日本色彩学会関西支部
大学の研究室から学ぶ 色彩学の基礎と実践 <実践色彩講座2021プログラム> <講座3-1 >
2021年3月26日(金)10:30-12:00 オンライン

から見た

立命館大学総合心理学部 北岡 明佳 email

2021/3/13 より


本トークでは、色の錯視のいくつかを紹介し、色彩の実践に役立てることを考えます。実践を意識しているので、私がやるいつもの錯視のトークに比べると、内容は若干重め。


(1)同じ色配列が白と黒に見える錯視


「RGBで白と黒」

左の絵の髪と服は白く見え、右の絵では黒く見えるが、同じRGBの縞模様である。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2016 (August 15)

拡大画像


原図


動画表現


cf.

「白と黒」

左の絵の髪と服は白く見え、右の絵では黒く見えるが、同じ輝度の灰色である。左は乗算的色変換(透明変換)、右は加算的色変換(半透明変換)。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2018 (May 28)



(2)色相の錯視であるムンカー錯視

「水色と黄緑の渦巻き」

水色の螺旋と黄緑の螺旋があるように見えるが、どちらも同じ色(r = 0, g = 255, b = 150)である。この色の錯視はモニエ・シェベル錯視に近いと思うが、彼らの理論には合わないのかもしれない。

Copyright A.Kitaoka 2003



「錯視黄光背のハート」

錯視的黄色がハートの周囲に見える。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2020 (March 28) (uploaded July 10, 2020)




(3)混色には2種類ある

加法混色(左)(ディスプレーなど)と減法混色(右)(印刷など)

加法混色は、「キャンバス」は黒(K)。原色は、赤(R)、緑(G)、青(B)。赤と緑の混色で黄色(Y)が得られ、緑と青の混色でシアン色(C)、青と赤の混色でマゼンタ色(M)が得られる。赤と緑と青を混色すると、白(W)が得られる。

減法混色は、「キャンバス」は白(W)。原色は、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(黄色)(Y)。シアンとマゼンタの混色で青(B)が得られ1、マゼンタとイエローの混色で赤(R)、イエローとシアンの混色で緑(G)が得られる。シアンとマゼンタとイエローを混色すると、黒(K)が得られる2

1 白から赤を取り除いた色(シアン)と白から緑を取り除いた色(マゼンタ)を合成することで、白から赤と緑を取り除く効果が得られ、青が見える。
2 現在の印刷では、シアンとマゼンタとイエローを混色した時、しまりのある黒が得られないので、別途黒インクが装備されていることが多い。


(4)モザイクと減色による色彩


モザイク画像の例(1ブロックは、20 pixel x 20 pixel。減色はナシ)


27色に減色した例(色はRGBそれぞれ3階調。モザイクはナシ)


125色に減色したモザイク画像の例(色はRGBそれぞれ5階調。1ブロックは、10 pixel x 10 pixel)


オリジナル画像(北海道・相生鉄道公園・2020年10月撮影)



(5)並置混色(点描)には2種類ある
並置混色 ≒ モザイク


加法混色画像の例


減法混色画像の例


加法混色画像の拡大図

減法混色画像の拡大図


並置混色における加法混色(左)と減法混色(右)

「1画素」(1つのブロック)は、3つの要素的画素(subpixel)から成る。加法混色では、キャンバス(背景)は黒で、要素的画素は、赤、緑、青である。減法混色では、キャンバス(背景)は白で、要素的画素は、シアン、マゼンタ、イエロー(黄色)である。


(6)並置混色の拡張

要素的画素を6つにした並置混色におけるCMYを原色とする加法混色(左)とRGBを原色とする減法混色(右)

「1画素」(1つのブロック)は、6つの要素的画素(subpixel)から成る。加法混色では、キャンバス(背景)は黒で、要素的画素は、シアン、マゼンタ、イエローである。減法混色では、キャンバス(背景)は白で、要素的画素は、赤、緑、青である。


<修正版>

要素的画素は3つの並置混色におけるCMYを原色とする加法混色(左)とRGBを原色とする減法混色(右)



