から探る

生存科学研究所 「脳科学と芸術 第1回シンポジウム」 (2007年2月24日、朝日ホール スクエアB)

北岡 明佳(立命館大学文学部心理学専攻email

2007/2/22より


「蛇の回転」

蛇の円盤が勝手に回転して見える。

Copyright A.Kitaoka 2003 (September 2, 2003)


「タイムトンネルショー」

リングが回転して見える。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2006 (February 24)


        錯視とは        

●錯視とは視覚性の錯覚のことであり、錯覚とは実在する対象の真の特性とは異なる知覚のことである。

●錯視の研究は、19世紀半ばに始まった。

●錯視には、形の錯視(幾何学的錯視)、明るさの錯視、色の錯視、運動視の錯視などがある。

形の錯視のプリント

●生存の役には立たないと思われる現象ほど錯視と呼ばれやすい。

●錯視は、錯視量が多いほど「美しい」。しかし、その科学的根拠は明らかになっていない。

錯視全般の分類(ウェブページ)   錯視のカタログ(ウェブページ)


錯視の参考書

今井省吾 (1984) 錯視図形-見え方の心理学- サイエンス社
大山正・今井省吾・和気典二(編) (1994) 新編 感覚・知覚心理学ハンドブック 誠信書房
後藤倬男・田中平八(編) (2005) 錯視の科学ハンドブック 東京大学出版会
北岡明佳 (2005) トリック・アイズ グラフィックス カンゼン 
北岡明佳 (2007) だまされる視覚 錯視の楽しみ方 化学同人

形の錯視(幾何学的錯視)

「膨らみの錯視」

市松模様の床が膨らんでこちらにせり出しているように見えるが、物理的にはすべて正方形で描かれており、感じられる丸みは錯視である。

Copyright A.Kitaoka 1998


「渦巻きの詰め合わせ」

同心円のリングが渦巻きに見える。ついでに回転して見える。

Copyright Akiyoshi .Kitaoka 2006 (June 13)


「カメの回転」

カメの集団が回転して見える。そのほか、左右に動いて見える錯視や、垂直・水平に並んだエッジが傾いて見える錯視もある。

Copyright Akiyoshi .Kitaoka 2006 (June 19)


「錯視発見!科研費交付」

「錯視発見!」文字列は右上がりに、「科研費交付」文字列は右下がりに見える。

Copyright Akiyoshi .Kitaoka 2006 (July 22)


色の錯視

「レモン色の渦巻きとクリーム色の渦巻き」

渦巻きにはレモン色のとクリーム色のと2種類あるように見えるが、どちらも同じ黄色(R255, G255, B0)である。

Copyright A.Kitaoka 2005 (May 22)


「水色と黄緑色のハートの絨毯(部分)」

水色のハートと黄緑色のハートがあるように見えるが、どちらも同じ色(R0, G254, B152)である。

Copyright Akiyoshi .Kitaoka 2007 (January 10)

cf. Dungeon illusion: Bressan, P. (2001) Explaining lightness illusions. Perception, 30, 1031-1046.


「ぐるぐるぐるぐる」

それぞれの同心円の内側の4つのリングは同じ色であるが、違う色に囲まれると異なって見える。画面から離れてみた方が効果が大きい。

Copyright Akiyoshi .Kitaoka 2007 (Februaty 12)


明るさの錯視

「エーデルソンのチェッカーシャドウ錯視風グラデーションの錯視」

C = D である。

Copyright Akiyoshi .Kitaoka 2005 (August 12)


「忍者」

左右の目の物理的明るさは同じであるが、向かって左の方が明るく見える。

Copyright Akiyoshi .Kitaoka 2005 (August 13)


ログヴィネンコ錯視

明るいひし形の列と暗いひし型の列が交互に並んでいるように見えるが、同じ明るさである。

Although gray diamonds are identical, there appear to be light-gray ones and dark-gray ones.

Logvinenko, A. D. (1999) Lightness induction revisited. Perception, 28, 803-816.


光の錯視

「光る菊」

菊の花の中心が光って見える。

Copyright Akiyoshi.Kitaoka 2005 (April 5)


「口紅ロケット」

上の列は上に、下の列は下にゆっくり動いて見える。さらに、上下列の間が光って見える。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2006 (March 13)


「神経細胞の発火」

濃い灰色の円から×のような光が発するように見える。

Copyright A.Kitaoka 2004 (6/18)


「ワープ」

真ん中を見ていると、星がまたたいて見える。

Copyright A.Kitaoka 2003


 錯視から探る脳機能   

只今、研究中

配布プリント「小惑星接近」を説明


     錯視と美     

正の相関がある。*

*Noguchi, K. and Rentschler, I. (1999) Comparison between geometrical illusion and aesthetic preference. Journal of Faculty of Engineering, Chiba University, 50, 29-33.


