70周年特別企画「Future of Color design」・第1部基調講演
2018年6月2日(土) 16:00-16:40
日本色彩学会第49回全国大会[大阪]'18@大阪市立大学杉本キャンパス

2つの視覚的文法から見たの再検討

立命館大学総合心理学部 北岡 明佳 email

2018/5/18 より  要約 抄録


(1)同じ色配列が白と黒に見える錯視


「RGBで白と黒」

左の絵の髪と服は白く見え、右の絵では黒く見えるが、同じRGBの縞模様である。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2016 (August 15)

拡大画像


原図


動画表現


cf.

「白と黒」

左の絵の髪と服は白く見え、右の絵では黒く見えるが、同じ輝度の灰色である。左は乗算的色変換(透明変換)、右は加算的色変換(半透明変換)。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2018 (May 28)

明るさの対比図形

左の絵の髪と服の部分は右のものより明るく見える。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2018 (May 28)

「RGBで明るさの対比図形」

左の絵の髪と服の部分は右のものより明るく見える。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2018 (May 28)



(2)並置混色には2種類ある

Spatial color mixture: additive color mixture (top) and subtractive one (bottom)

加法混色


減法混色


Spatial color mixture: additive color mixture (left) and subtractive one (right)


「中間混色」(?)

1画素は 20 x 20 pixel。RGBはそれぞれ5階調(125色)。



「RGBで白と黒」

左の絵の髪と服は白く見え、右の絵では黒く見えるが、同じRGBの縞模様である。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2016 (August 15)


「CMYで白と黒」

左の絵の髪と服は白く見え、右の絵では黒く見えるが、同じCMYの縞模様である。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2016 (August 15)



(3)並置混色は2色でもできる

「RCで白と黒」

左の絵の髪と服は白く見え、右の絵では黒く見えるが、同じR(赤色)とC(シアン色)の縞模様である。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2018 (May 20)

赤・シアン2色の並置混色(左:加法混色、右:減法混色)


「GMで白と黒」

左の絵の髪と服は白く見え、右の絵では黒く見えるが、同じG(緑色)とM(マゼンタ色)の縞模様である。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2018 (May 20)


「BYで白と黒」

左の絵の髪と服は白く見え、右の絵では黒く見えるが、同じB(青色)とY(黄色)の縞模様である。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2018 (May 20)



(4)グレースケールでも2種類の「並置混色」

「白黒で白と黒」

左の絵の髪と服は白く見え、右の絵では黒く見えるが、同じ白黒の縞模様である。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2018 (March 21)


動画表現

北岡明佳 (2016) RGBを原色とする減法混色の並置混色のアルゴリズムとその応用 日本視覚学会2016年夏季大会 朱鷺メッセ(新潟コンベンションセンター)(新潟市)・2016年8月18日(木) Poster --- Visiome



(5)並置混色を視覚系はどう解釈するか?

仮説

1. 最も輝度コントラストの高い領域をアンカーとする。

2. 輝度コントラストの低い領域の輝度が低ければ加法混色系と解釈し、輝度コントラストの低い領域の輝度が高ければ減法混色系と判断する。

3. 加法混色系と解釈された画像のアンカーは白と解釈し、減法混色系と解釈された画像のアンカーは黒と解釈する。


「RGBで白と黒」

左の絵の髪と服は白く見え、右の絵では黒く見えるが、同じRGBの縞模様である。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2016 (August 15)



(6)ムンカー錯視とその仲間



「日本色彩学会創設70周年: Future of Color Design」

CとSは同じ赤であるが、Cは赤紫色に、Sはオレンジ色に見える。AとJは同じシアン色であるが、Aは水色に、Jは緑色に見える。7と0はどちらも青と黄の縞模様でできているが、7は0より明るく見える。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2018 (January 12)

日本色彩学会第49回全国大会[大阪]'18 大阪市立大学


ムンカー錯視(Munker illusion)

黄と青の縞の青部分に赤を乗せるとオレンジ色に見え、黄部分に赤を乗せると赤紫がかって見える。緑を乗せるとそれぞれ黄緑と青緑に見える。高空間周波数図形で錯視量が多い。

Munker, H. (1970) Farbige Gitter, Abbildung auf der Netzhaut und übertragungstheoretische Beschreibung der Farbwahrnehmung. München: Habilitationsschrift.

