きく見える。左下の映像がオリジナル。
Copyright Aliyoshi Kitaoka 2011 (March 2)
ポンゾ錯視というよりは、回廊錯視だと思う。
ミュラー・リヤー錯視も遠近法的錯視と扱われることがある。
ミュラー・リヤー錯視(Müller-Lyer illusion)
Müller-Lyer, F. C. (1889) Optische Urteilstäuschungen. Archiv für Anatomie und Physiologie, Physiologische Abteilung, 2, 263-270.
横線は上下の図形とも同じ長さであるが、下の方が長く見える。
「高松市美術館の錯視」
網膜像としては、右のこちらに凸の隅の高さは左の奥まった隅の高さの2倍程度に見える(上図)が、実際には2倍以上(2.67倍)ある(下図)。
Copyright Aliyoshi Kitaoka 2011 (January 20)
リチャード・グレゴリー先生風のネタであるが、ミュラー・リヤー錯視というよりは、回廊錯視だと思う。
遠近法的錯視である可能性の高いと考えられる錯視・その1
<シェパード錯視>
シェパード錯視
(Shepard illusion or table-top illusion)
左の赤い平行四辺形は細長く、右のはずんぐりして見えるが、両者合同(同じ形で同じ大きさ)である。
Shepard, R. N. (1981) Psychophysical complementarity. in Kubovy, M. and Pomeranz, J. (Eds.), Perceptual Organization, Hillsdale, NJ: Lawrence Erlbaum Associates, pp. 279-341.
Shepard, R. N. (1990) Mind sights: original visual illusions, ambiguities, and other anomalies, with a commentary on the play of mind in perception and art. New York: Freeman. (R.N.シェパード著、鈴木光太郎・芳賀康朗訳 (1993) 視覚のトリック:だまし絵が語る「見る」しくみ 東京:新曜社)
「赤い屋根」 赤い屋根は合同なのであるが、左の屋根は右の屋根に比べて細長く見える。シェパード錯視のバリエーション。
Copyright Akiyoshi Kitaoka 2008 (April 24)
「楕円の錯視」
右の楕円は左の楕円よりも細長く見えるが、同じ形である。
Copyright Akiyoshi Kitaoka 2007 (July 14)
シェパード錯視に対応する3D効果
隣同士を両眼融合すると、斜辺は奥行き方向に傾いて見える。その時、描かれた絵としては斜辺は上辺・下辺よりも若干短い(上辺・下辺を100とすると、左端と右端の平行四辺形の斜辺は約93.6、中央の平行四辺形の斜辺は約97.3)が、斜辺は上辺と下辺よりも長く見える。
Copyright Akiyoshi Kitaoka 2010 (December 17)
cf. Thouless, R. H. (1931) Phenomenal regression to the real object. I. British Journal of Psychology, 21, 339-359.
シェパード錯視とシェパード錯視に対応する3D効果の加算
物理的には、斜辺は上辺・下辺よりも若干短い(上辺・下辺を100とすると、左端と右端の平行四辺形の斜辺は約93.6、中央の平行四辺形の斜辺は約97.3)が、斜辺は上辺と下辺と同じかむしろ長く見える。これは、「シェパード錯視」である。
隣同士を両眼融合すると、斜辺は奥行き方向に傾いて見える。その時、斜辺は上辺と下辺よりも長く見える。これは、「シェパード錯視と、両眼立体視的に奥行き方向に傾いた辺の過大視の合成」といったところである。
Copyright Akiyoshi Kitaoka 2010 (December 17)
遠近法的錯視である可能性の高いと考えられる錯視・その2
<斜塔錯視>
斜塔錯視(Leaning Tower illusion)(キングダム錯視)
左右の写真は右方向に傾いたように撮影した斜塔であるが、右の写真の傾きが大きく見える(Kingdom et al., 2007)。
Kingdom, F. A. A., Yoonessi, A., and Gheorghiu, E. (2007) The Leaning Tower illusion: a new illusion of perspective. Perception, 36, 475-477.
「岩船寺の三重の『斜』塔」
左の三重塔は右の三重塔よりも傾いて見えるが、同じ写真である。
写真は2008年11月12日、fMRI実験の後、K大のA先生(運動残効研究でも有名)と観光した時に撮影
Copyright Akiyoshi Kitaoka 2008 (December 22)
「桜の嵐電」
この嵐電は北野白梅町行きなので、後ろから撮影している。左の嵐電は右に比べてより左の方向に向かっているように見えるが、同じ写真である。
写真は2003年4月10日
Copyright Akiyoshi Kitaoka 2009 (April 30)
「御室の切り通しの嵐電」
この嵐電は帷子の辻行きなので、後ろから撮影している。上の嵐電は下に比べてより上の方向に向かっているように見えるが、同じ写真である。
写真は2002年9月20日
Copyright Akiyoshi Kitaoka 2009 (April 30)
「滑走路」
左右同じであるが、右の方が垂直からの傾きが大きく見える。
Copyright Akiyoshi Kitaoka 2007 (July 14)
「箱傾き錯視」
左右の箱は同じ絵であるが、右の箱の奥は左よりも右に振っているように見える。
Copyright Akiyoshi Kitaoka 2007 (July 14)
「斜塔錯視反転図形」
開散・収斂の方向が知覚された図の奥行きによって反転する(一番下の図)。
Copyright Akiyoshi Kitaoka 2008 (September 29)
<斜塔錯視は新しいか?>
グレゴリーのテーブルの錯視
左右の赤い平行四辺形は同じ形であるが、左の平行四辺形は左辺と右辺は上方に開いて見え、右の平行四辺形は左辺と右辺は下方に開いて見える。
Copyright Akiyoshi Kitaoka 2009 (July 15)
References
"a top-down distortion"
Gregory, R. L. (1998) Eye and Brain, the fifth edition Oxford University Press. (pp. 232)
斜塔錯視は基本的にはグレゴリーのテーブルの錯視のようである。ただし、グレゴリーが指摘したのは大きさの次元である。それ以前に、ザウレス(Thouless, 1931)に平行な奥行き線の角度錯視の記述がある。ネッカーの立方体においてもこの角度錯視の反転が観察できる。
ネッカーの立方体
Thouless, R. H. (1931) Phenomenal regression to the real object. I. British Journal of Psychology, 21, 339-359.