CMYを原色とする加法混色画像の例


RGBを原色とする減法混色画像の例


CMY加法混色画像の拡大図

RGB減法混色画像の拡大図


「RGBで白と黒」

左の絵の髪と服は白く見え、右の絵では黒く見えるが、同じRGBの縞模様である。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2016 (August 15)


「CMYで白と黒」

左の絵の髪と服は白く見え、右の絵では黒く見えるが、同じCMYの縞模様である。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2016 (August 15)


RGBを原色とする加法混色(左)とCMYを原色とする減法混色(右)


CMYを疑似原色とする加法混色(左)とRGBを疑似原色とする減法混色(右)

(例)



(7)並置混色は2色でもできる

「RCで白と黒」

左の絵の髪と服は白く見え、右の絵では黒く見えるが、同じR(赤色)とC(シアン色)の縞模様である。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2018 (May 20)

赤・シアン2色の並置混色(左:加法混色、右:減法混色)


「GMで白と黒」

左の絵の髪と服は白く見え、右の絵では黒く見えるが、同じG(緑色)とM(マゼンタ色)の縞模様である。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2018 (May 20)


「BYで白と黒」

左の絵の髪と服は白く見え、右の絵では黒く見えるが、同じB(青色)とY(黄色)の縞模様である。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2018 (May 20)



(8)グレースケールでも2種類の「並置混色」

「白黒で白と黒」

左の絵の髪と服は白く見え、右の絵では黒く見えるが、同じ白黒の縞模様である。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2018 (March 21)


動画表現

北岡明佳 (2016) RGBを原色とする減法混色の並置混色のアルゴリズムとその応用 日本視覚学会2016年夏季大会 朱鷺メッセ(新潟コンベンションセンター)(新潟市)・2016年8月18日(木) Poster --- Visiome



(9)並置混色を視覚系はどう解釈するか?

仮説

1. 最も輝度コントラストの高い領域をアンカーとする。

2. 輝度コントラストの低い領域の輝度が低ければ加法混色系と解釈し、輝度コントラストの低い領域の輝度が高ければ減法混色系と判断する。

3. 加法混色系と解釈された画像のアンカーは白と解釈し、減法混色系と解釈された画像のアンカーは黒と解釈する。


「RGBで白と黒」

左の絵の髪と服は白く見え、右の絵では黒く見えるが、同じRGBの縞模様である。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2016 (August 15)



(10)ムンカー錯視とその仲間



「日本色彩学会創設70周年: Future of Color Design」

CとSは同じ赤であるが、Cは赤紫色に、Sはオレンジ色に見える。AとJは同じシアン色であるが、Aは水色に、Jは緑色に見える。7と0はどちらも青と黄の縞模様でできているが、7は0より明るく見える。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2018 (January 12)

日本色彩学会第49回全国大会[大阪]'18 大阪市立大学


ムンカー錯視(Munker illusion)

黄と青の縞の青部分に赤を乗せるとオレンジ色に見え、黄部分に赤を乗せると赤紫がかって見える。緑を乗せるとそれぞれ黄緑と青緑に見える。高空間周波数図形で錯視量が多い。

Munker, H. (1970) Farbige Gitter, Abbildung auf der Netzhaut und übertragungstheoretische Beschreibung der Farbwahrnehmung. München: Habilitationsschrift.

ムンカー錯視のページ


ムンカー錯視の作り方



Left: Blue (assimilation) + Blue (contrast of yellow) = Blue induction; Right: Yellow (assimilation) + Yellow (contrast of blue) = Yellow induction



「4種類の色の錯視の作り方」

物理的に同じ色(R=255, G=0, B=127)のハートが錯視によってピンクとオレンジのハートに見える。左から、ムンカー錯視(Munker illusion)、色の土牢錯視(chromatic dungeon illusion)、ドット色錯視(dotted color illusion)、デヴァロイス・デヴァロイス錯視(De Valois-De Valois illusion)である。 上図の高解像度ファイルはこちら(8000 x 3262 pixel, 10MB)。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2009 (June 1)