ムンカー錯視のページ


ムンカー錯視の作り方



Left: Blue (assimilation) + Blue (contrast of yellow) = Blue induction; Right: Yellow (assimilation) + Yellow (contrast of blue) = Yellow induction



「4種類の色の錯視の作り方」

物理的に同じ色(R=255, G=0, B=127)のハートが錯視によってピンクとオレンジのハートに見える。左から、ムンカー錯視(Munker illusion)、色の土牢錯視(chromatic dungeon illusion)、ドット色錯視(dotted color illusion)、デヴァロイス・デヴァロイス錯視(De Valois-De Valois illusion)である。 上図の高解像度ファイルはこちら(8000 x 3262 pixel, 10MB)。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2009 (June 1)

References

Munker illusion Munker, H. (1970) Farbige Gitter, Abbildung auf der Netzhaut und übertragungstheoretische Beschreibung der Farbwahrnehmung. Habilitationsschrift, Ludwig-Maximilians-Universität, München.
chromatic dungeon illusion For the dungeon illusion: Bressan, P. (2001) Explaining lightness illusions. Perception, 30, 1031-1046.
Kitaoka (2007) http://www.psy.ritsumei.ac.jp/~akitaoka/saishin22e.html
dotted color illusion For the dotted brightness illusion: White, M. (1982) The assimilation-enhancing effect of a dotted surround upon a dotted test region. Perception, 11, 103-106.
Kitaoka (2008) http://www.psy.ritsumei.ac.jp/~akitaoka/color10e.html
De Valois-De Valois illusion De Valois, R. L. and De Valois, K. K. (1988) Spatial Vision. New York: Oxford University Press.


北岡明佳 (2012) 色の錯視いろいろ (4) 簡単で錯視量の多い色相の錯視図形の作り方 日本色彩学会誌, 36(1), 45-46. PDF(スキャンコピー) <配布資料>



(7)ムンカー錯視の「裏方」



「日本色彩学会創設70周年: Future of Color Design」

CとSは同じ赤であるが、Cは赤紫色に、Sはオレンジ色に見える。AとJは同じシアン色であるが、Aは水色に、Jは緑色に見える。7と0はどちらも青と黄の縞模様でできているが、7は0より明るく見える。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2018 (January 12)

日本色彩学会第49回全国大会[大阪]'18 大阪市立大学


「ムンカー錯視とその裏方」

上段では、赤いハートが左は赤紫色に、右はオレンジ色に見える。ハートの内外の縞模様を入れ換えたのが下段で、同じ青黄の縞模様が、左は右より明るく見える。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2018 (March 18)


「白と黒に見える 70」

7は明るく、0は暗く見えるが、同じ青黄の縞模様でできている

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2018 (May 23)


cf. (裏方と比較)

「BYで白と黒」

左の絵の髪と服は白く見え、右の絵では黒く見えるが、同じB(青色)とY(黄色)の縞模様である。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2018 (May 20)

「BYで白と黒」

左の絵の髪と服は白く見え、右の絵では黒く見えるが、同じB(青色)とY(黄色)の縞模様である。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2018 (May 20)

原画


「ホワイト効果とその裏方」

上段では、同じ輝度の灰色のハートが左は暗く、右は明るく見える。ハートの内外の縞模様を入れ換えたのが下段で、同じは白黒の縞模様が、左は右より明るく見える。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2018 (March 18)


cf. (裏方と比較)

「白黒で白と黒」

左の絵の髪と服は白く見え、右の絵では黒く見えるが、同じ白黒の縞模様である。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2018 (May 20)


cf. (ホワイト効果と比較)

「ホワイト効果で白と黒」

左の絵の髪と服は白く見え、右の絵では黒く見えるが、同じ白黒の縞模様である。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2018 (May 20)

<上図の原画>



cf. (裏方と比較)

「図地分離による明るさの錯視」

左右の円内は同じ縞模様であるが、左は白い円、右は黒い円が見える。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2009 (February 18)



cf. (裏方と比較)

アンダーソン錯視

左の円は右の円より明るく見えるが、同一の輝度パターンである。

Anderson, B. L. and Winawer, J. (2005) Image segmentation and lightness perception. Nature, 434, 79-83.

色のアンダーソン錯視

左の円は黄色く、右の円は青く見えるが、同一の色パターンである。



cf. (裏方と比較)

視覚的ファントム

左の暗いオクルーダー上には暗い縞部分がつながって見え、右の明るいオクルーダー上には明るい縞部分がつながって見える(視覚的ファントム)。一方、左の縞部分は明るく見え、右の縞部分は暗く見える。



(8)並置混色とムンカー錯視の連続性


「標準的なムンカー錯視」

左のハートは赤紫に見え、右のハートはオレンジ色に見えるが、同じ赤である。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2015 (June 2)


Copyright Akiyoshi Kitaoka 2016 (March 21)



下図は拡大画像


Copyright Akiyoshi Kitaoka 2016 (March 21)



「加法混色の並置混色によるムンカー錯視の説明図」

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2016 (March 22)




「減法混色の並置混色によるムンカー錯視の説明図」

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2016 (March 22)


Copyright Akiyoshi Kitaoka 2017 (November 26)


Copyright Akiyoshi Kitaoka 2017 (November 27)



(9)並置混色とムンカー錯視の連続性の例外

オレンジ色に見える錯視の方はこのモデルにぴったり当てはまらない。

「標準的なムンカー錯視」

左のハートは赤紫に見え、右のハートはオレンジ色に見えるが、同じ赤である。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2015 (June 2)


Copyright Akiyoshi Kitaoka 2017 (March 4)

