東北大学電気通信研究所共同プロジェクト研究
第二回 色覚科学研究会・東北大学電気通信研究所・2008年9月5日〜6日
2008年9月6日(土)発表

その残像

北 岡  明 佳 立命館大学文学部心理学専攻

since September 6, 2008


「武田信玄」

薄い黄色と濃い青色の渦巻きがあるように見えるが、左半分は白(R=255, G=255, B=255)と黒(R=0, G=0, B=0)であるのに対し、右半分は黄(R=255, G=255, B=0)と青(R=0, G=0, B=255)である。

Copyright Akiyoshi .Kitaoka 2007 (March 12)

「風林火山」

「武田信玄」の白黒黄青と同じであるが、この図では違いがはっきりわかる。

Copyright Akiyoshi .Kitaoka 2007 (March 12)


ムンカー錯視

黄と青の縞の青部分に赤を乗せるとオレンジ色に見え、黄部分に赤を乗せると赤紫がかって見える。緑を乗せるとそれぞれ黄緑と青緑に見える。高空間周波数図形で錯視量が多い。

Munker, H. (1970) Farbige Gitter, Abbildung auf der Netzhaut und übertragungstheoretische Beschreibung der Farbwahrnehmung. München: Habilitationsschrift.

ムンカー錯視のページ


色の対比

ある領域が別の色の領域で囲まれると、そこに囲んだ色の反対色が誘導される現象。灰色領域が青で囲まれると黄が誘導され(左図)、同じ灰色領域が黄で囲まれると青が誘導される(右図)。


「強化型色対比」

正方形の色は a = d と b = c のように見えるが、物理的な色は b = d である。

by Akiyoshi Kitaoka 2005 (May 27)

ただの色対比にあらず。上下の正方形を取ると、錯視量が減る(下図)。

Piersの論文1)に刺激されて作成。

1) Howe, P. D. L. (2005) White's effect: Removing the junctions but preserving the strength of the illusion. Perception, 34, 557 - 564.

もし先行研究で同じものがあるのを発見されましたら、ご一報下さい。直ちに修正します。 北岡にメールする


色の同化
(視覚の実験的研究でよく出てくるタイプ)

ある領域に、色の付いた細い線が乗ると、その色味が誘導されて見える現象。赤い領域に青線を乗せると赤紫に見え(左図)、同じ赤の領域に黄線を乗せるとオレンジ色に見える(右図)。


色の同化
(デザインの教科書等によく見かけるタイプ)

等間隔で細い縞模様を描くと、隣合った色相が誘導される。左の赤は青みがかって見え、右の赤は黄みがかかって見える。


    

 誘導縞は赤とマゼンタ

参考 第一回色覚科学研究会でデモしたページ


 これから見て頂きたいこと


上図に順応

↓↑

下図を短時間観察




動画はこれです(↓)



「武田信玄の顔色変化」

この動画は、2枚の静止画から成っている。1枚目(下図「風林火山」)は6秒間提示され、2枚目(下図「武田信玄」)は1秒だけ提示される。どちらの画像も、左側は白と黒の渦巻きで、右側は黄と青の渦巻きである。どこか同じ場所を見つめながら眺めていると、6秒間提示される1枚目は「正しく」見えるが、1秒間だけ提示される2枚目は、左側は黄と青の渦巻きで、右側は白と黒の渦巻きに見える。この錯視は、「錯視残効」 というものに違いない(そんなカテゴリーは今までなかったと思うが)。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2007 (November 27)



(上の刺激に順応して、下の刺激を観察する図)


Possible explanations


1. 色の錯視の残効が原因(一段階説)
青が誘導されていたところには黄が残効として発生し、黄が誘導されていたところには青が残効として発生したと考える。

2. 誘導縞の色の残像が原因(二段階説)
赤とマゼンタの誘導縞の残像としてシアンと緑が発生し、その残像によるムンカー錯視によって、青が誘導されていたところには黄が、黄が誘導されていたところには青が誘導されと考える。