References

Munker illusion Munker, H. (1970) Farbige Gitter, Abbildung auf der Netzhaut und übertragungstheoretische Beschreibung der Farbwahrnehmung. Habilitationsschrift, Ludwig-Maximilians-Universität, München.
chromatic dungeon illusion For the dungeon illusion: Bressan, P. (2001) Explaining lightness illusions. Perception, 30, 1031-1046.
Kitaoka (2007) http://www.psy.ritsumei.ac.jp/~akitaoka/saishin22e.html
dotted color illusion For the dotted brightness illusion: White, M. (1982) The assimilation-enhancing effect of a dotted surround upon a dotted test region. Perception, 11, 103-106.
Kitaoka (2008) http://www.psy.ritsumei.ac.jp/~akitaoka/color10e.html
De Valois-De Valois illusion De Valois, R. L. and De Valois, K. K. (1988) Spatial Vision. New York: Oxford University Press.


北岡明佳 (2012) 色の錯視いろいろ (4) 簡単で錯視量の多い色相の錯視図形の作り方 日本色彩学会誌, 36(1), 45-46. PDF(スキャンコピー) <配布資料>



(11)ムンカー錯視の「裏側」



「日本色彩学会創設70周年: Future of Color Design」

CとSは同じ赤であるが、Cは赤紫色に、Sはオレンジ色に見える。AとJは同じシアン色であるが、Aは水色に、Jは緑色に見える。7と0はどちらも青と黄の縞模様でできているが、7は0より明るく見える。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2018 (January 12)

日本色彩学会第49回全国大会[大阪]'18 大阪市立大学


「ムンカー錯視とその裏側」

上段では、赤いハートが左は赤紫色に、右はオレンジ色に見える。ハートの内外の縞模様を入れ換えたのが下段で、同じ青黄の縞模様が、左は右より明るく見える。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2018 (March 18)

cf.

「BYで白と黒」



「白と黒に見える 70」

7は明るく、0は暗く見えるが、同じ青黄の縞模様でできている

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2018 (May 23)


「ホワイト効果とその裏側」

上段では、同じ輝度の灰色のハートが左は暗く、右は明るく見える。ハートの内外の縞模様を入れ換えたのが下段で、同じは白黒の縞模様が、左は右より明るく見える。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2018 (March 18)


cf.

「白黒で白と黒」

左の絵の髪と服は白く見え、右の絵では黒く見えるが、同じ白黒の縞模様である。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2018 (May 20)


cf.

「図地分離による明るさの錯視」

左右の円内は同じ縞模様であるが、左は白い円、右は黒い円が見える。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2009 (February 18)



cf.

アンダーソン錯視

左の円は右の円より明るく見えるが、同一の輝度パターンである。

Anderson, B. L. and Winawer, J. (2005) Image segmentation and lightness perception. Nature, 434, 79-83.


色のアンダーソン錯視

左の円は黄色く、右の円は青く見えるが、同一の色パターンである。



cf.

視覚的ファントム

左の暗いオクルーダー上には暗い縞部分がつながって見え、右の明るいオクルーダー上には明るい縞部分がつながって見える(視覚的ファントム)。一方、左の縞部分は明るく見え、右の縞部分は暗く見える。

Gyoba, J., Sakurai, K., and Kitaoka, A. (2019). Visual phantom illusion as an integrative product of early visual processing and higher-order perceptual organization. in James M. Brown (Ed.), Pioneer visual neuroscience: A Festschrift for Naomi Weisstein, New York: Routledge (pp. 57-71).



(12)並置混色とムンカー錯視の連続性


「標準的なムンカー錯視」

左のハートは赤紫に見え、右のハートはオレンジ色に見えるが、同じ赤である。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2015 (June 2)


Copyright Akiyoshi Kitaoka 2016 (March 21)



下図は拡大画像


Copyright Akiyoshi Kitaoka 2016 (March 21)



「加法混色の並置混色によるムンカー錯視の説明図」

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2016 (March 22)




「減法混色の並置混色によるムンカー錯視の説明図」

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2016 (March 22)


Copyright Akiyoshi Kitaoka 2017 (November 26)


Copyright Akiyoshi Kitaoka 2017 (November 27)