     錯視とアート     

何らかの関係が示唆される。

→ 錯視デザインの本「トリック・アイズ」シリーズが出版されている(5冊目が2007年4~5月に出版予定)。
→ 北岡は、第9回 ロレアル 色の科学と芸術賞 金賞を受賞 (2006年12月) ・・・ 受賞講演のページ

最適化型フレーザーウィルコックス錯視の分類


     美とゲシュタルト     

美はゲシュタルトに宿る。そして、ゲシュタルトは特定のニューロン(群)の最適刺激構造か?


ゲシュタルト(Gestalt)とは

仮現運動

円が左右に行ったり来たりして見える。

「仮現運動」は心理学の専門用語で、「かげんうんどう」と読む。"apparent movement"の日本語の訳である。直訳すると「みかけの運動」である。


The eye appears to shift laterally.


目が行ったり来たりする仮現運動が減少する。

Decrease in apparent movement

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2006 (March 21)



1フレーム 200ms

「仮現運動・その3」

1回あたりの回転角が小さくなると(この動画では22.5º)、回転が優位になり、往復運動は見えにくくなる(北岡は500msの方は往復運動優位である)。回転は自動的に反転して見えるとともに、好きな方向に転換させることもできる。

Copyright Akiyoshi .Kitaoka 2006 (July 26)


1フレーム 500ms


100ms/frame

「反発視依存消失錯視」

このアニメーションは反転刺激である。1つの見え方は、4つの顔のうち、2つが時計回り、2つが反時計回りに回転して見える場合である(回転運動)。もう一つの見えは、4つの顔がぶつかりあって、行ったり来たりして見える場合である(往復運動)。往復運動として見える場合(これを知覚心理学・心理物理学では反発(bounce)という)、2つの顔が重なった瞬間に相当するフレーム(下図)が知覚しにくい。しかし、回転運動として見える場合(これを交差(stream)という)、それらのフレームは知覚される。

Copyright Akiyoshi .Kitaoka 2007 (February 16)

と   



なお、このアニメーションをゆっくり提示すると(下のアニメ-ション)、もちろんそのような見落としは起きない。

500ms/frame

Copyright Akiyoshi .Kitaoka 2007 (February 16)




1フレーム 100ms

「反発が優位な交差と反発」

反発が優位に見える。反発する時、顔が変わるように見える(カニッツァの足のデモ参照)。回転として見ることもできる。その時は、顔は変わらない。回転にしか見えない人は、交差する瞬間にまばたきをすると反発に見えやすくなるので、試してみて頂きたい。

Copyright Akiyoshi .Kitaoka 2007 (February 23)



1フレーム 300ms


高速運動錯視と「オバケ」

Apparent movement with speed lines (motion lines)

Copyright Akiyoshi .Kitaoka 2006 (March 2)


「高速どんぐるりん」

どんぐりの輪が高速に回転して見える。

Copyright Akiyoshi .Kitaoka 2006 (February 16)

普通の「どんぐるりん」↓

+



「蛇のフィギュアスケート」

円盤が高速で回転しているように見える。

Copyright Akiyoshi .Kitaoka 2006 (February 22)

and


「瞬間移動2」

瞬間的に移動したように見える。

Copyright Akiyoshi .Kitaoka 2007 ( February 16)

これは岡部望氏(アニメーター)のいうところの「本当のオバケ」のテクニック


「瞬間移動3」

瞬間的に移動したように見える。

Copyright Akiyoshi .Kitaoka 2007 ( February 20)

マルセル・デュシャン「階段を降りる裸婦」風のテクニック


   錯視デザインの位置づけ   

純粋なサイエンスでもないし、純粋なアートでもない。

●特定の視覚の法則を検証するために作画する。 → デュシャンやエッシャーらとの関連性
●誰でも見える視覚効果を示すことに重点がある。 → オプアートとの関連性 
●シンプルにして要素を追求することにも重点がある。 → ミニマルアートとの関連性 
●インターネットと親和性があり、ユビキタスである。 → インダストリアルデザインとの関連性
● ・・・
    今のところ、錯視デザインは、北岡の学会用客寄せパンダ です。

インクジェット用の和紙との相性を試した作品

「サクラの回転」

サクラの花びらのリングが回転して見える。外側は反時計回り、内側は時計回りである。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2005 (1/26)


中心ドリフト錯視の基本図形

This illusion does not depend on the luminance gradient of inducers. Although the luminance gradients are the same (white to gray) between the two figures shown below, the direction of illusory motion is opposite to each other. The upper two rows in the left figure appear to move leftward while those in the right figure appear to slide rightward; the lower two rows in the left figure appear to move rightward while those in the right figure appear to slide leftward.

The only difference in stimuli is whether the background is gray or white. It is therefore suggested that the critical factor to generate this illusion be contrast. In this case, the direction of illusory motion can be described as "low-to-high contrast".