Necker, L. A. (1832) Observations on some remarkable Optical Phenomena seen in Switzerland; and on an Optical Phenomenon which occurs on viewing a Figure of a Crystal or geometrical Solid. The London and Edinburgh Philosophical Magazine and Journal of Science 1 (5), 329–337.
斜塔錯視に対応する3D効果
右目用、左目用のフレーム内の細長い平行四辺形はそれぞれ平行に描かれているが、両眼融合して奥行き方向に傾いたものとして知覚すると、奥の方ほど距離が離れて見える。
Copyright Akiyoshi Kitaoka 2011 (February 13)
斜塔錯視と斜塔錯視に対応する3D効果の加算
右目用、左目用のフレーム内の細長い平行四辺形はそれぞれ平行に描かれているが、両眼融合して奥行き方向に傾いたものとして知覚すると、奥の方ほど距離が離れて見える。
Copyright Akiyoshi Kitaoka 2011 (February 13)
遠近法的錯視である可能性の高いと考えられる錯視・その3
<長錯視>
第2回 錯視コンテスト 2010
賞の種類 | 作品名 | 作者名 | 作者所属 | 作品 | 作品の説明 | Visiome* (登録とリンク準備中) |
グランプリ | 「道路写真の角度錯視」 | 長 篤志 (長田 和美、三池 秀敏、一川 誠、松田 憲) |
山口大学大学院理工学研究科 | 作品 (PPT) |
説明 (DOC) |
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「上賀茂神社の長(おさ)錯視」
参道の両端の斜線の成す角度は鋭角に見えるが、実際には鈍角である(下図参照)。長錯視については、現在のところこちらを参照。
Copyright Akiyoshi Kitaoka 2010 (December 28)
長錯視に対応する3D効果
各台形の斜辺の成す角度は90度である。しかし、隣同士両眼融合すると過小視されて、かなり鋭角に見える。上辺が奥に見える場合に特に顕著である。「両眼立体視的に奥行き方向に傾いた辺の過大視」との関係が示唆される。
Copyright Akiyoshi Kitaoka 2010 (December 17)
長錯視と長錯視に対応する3D効果の加算
それぞれの青い道路の台形の斜辺の成す角度は90度であるが、鋭角に見える(長錯視あるいは道路写真の角度錯視)。しかし、隣同士両眼融合するとさらに過小視されて、かなり鋭角に見える。上辺が奥に見える場合に特に顕著である。
Copyright Akiyoshi Kitaoka 2010 (December 17)
「両眼立体視的長(おさ)錯視・鈍角版」
隣同士両眼融合して観察すると、床あるいは天井の左右の折れ曲がった辺の成す角は絵では90度なのにそれより大きく見える。
Copyright Akiyoshi Kitaoka 2010 (December 19)
「長(おさ)錯視・鈍角版」
道路の左右の折れ曲がった辺の成す角は絵では90度なのにそれより大きく見える。
Copyright Akiyoshi Kitaoka 2010 (December 20)
結論 錯視と3Dの架け橋である遠近法的錯視は本当にあったのだ!
3D屋さんから見たらあたりまえ?
おしまい
ご清聴ありがとうございました。
錯視の参考書
今井省吾 (1984) 錯視図形-見え方の心理学- サイエンス社
大山正・今井省吾・和気典二(編) (1994) 新編 感覚・知覚心理学ハンドブック 誠信書房
後藤倬男・田中平八(編) (2005) 錯視の科学ハンドブック 東京大学出版会
北岡明佳 (2005) トリック・アイズ グラフィックス カンゼン
北岡明佳 (2007) だまされる視覚 錯視の楽しみ方 化学同人
北岡明佳(監修) (2007) Newton別冊 脳はなぜだまされるのか? 錯視 完全図解 ニュートンプレス
太田光・田中裕二・北岡明佳 (2008) 爆笑問題のニッポンの教養 この世はすべて錯覚だ 知覚心理学 講談社
北岡明佳 (2008) トリック・アイズ メカニズム カンゼン
北岡明佳 (2010) 錯視入門 朝倉書店
北岡明佳著 錯視入門 朝倉書店 (2010年7月) new!