 まず、アンチエリアシングなしの下図で再現。

↓↑

 




動画はこれです(↓)





Produced by Akiyoshi Kitaoka 2008 (September 2)



(下図は、左の刺激に順応して、右の刺激を観察する図。アンチエイリアシングあり)

  


再現できた。


 続いて、誘導縞の色は変わらず、被誘導領域の位置だけが変わるテスト刺激で観察する。

↓↑

 




動画はこれです(↓)





Produced by Akiyoshi Kitaoka 2008 (September 2)



(下図は、左の刺激に順応して、右の刺激を観察する図。なお、アンチエイリアシングあり)

  


「錯視残効」は起こる。

ということは、「錯視残効」は、誘導縞の色の残像が原因(二段階説)ではなく、色の錯視の残効が原因(一段階説)の可能性が大きい。


この結果は、「錯視残効」は必ずしも局所的ではない、すなわち効果のある領域が広がっている、ということも意味している。


 順応刺激の被誘導領域を中性的なもの(同じ灰色)にしたらどうか。

↓↑

 




動画はこれです(↓)





Produced by Akiyoshi Kitaoka 2008 (September 2)



(下図は、左の刺激に順応して、右の刺激を観察する図。なお、アンチエイリアシングあり)

  


青と黄の「錯視残効」は起こる。 しかし、若干弱い。


(話がそれていくのですが)

実は、順応刺激の被誘導領域が中間の灰色だと、「赤とマゼンタの色対比のような効果」が強く混入する。

そのため、被誘導領域を青緑(R=0, G=255, B=128)にすると、下図の通り。

Produced by Akiyoshi Kitaoka 2008 (September 2)


実は、 「赤とマゼンタの色対比のような効果」は単純に色対比とは言えない。


なぜなら、誘導縞をどちらかの色にすると、弱くなるものの色の錯視は残存する(下図)。
しかし、これは色の対比だけでは説明できない。


被誘導領域は青緑(R=0, G=255, B=128)

Produced by Akiyoshi Kitaoka 2008 (September 2)


Produced by Akiyoshi Kitaoka 2008 (September 2)


これは 逆方向の色の同化

参考 第一回色覚科学研究会でデモしたページ



どちらも黄色の線であるが、右半分は彩度が低く見える。




どちらも青色の線であるが、右半分は彩度が低く見える。


被誘導領域を灰色にする(下図)。効果は微弱だが、まだ色の錯視はある。


下図は被誘導領域が灰色のムンカー錯視の図(既出の図を再掲)。


被誘導領域が白・黒・黄・青の場合(下図)。

この同化効果は、赤が黄を誘導し、マゼンタが青を誘導する?

RGBの赤は黄を含み、マゼンタは青を含むから??



誘導色が緑とシアンでも同様である。下図は、被誘導領域は赤。


実は、 この条件は対比の効果が強い。


「入学式」

灰色で描いたサクラの花びらに、色が付いて見える。

Copyright Akiyoshi .Kitaoka 2007 (March 2)

図にカーソルを載せると、花びらは灰色であることがわかる。


緑とシアンの組み合わせも、ムンカー錯視の図にすると錯視量が多い。


被誘導領域は灰色(R=204, G=204, B=204)


被誘導領域は橙(R=255, G=128, B=0)


 誘導縞が緑とシアンの「錯視残効」の観察。

↓↑

 




動画はこれです(↓)





Produced by Akiyoshi Kitaoka 2008 (September 2)



(下図は、左の刺激に順応して、右の刺激を観察する図。なお、アンチエイリアシングあり)

  


同様に「錯視残効」は起こる。


最後に、同様の錯視





「ピンクのハートとオレンジのハート」

左上と右下のハートは黄色く見え、右上と左下のハートは青白く見えるが、どちらも背景と同じ白である。このハートの陰性残像は、それぞれピンクのハートとオレンジのハートである。左の十字を目を動かさず10秒以上眺め、右の十字に目を移すと、短時間見える。「陰性残像」(negative afterimage)とは反対色に見える残像という意味なので、将来、用語を変更する必要が出てくるかもしれない。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2008 (May 25)