風景写真で作る「錯視図形」

「立命館湖」

立命館大学衣笠キャンパスが水没したように見える。

Copyright A.Kitaoka 2004 (August 14)

ここが水没するようでは京都市街全域水没で~す。もちろん大阪も、神戸も。

実際の風景




   錯視に適応価はあるか   

適応価のある現象を錯視と呼んでいることもある(だまし絵や立体視などが錯視扱いされることがある)が、多くの錯視にはそれ自体の適応価はないと私は思う。よい錯視図形はゲシュタルトに純粋に作用して誤動作させ、それが美を誘発すると私は理解している。


 

まとめ

錯視研究は脳科学と芸術に貢献できる

と思う。


立命館大学
(金閣まで徒歩10分、竜安寺まで徒歩3分、等持院まで徒歩1分)


トップページ


生存科学研究所 「脳科学と芸術 第1回シンポジウム」のお知らせ <2007年1月25日>

生存科学研究所
「脳科学と芸術」第1回シンポジウム

日時:平成19年2月24日(土)
場所:朝日ホール スクエアB
JR有楽町駅下車、徒歩2分
http://www.asahi-hall.jp/yurakucho/access/index.html

 芸術は、言語と並んで人間にのみ見られる特徴です。芸術を脳科学から、また脳科学を芸術から理解しようとする試みは、人間の脳の特異性とその進化を知り、人間性の科学的基盤を理解し、今日の社会の諸問題を解決する上で極めて有用な示唆を与えてくれるでしょう。生存科学研究所では、「脳科学と芸術」のテーマの下に、芸術家と科学者の連携による下記のシンポジウムを開催することとなりました。年度末のお忙しいおりかとは存じますが、是非ともご参加下さるようお願い致します。

総合司会 岡ノ谷一夫(理研)

10:30- 10:35 ご挨拶
10:35- 11:10 脳と芸術に関する仮説について 岡ノ谷一夫(理研)
11:15- 11:55 錯視から探る脳機能 北岡明佳(立命館大)
昼食

13:20- 14:00 複雑系音楽と脳 池上高志(東大)
14:05- 14:45 香道と脳 藤井直敬(理研)
休憩

15:00- 15:40 芸術家からみた脳科学への期待 千住博(日本画家)
15:45- 16:20 芸術・教育・脳 小泉英明(日立)
休憩

16:35- 17:35 総合討論(進行:小泉英明)
17:40 閉会


「脳科学と芸術」第1回シンポジウム 要旨集用原稿

北岡明佳

略歴
1961年、高知県に生まれる。
1984年、筑波大学第二学群生物学類卒業
1991年、筑波大学大学院博士課程心理学研究科修了(教育学博士)
1991年~2001年、東京都神経科学総合研究所・主事研究員
2001年~2006年、立命館大学文学部助教授
2006年から、立命館大学文学部教授、現在に至る。研究テーマは知覚心理学。
2006年、第9回 ロレアル 色の科学と芸術賞 金賞受賞
2007年、化学同人から「だまされる視覚 錯視の楽しみ方」を出版。

「錯視から探る脳機能」
要旨
 錯視とは、対象の実在の特性とは異なった知覚のことである。つまり、錯視は知覚なので、認識する主体なしには成立しない。さらに、認識する主体とは心のことであり、心は脳の機能と考えられるから、錯視は脳なしには存在しない。多くの刺激条件では錯視は起きないということを考え合わせると、錯視を起こす脳のメカニズムを研究することはそれ自体が興味深いだけではなく、普通の視知覚のメカニズムを明らかにすることにも役立つことが期待される。
 そこで、我々は、2006年度より科学研究費補助金を得て、錯視が起きている時の脳活動を調べる研究をスタートさせた。科研のタイトルは、「静止画が動いて見える錯視群のメカニズムの研究」(課題番号18203036)である。このタイトルでは長いので、我々は「錯視脳」研究会と呼んでいる。研究計画の主軸は、fMRIを用いて、錯視が起きている時の脳活動を調べることである。今のところ、2007年1月に最初の測定を行なったばかりで、まだ十分に解析が進んでいないので、この実験結果の報告は後日となる。
 一方、錯視と芸術との関係については、明確なことが一つある。錯視図形は錯視量が多いほど美しいのである。この法則は、歴代の錯視研究者はある程度知っていたことであるが、Noguchi and Rentschler (1999) が実験的に初めて示した。筆者はこの法則を実践的に応用し、新しい錯視を発見する手がかりとしている。つまり、錯視図形を操作して美しくなったら錯視量が増したと考えられ、それはすなわち、図形がより純粋な刺激配置となったという情報が得られるのである。筆者はこの技術を用いて、幾何学的錯視、色の錯視、動きの錯視などの領域で、新型錯視をいくつか発見し、論文や学会で報告した。
 さらに、その錯視図形純粋化過程においていろいろな刺激図形を試作しているが、その中からデザイン化して一般の人の鑑賞に耐えるもの(錯視デザイン)を筆者のホームページや著書で発表して、一種のアートとして人気を博している。もっとも、錯視デザインが芸術であるかどうかは、後世の判断に委ねるべきことであろう。

Noguchi, K. and Rentschler, I. (1999) Comparison between geometrical illusion and aesthetic preference. Journal of Faculty of Engineering, Chiba University, 50, 29-33.