2025年9月11日(木)15:00-15:15
日本視覚学会2025年夏季大会・岩手教育会館
新しい渦巻き錯視の報告と渦巻き錯視の考察
立命館大学総合心理学部 北岡 明佳 email
1. 新しい渦巻き錯視(波線の錯視の渦巻き錯視)
灰色の黒と白の縞模様の波線のリングは同心円なのだが、右に回転して中心に向かう渦巻きに見える。(2018年制作)
灰色の波線は同心円なのだが、左に回転して中心に向かう渦巻きに見える。
波の位相を±90度ずらすと、渦巻き錯視の方向が反転する。灰色の波線は同心円なのだが、左に回転して中心に向かう渦巻きに見える。つまり、この渦巻き錯視には輝度のコントラスト極性が重要である。
波線ではなく波エッジでもできる。灰色の黒と白の縞模様の波線は同心円なのだが、右に回転して中心に向かう渦巻きに見える。
2. フレーザーの渦巻き錯視(古典的渦巻き錯視)
フレーザーの渦巻き錯視(spiral illusion of the Fraser illusion, Fraser's spiral illusion, or simply the Fraser illusion)
同心円パターンが渦巻きに見える。
Fraser, J. (1908). A new visual illusion of direction. British Journal of Psychology, 2, 307-320.
フレーザー錯視(Fraser illusion)
水平から少し傾いた白と黒の斜線の並びは水平であるが、その並びは斜線の傾きの方に傾いて見える。ねじれ紐の錯視(illusion of twisted cords)ともいう。
Fraser, J. (1908). A new visual illusion of direction. British Journal of Psychology, 2, 307-320.
輝度のコントラスト極性の異なる斜線を交互に並べることでフレーザー錯視をつくることができる。
3. フレーザーの渦巻き錯視における斜線が接する部分の重要性
斜線が一様な黒あるいは白だとフレーザー錯視の渦巻き錯視は弱い。
斜線の間隔が空いていると渦巻きの知覚が生じることから、斜線が接する部分が渦巻き知覚に重要な役割を果たしていると考えられる。
問: 斜線が接する部分は斜線の輝度コントラスト極性が同じであれば渦巻き知覚を抑制する。それでは、その輝度コントラスト極性が反対である場合、渦巻き知覚を促進するのか、あるいは特に効果はないのか?
フレーザーの渦巻き錯視の画像
フレーザーの渦巻き錯視の画像から輝度コントラスト極性が反転しない斜線部を残したもの。元の画像より錯視は弱くなるが、同じ方向の渦巻き錯視が見える。
フレーザーの渦巻き錯視の画像から輝度コントラスト極性が反転する部分を残したもの。渦巻き錯視は起きないか、あるいは元の画像より錯視は弱くなるが、同じ方向の渦巻き錯視が見える。
考察: 斜線が接する部分の輝度コントラスト極性が反転するところも、フレーザーの渦巻き錯視に貢献していると考えられる。
4. 波線の錯視の渦巻き錯視における2種類の要素の効果の検討
波線の錯視の渦巻き錯視の画像
波線の錯視の渦巻き錯視の画像から輝度コントラスト極性が反転しない斜線部を残したもの。元の画像と同じ方向の渦巻き錯視が見える。
波線の錯視の渦巻き錯視の画像から輝度コントラスト極性が反転する斜線部を残したもの。元の画像と同じ方向の渦巻き錯視が見える。
考察: 斜線が接する部分の輝度コントラスト極性が反転するところも、波線の錯視の渦巻き錯視に貢献していると考えられる。
5. ずれた線の錯視*の渦巻き錯視における2種類の要素の効果の検討
*Kitaoka, A. (2007). Tilt illusions after Oyama (1960): A review. Japanese Psychological Research, 49, 7-19. https://doi.org/10.1111/j.1468-5884.2007.00328.x
ずれた線の錯視の渦巻き錯視の画像
ずれた線の錯視の渦巻き錯視の画像から輝度コントラスト極性が同じ線分の対を残したもの。元の画像と同じ方向の渦巻き錯視が見える。
ずれた線の錯視の画像から輝度コントラスト極性が反転する斜線部を残したもの。元の画像より錯視は弱くなるが、同じ方向の渦巻き錯視が見える。
考察: 線分が接する部分の輝度コントラスト極性が反転するところも、ずれた線の錯視の渦巻き錯視に貢献していると考えられる。
考察
フレーザー錯視は斜線部分に注目しがちだが、その継ぎ目部分も重要であることがわかった。新しい錯視(波線渦巻き錯視)やずれた線の錯視の渦巻き錯視は、フレーザー錯視と同様の性質を持っていることがわかった。
Kitaoka, A. (2007). Tilt illusions after Oyama (1960): A review. Japanese Psychological Research, 49, 7-19. https://doi.org/10.1111/j.1468-5884.2007.00328.x
Kitaoka, A. (2010). The Fraser illusion family and the corresponding motion illusions. 33rd European Conference on Visual Perception (ECVP 2010), EPFL, Lausanne. https://www.psy.ritsumei.ac.jp/akitaoka/ECVP2010poster.jpg
北岡明佳 (2022) 「傾き錯視と同居する静止画が動いて見える錯視の探求」 (2022年3月2日(水)15:20-16:00 明治大学「現象数理学」研究拠点共同研究集会『第16回錯覚ワークショップ』) https://www.psy.ritsumei.ac.jp/akitaoka/sakkakuWS2022.html
ずれた線の錯視の渦巻き錯視を用いた4ストローク運動。渦巻きパターンが縮小して見える。
おしまい
抄録
渦巻き錯視(spiral illusion)とは、同心円が渦巻きに見える錯視のことである。いわば極座標系的な傾き錯視である。この錯視は、1908年に、ロンドン中央病院収容所(Central London Sick Asylum)の副医療施設長(Deputy Medical Superintendent)であるジェームズ・フレーザー(James Fraser)によって、British Journal of Psychology 誌上で発表された。この論文においては、フレーザー錯視と呼ばれる(通常の直交座標系的な)傾き錯視と、今日ではカフェウォール錯視と呼ばれる傾き錯視が同時に発表されており、3つの新しい錯視をまとめて発表した画期的な論文であった。フレーザーの渦巻き錯視はフレーザー錯視を同心円に配置したものであったが、2001年にKitaoka, Pinna, and Brelstaffは、フレーザー錯視以外の傾き錯視でも渦巻き錯視を生じさせることができることを示した。本発表では、最近になって発見された新しい形態の渦巻き錯視を報告しつつ、渦巻き錯視全体について考察する。
「コロナ渦」(死語?)
同心円が渦巻に見える。
Copyright Akiyoshi Kitaoka 2020 (October 1)