日本心理学会「注意と認知」研究会 第5回合宿研究会(名古屋笠寺ワシントンホテルプラザ・2007年2月17日~19日)

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(印刷物として配布するのではないと知っていたらカラーにするのだった)

北岡 明佳(立命館大学文学部心理学専攻email

2007/2/15より


注意で止まる?

「蛇の回転」

蛇の円盤が勝手に回転して見える。

Copyright A.Kitaoka 2003 (September 2, 2003)


「タイムトンネルショー」

リングが回転して見える。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2006 (February 24)


最適化型フレーザーウィルコックス錯視の分類


Type III

「後退色」

主観的輪郭で形成された角丸正方形が縮小して見える。

Copyright A.Kitaoka 2004 (June 11)

ヴァリン図形の変形による主観的輪郭です。ヴァリン図形をネオン色拡散と呼ぶ研究者もいますが(1)、私たちの意見ではヴァリン図形は明所視ファントム(photopic phantoms)(2)です。もっとも、ヴァリン(1971)は両方作ったらしいです(3)。私たちの研究でも、視覚的ファントムとネオン色拡散の現象(透明視など)特性と空間周波数特性は同じなので(4)、まあ一緒でもいいですけど。なお、この図で縮小して見える錯視は周辺ドリフト錯視(peripheral drift illusion)です(5)。van Lier (2002) のFigure 1bでも見られます(6)。タイトルの「後退色」ですが、本来の後退色は同じ距離に置かれた色の面が違った奥行きに見えることなので(7)、学部学生の皆さんはこれを後退色の典型例と誤解しないように。

(1) Nakayama, K., Shimojo, S., and Ramachandran, V. S. (1990). Transparency: Relation to depth, subjective contours, luminance, and neon color spreading. Perception, 19, 497-513.

(2) Kitaoka, A., Gyoba, J., and Kawabata, H. (1999). Photopic visual phantom illusion: Its common and unique characteristics as a completion effect. Perception, 28, 825-834.

(3) Bressan, P., Mingolla, E., Spillmann, L., & Watanabe, T. (1997). Neon color spreading: A review. Perception, 26, 1353-1366.
Varin, D. (1971) Fenomeni di contrasto e diffusione cromatica nell'organizzazione spaziale del campo percettivo. Rivista di Psicologia, 65, 101-128.

(4) Kitaoka, A., Gyoba, J., Kawabata, H., and Sakurai, K. (2001). Two competing mechanisms underlying neon color spreading, visual phantoms and grating induction. Vision Research, 41, 2347-2354.

(5) Kitaoka, A. and Ashida, H. (2003) Phenomenal characteristics of the peripheral drift illusion. VISION, 15, 261-262. PDF

(6) van Lier, R. (2002) A double neon color illusion. Perception, 31, 31-38.

(7) 色立体視のページ


Type III プラス 中心ドリフト錯視

「動く蛇」

蛇が左右に動いて見える。

Copyright Akiyoshi .Kitaoka 2005 (September 19)


中心ドリフト錯視

「サクラの回転」

(リメーク版)

サクラの花びらのリングが回転して見える。外側は反時計回り、内側は時計回りである。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2005 (1/26)


中心ドリフト錯視の基本図形

This illusion does not depend on the luminance gradient of inducers. Although the luminance gradients are the same (white to gray) between the two figures shown below, the direction of illusory motion is opposite to each other. The upper two rows in the left figure appear to move leftward while those in the right figure appear to slide rightward; the lower two rows in the left figure appear to move rightward while those in the right figure appear to slide leftward.

The only difference in stimuli is whether the background is gray or white. It is therefore suggested that the critical factor to generate this illusion be contrast. In this case, the direction of illusory motion can be described as "low-to-high contrast".


「注意」で変更できない錯視いろいろ

「レモン色の渦巻きとクリーム色の渦巻き」

渦巻きにはレモン色のとクリーム色のと2種類あるように見えるが、どちらも同じ黄色(R255, G255, B0)である。

Copyright A.Kitaoka 2005 (May 22)


「バレンタインデー・錯視ギフトセット」

ピンクのハートとオレンジのハートは実際には同じ色である。

Copyright Akiyoshi .Kitaoka 2007 (January 12)

cf. Dungeon illusion: Bressan, P. (2001) Explaining lightness illusions. Perception, 30, 1031-1046.


「水色と黄緑色のハートの絨毯(部分)」

水色のハートと黄緑色のハートがあるように見えるが、どちらも同じ色である。

Copyright Akiyoshi .Kitaoka 2007 (January 10)

cf. Dungeon illusion: Bressan, P. (2001) Explaining lightness illusions. Perception, 30, 1031-1046.