(13)並置混色とムンカー錯視の連続性の例外

オレンジ色に見える錯視の方はこのモデルにぴったり当てはまらない。

「標準的なムンカー錯視」

左のハートは赤紫に見え、右のハートはオレンジ色に見えるが、同じ赤である。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2015 (June 2)


Copyright Akiyoshi Kitaoka 2017 (March 4)

考察: 単色では表せないより彩度の高い色が見えていると考えられる。



(14)単色では表せない彩度の高い色が得られると考えられる刺激配置

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2018 (March 18)

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2018 (March 18)

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2018 (March 18)


一覧


Copyright Akiyoshi Kitaoka 2018 (March 19)


「ムンカー錯視で作れるが、ベタ塗り画像にはない色の並置混色表現」

RGB加法混色とCMY減法混色

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2018 (June 13)



中締め(15)本日の話が何の役に立つか

これらの知識を応用すると、たとえば織物の制作において、色の見えをある程度コントロールすることができる。具体的には、知覚される色相や明度を変化させたり、知覚される彩度を上げたり下げたりできる。


赤がオレンジ色やマゼンタ色に見える効果(左)と緑が黄緑色や青緑色に見える効果(右)


黄と青の彩度抑制(左)と彩度増強(右)



(16)ない色を作り出す例

「渦巻き錯黄」

錯視的な黄色が見える。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2018 (February 3)


「錯視的赤」

青とマゼンタ色(明るい赤紫色)と黒の3色の画像であるが、赤の "illusory red" が見える。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2019 (May 25)



「灰色がマゼンタ色とオレンジ色に見える図」

赤紫の渦巻きとオレンジの渦巻きがあるように見えるが、同じ灰色である。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2018 (May 3)



(17)ムンカー錯視と並置混色の関係一覧

画像をクリックすると、画像が拡大します。




最後に(18)簡単なムンカー錯視の作り方:「同化」および「対比」という用語を用いて

ムンカー錯視の作り方



●ターゲットの色に対して、上に乗った縞模様の色は色の同化効果を及ぼし、ターゲットの周囲の色は色の対比効果を、独立に及ぼす。

(assimilation: 同化、contrast: 対比)

Left: Blue (assimilation) + Blue (contrast of yellow) = Blue induction; Right: Yellow (assimilation) + Yellow (contrast of blue) = Yellow induction (左:青(縞の青の同化)+ 青(周囲の黄色の対比)= 青の誘導; 右:黄色(縞の黄色の同化)+ 黄色(周囲の青の対比)= 黄色の誘導)

(参考)


●錯視的黄色の作り方。色の同化と色の対比の組み合わせ。

Left: Green (assimilation) + Red (contrast of cyan) = Yellow induction; Right: Cyan (assimilation) + Magenta (contrast of Green) = Blue induction (左:緑(縞の緑の同化)+赤(周囲のシアン色の対比)= 黄色の誘導; 右:シアン色(縞のシアン色の同化)+ マゼンタ色(周囲の緑の対比)= 青の誘導(青白く見える))

 なぜか省略されがちなのですが、色の対比効果をお忘れなく。


「小家族」

左の鳩も右の鳩も同じ色なのだが、左の方は黄味がかって見える。

Copyright Akiyoshi .Kitaoka 2007 (March 12)



最後にお薦め本

北岡明佳 (2019) イラストレイテッド 錯視のしくみ  朝倉書店 ISBN978-4-254-10290-1 C3040 定価3,132円(本体2,900円+税) amazon

http://www.asakura.co.jp/books/isbn/978-4-254-10290-1/



ありがとうございました!

 

い 

抄録

「錯視は知覚の誤りにすぎないものなのか,あるいは何か機能的な(役に立っている)知覚の副産物なのか」という古くからある問題がある.どちらのものもあると考えるべきであろうが,後者を主張する場合は,実例を示す必要がある.本講座では,色彩の知覚システムにも加法混色系と減法混色系があり,それらの働きの副産物として,ムンカー錯視をはじめとする強力な色の錯視が観察できるという考え方を提示するとともに,それらの色の錯視の実践的応用の可能性を考察する.


北岡明佳の錯視のページ