考察: 単色では表せないより彩度の高い色が見えていると考えられる。



(10)単色では表せない彩度の高い色が得られると考えられる刺激配置

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2018 (March 18)

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2018 (March 18)

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2018 (March 18)


一覧


Copyright Akiyoshi Kitaoka 2018 (March 19)


「武田信玄」

薄い黄色と濃い青色の渦巻きがあるように見えるが、左半分は白(R=255, G=255, B=255)と黒(R=0, G=0, B=0)であるのに対し、右半分は黄(R=255, G=255, B=0)と青(R=0, G=0, B=255)である。

Copyright Akiyoshi .Kitaoka 2007 (March 12)

「風林火山」

「武田信玄」の白黒黄青と同じであるが、この図では違いがはっきりわかる。

Copyright Akiyoshi .Kitaoka 2007 (March 12)



(11)黄ばみ錯視いろいろ


「黄ばみ錯視的なムンカー錯視」

左のハートは黄色に見え、右のハートは白に見えるが、同じ白である。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2017 (March 4)


「錯視黄」

3つの各画像において、内側部分に接続した白の縞部分は黄色く見える。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2018 (January 29)


「宗宮錯視における黄ばみ錯視」

2列目と4列目の背景は黄色がかって見えるが、背景の白と同じである。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2018 (February 4)


「ドットが黄色く見える錯視」

左の上下のブロック内のドットは黄色く見え、右のものは青白く見えるが、背景の白と同じである。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2012 (April 14)


「黄ばみ錯視いろいろ」

内側が黄色ばんで見えるが、背景の白と同じである。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2010 (May 30)


「黄ばみ色拡散」

黄色のネオン色拡散が見える。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2018 (May 19)


「黄ばみ信号」

各円盤内のドーナツ状の領域が黄ばんで見えるが、背景の白と同じである。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2018 (May 19)


「ハートの黄ばみ色拡散」

黄色のネオン色拡散が見える。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2018 (May 19)


「ハートの黄ばみ色拡散」

黄色のネオン色拡散が見える。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2018 (May 19)


(12)黄ばみ錯視と並置混色

「黄ばみ錯視と並置混色」

左右のハートは同じような黄色あるいは明るい黄緑のハートに見えるが、左のハートには黄色は使われていない。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2018 (February 4)

(確認用)


「黄ばみ錯視と並置混色 2」

左右のハートは同じような黄色あるいは黄緑色のハートに見えるが、左のハートには黄色は使われていない。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2018 (May 19)


(13)黄ばみ錯視を加算的色変換による色の恒常性錯視で説明


Copyright Akiyoshi Kitaoka 2018 (March 16)



Copyright Akiyoshi Kitaoka 2015 (August 16)


Copyright Akiyoshi Kitaoka 2018 (May 19)


「色を借りてくる説」

シアン色のコラムからシアン色を引きはがすと、緑色の部分では引きはがすべき青色が足りないので、白色のコラムから青色を借りてくる。そうすると、白色の部分は黄色く見える、という仮説。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2018 (May 19)


(説明用)



(14)ネオン色拡散は並置混色の一種?

赤い髪の赤は細い線上にしか描かれていないが、背景にまで広がって見える。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2018 (March 21)




並置混色図: 左は白い髪と服、右は黒い髪と服に見える。しかし、左右は同じ輝度縞である。

ネオン色拡散図: 左は白い髪と服、右は黒い髪と服に見える。しかし、左の方が平均輝度は低い。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2018 (March 21)



(15)ムンカー錯視における黄ばみ錯視と並置混色

「ムンカー錯視の黄ばみ錯視と並置混色」

左右のハートは同じような黄色あるいは明るい黄緑のハートに見えるが、左のハートには黄色は使われていない。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2018 (May 23)


(16)黄ばみ錯視を乗算的色変換による色の恒常性錯視で説明

右の画像では、羊羹のパッケージの側面は水色に見えるが、画素は赤の色相である。


Copyright Akiyoshi Kitaoka 2018 (May 23)


Copyright Akiyoshi Kitaoka 2018 (May 23)


「色を借りてくる説」

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2018 (May 23)


(説明用)



(17)ムンカー錯視の色残像


CSAJ70ロゴのCSAJ部分

そのネガポジ反転


錯視の残像デモ

「ムンカー錯視の色残像(CSAJ 70 の CSAJ)」

色残像としては、Cはマゼンタ、Sはオレンジ、Aは水色、Jは緑に見える。知覚された色の反対色が見える。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2018 (May 26)

「ムンカー錯視の色残像(CSAJ 70 の 70)」

色残像としては、7は水色、0はオレンジ色に見える。



結論(というか妄想)

並置混色には二種類ある。加法混色系と減法混色系である。それは平凡なことのようであるが、そのように考えると、さまざまな色の錯視や現象を俯瞰的に理解できるようになる。さらには、これらの知識は、色彩計画等に応用が期待できる。



ありがとうございました!

 

い 

北岡明佳の錯視のページ