「光るフジツボの詰め合わせ」

白い部分が輝いて見える。さらに、白い部分に暗いものが閃って見える。

Copyright Akiyoshi .Kitaoka 2006 (November 17)


「エーデルソンのチェッカーシャドウ錯視風グラデーションの錯視」

C = D である。

Copyright Akiyoshi .Kitaoka 2005 (August 12)

分解して確かめる(MS-Wordファイル)


"Brightness contrast: Miscellaneous 2007"

(a)-(k) The central square in the left half appears to be darker than that in the right one, though they are identical in luminance. (a)-(h) are the new demonstrations. (i) is the standard type. (j) is known (I guess). (k) is the enhanced brightness contrast I presented before. (l) is White's effect, where the central square in the left half appears to be brighter or lighter than that in the right one. 

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2007 (February 5)

For Jeff

超多忙につき、英語で勘弁して。 <2007年2月5日>


「立命館湖」

立命館大学衣笠キャンパスが水没したように見える。

Copyright A.Kitaoka 2004 (August 14)

ここが水没するようでは京都市街全域水没で~す。もちろん大阪も、神戸も。

実際の風景

「比叡山湖」

京都市左京区岩倉地区が水没したように見える。

Copyright A.Kitaoka 2004 (August 16)

氷河期直後はこんな光景だったのかも。

実際の風景




「カメの回転」

カメの集団が回転して見える。そのほか、左右に動いて見える錯視や、垂直・水平に並んだエッジが傾いて見える錯視もある。

Copyright Akiyoshi .Kitaoka 2006 (June 19)


「膨らみの錯視」

市松模様の床が膨らんでこちらにせり出しているように見えるが、物理的にはすべて正方形で描かれており、感じられる丸みは錯視である。

Copyright A.Kitaoka 1998


「渦巻きの詰め合わせ」

同心円のリングが渦巻きに見える。ついでに回転して見える。

Copyright Akiyoshi .Kitaoka 2006 (June 13)


「錯視発見!科研費交付」

「錯視発見!」文字列は右上がりに、「科研費交付」文字列は右下がりに見える。

Copyright Akiyoshi .Kitaoka 2006 (July 22)


●錯視とは視覚性の錯覚のことであり、錯覚とは実在する対象の真の特性とは異なる知覚のことである。

●錯視には、形の錯視(幾何学的錯視)、明るさの錯視、色の錯視、運動視の錯視などがある。

●生存の役には立たないと思われる現象ほど錯視と呼ばれやすい。

●錯視は、錯視量が多いほど「美しい」。しかし、その科学的根拠は不明である。

錯視全般の分類(ウェブページ)   錯視のカタログ(ウェブページ)


錯視の参考書

今井省吾 (1984) 錯視図形-見え方の心理学- サイエンス社

大山正・今井省吾・和気典二(編) (1994) 新編 感覚・知覚心理学ハンドブック 誠信書房

後藤倬男・田中平八(編) (2005) 錯視の科学ハンドブック 東京大学出版会

北岡明佳 (2005) トリック・アイズ グラフィックス カンゼン 

北岡明佳 (2007) だまされる視覚 錯視の楽しみ方 化学同人


ところで、注意が関係する錯視と言えば、やっぱり運動視絡みの諸現象?


「一瞬の早業」

この動画では、絵が切り替わるたびに、一箇所だけ何かが変わるのであるが、それになかなか気がつかない。この現象を、変化の見落とし、あるいは変化盲(change blindness)という。なお、ひとたび気がつくと、今度は必ず気がつくようになる。

Copyright Akiyoshi .Kitaoka 2006 (March 3)

Rensink, R.A, O'Regan, J.K, & Clark, J.J. (1997). To see nor not to see: The need for attention to perceive changes in scenes. Psychological Science, 8, 368-373.

Simons, D.J., & Levin, D.T. (1997). Change blindness. Trends in Cognitive Psychology, 1, 261-267.


下図 変化に簡単に気づくアニメ-ション


change blindness の刺激で、変化するものが複数の場合どうなる?


「一瞬の早業 2」

この動画では、絵が切り替わるたびに、10箇所何かが変わるのであるが、全部に気づくのはむずかしい。

Copyright Akiyoshi .Kitaoka 2007 (February 16)


下図 変化に気づきやすいアニメ-ション


仮現運動に及ぼす注意の効果


仮現運動

円が左右に行ったり来たりして見える。

「仮現運動」は心理学の専門用語で、「かげんうんどう」と読む。"apparent movement"の日本語の訳である。直訳すると「みかけの運動」である。


The eye appears to shift laterally.


目が行ったり来たりする仮現運動が減少する。

Decrease in apparent movement

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2006 (March 21)



1フレーム 200ms

「仮現運動・その3」

1回あたりの回転角が小さくなると(この動画では22.5º)、回転が優位になり、往復運動は見えにくくなる(北岡は500msの方は往復運動優位である)。回転は自動的に反転して見えるとともに、好きな方向に転換させることもできる。

Copyright Akiyoshi .Kitaoka 2006 (July 26)


1フレーム 500ms



1フレーム 500ms

「仮現運動・その2」

女の子が沿って往復運動して見えるが、軌道が直線的である。上と右、下と左の組み合わせの場合と、上と左、下と右の組み合わせのどちらにでも見える。注意によって、回転運動も見ることができる。

Copyright Akiyoshi .Kitaoka 2006 (July 20)


「仮現運動・その1」

女の子が弧を描くような軌道に沿って往復運動して見える。上と右、下と左の組み合わせの場合と、上と左、下と右の組み合わせのどちらにでも見える。画像は500msずつ交替に提示している。

Copyright Akiyoshi .Kitaoka 2006 (July 20)

画像を200msずつ交替に提示した場合は、回転運動も知覚される。

画像を200msずつ交替に提示しても、図によっては回転運動は知覚しにくい。


注意の与えられた方向に仮現運動が見える。

Wertheimerのデモを、Sekuler(1996)が紹介したものを、吉村(2006)(p.47)が紹介したものを、デザイン化。

Copyright Akiyoshi .Kitaoka 2007 (February 16)

吉村浩一  (2006)  運動現象のタキソノミー ナカニシヤ出版


交差と反発(stream/bounce illusion)の検討


1フレーム 100ms

Copyright Akiyoshi .Kitaoka 2007 (February 16)

反発として見える場合(往復運動として見える場合)、重なった瞬間に相当する2つのフレーム(下図)を知覚しにくい。交差として見える場合(回転運動として見える場合)、それらのフレームは知覚される。

と   



しかし、反発の時に、重なった瞬間のフレームが知覚されないと言っても、それらのフレームをブランクにすると不自然な動きとなること(下のアニメーション)から、意識にまで上らないだけで、像は脳内で完全に出来上がっているのかもしれない。

Copyright Akiyoshi .Kitaoka 2007 (February 19)


重なった瞬間に相当する2つのフレームを下の2つに置き換えてみる。

と   

その結果、反発の場合、重なった瞬間に相当するそれらのフレームのうち、変化したピンクの目は知覚されやすいだけでなく、全体も知覚できる場合がある。交差の場合は、すべて見える。

1フレーム 100ms

Copyright Akiyoshi .Kitaoka 2007 (February 16)

ここまでの結論: 運動対象が重なる瞬間の画像は、反発の場合知覚されず、交差の場合は知覚される。なお、反発の場合、運動対象の形状や色が変化すれば、変化した部分は知覚される。反発の場合も、意識にまで上らないだけで、像は脳内で完全に出来上がっている可能性がある。


フレームレートを落とすと、重なるフレームも常に知覚できる。

1フレーム 200ms


1フレーム 300ms


1フレーム 500ms

Copyright Akiyoshi .Kitaoka 2007 (February 16)


線運動錯視の検討


「猫ヒゲ」

猫ヒゲが生えたり、吸い込まれたりするように見える。線運動錯視(line motion illusion)の例である。

Copyright Akiyoshi .Kitaoka 2006 (March 2)

Hikosaka O, Miyauchi S, Shimojo S, 1993a ``Focal vision attention produces illusory temporal order and motion sensation'' Vision Research 33 1219- 1240

Hikosaka O, Miyauchi S, Shimojo S, 1993b ``Voluntary and stimulus-induced attention detected as motion sensation'' Perception 22 517-526


「着物の女の子」

着物の女の子が地面から出てくるように見える? そう見えれば、線運動錯視である。

Copyright Akiyoshi .Kitaoka 2007 (February 16,  revised 19)


「べ」

舌が出たり、引っ込んだりするように見える。実際の画像は、舌ありと舌なしの2枚だけであるが。

Copyright Akiyoshi .Kitaoka 2007 (animation February 16)

これはKanizsaの「偏向ガンマ運動」というものに相当するようだ。


「瞬間移動」

瞬間的に移動したように見える。

Copyright Akiyoshi .Kitaoka 2007 ( February 16)

これは岡部望氏(アニメーター)のいうところの「本当のオバケ」のテクニック


高速運動錯視と「オバケ」


Apparent movement with speed lines (motion lines)

Copyright Akiyoshi .Kitaoka 2006 (March 2)


「高速どんぐるりん」

どんぐりの輪が高速に回転して見える。

Copyright Akiyoshi .Kitaoka 2006 (February 16)

普通の「どんぐるりん」↓

+



「蛇のフィギュアスケート」

円盤が高速で回転しているように見える。

Copyright Akiyoshi .Kitaoka 2006 (February 22)


「ぐりぐりまなこ」

目がぐりぐり動いて見える。

Copyright Akiyoshi .Kitaoka 2006 (March 1)


 

まとめ

注意と錯覚の研究は奥が深い。


立命館大学
(金閣まで徒歩10分、竜安寺まで徒歩3分、等持院まで徒歩1分)


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