参考

「赤い玉と黄色い玉」

左の十字を10秒以上見つめ、右の十字に目を移すと、その上下に色の付いた円が見える。上は水色の背景の上に赤色の円が9つ、下は青の背景の上に黄色の円が9つ見える。左側の順応刺激の9つずつの円は灰色(30%ブラック、あるいは、R=178, G=178, B=178)であるから、無彩色の残像として有彩色が見えたことになる。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2008 (May 22)


参考

キルシュマンの法則(色の対比の法則)
1. 誘導領域に比較して検査領域が小さいほど色の対比は大きい。

2. 色の対比は誘導領域と検査領域が離れていても生じるが、その間隔が大きくなるほど効果は小さくなる。

3. 明るさの対比が少ない時に、色の対比の効果は大きい。

4. 誘導領域が大きいほど色の対比の効果は大きい。(法則3と4は入れ替わっている場合がある)

5. 明るさが等しいとき、誘導領域の彩度が高い方が色の対比の効果は大きい。

Graham, C. H. and Brown, J. L. (1965) Color contrast and color appearance: Brightness constancy and color constancy. In C. H. Graham (Ed.), Vision and visual perception, New York: John Wiley & Sons (pp 452-478). (In this paper, the third and fourth laws are exchanged)

Kirschmann, A. (1891) Über die quantitativen Verhältnisse des stimultanen Helligkeits- und Farben-Contrastes. Phil. Stud., 6, 417-491.

Yund, E. W. and Armington, J. C. (1975) Color and brightness contrast effects as a function of spatial variables. Vision Research, 15, 917-929.

法則3には否定的見解が出ている。
Kinney, J. A. S. (1962) Factors affecting induced colors. Vision Research, 2, 503-525.
Oyama, T. and Hsia, Y. (1966) Compensatory hue shift in simultaneous color contrast as a function of separation between inducing and test fields. Journal of Experimental Psychology, 71, 405-413.

これまでの発表:

北岡明佳 (2007) 「引き算」による色の錯視 (東北大学電気通信研究所共同プロジェクト研究 第一回 色覚科学研究会・東北大学電気通信研究所・2007年9月20日〜21日・2007年9月21日(金)発表) 発表用html

北岡明佳 (2007) 色の錯視 (東北大学電気通信研究所共同プロジェクト研究「視覚の統合処理過程の解明とその応用」・打ち合わせ講演会、2007年3月5日(月)17:00-18:00)  HTML(発表用)



立命館大学
(金閣まで徒歩10分、竜安寺まで徒歩3分、等持院まで徒歩1分)


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     記

第二回 色覚科学研究会

期日:平成20年9月5日(金) 13:00 〜 9月6日(土) 15:00
場所:東北大学電気通信研究所2号館2階 W214号室

9月5日(金)
13:00-13:50     溝上陽子(千葉大学)「実空間におけるコンテクストが色の見えに
与える影響」
13:50-14:40     鯉田孝和・小松英彦(生理学研究所)「サル下側頭皮質への電気刺
激によって生じる色判断の変化」
14:40-15:30     中内茂樹(豊橋技術科学大学)「顔処理における色情報の寄与:事
象関連電位に着目して」
15:30-15:45     休憩(15分)
15:45-16:35     内川惠二(東京工業大学)「両眼視野闘争による高次色チャンネル
の推定」
16:35-17:25     増田 修(University of Rochester) (演題未定:錐体分布の話?)

18:30-20:30     懇親会(利休・サンモール一番町店, 022-217-1128,
http://r.gnavi.co.jp/t121617/

9月6日(土)
  9:00- 9:50     栗木一郎(東北大学)「白内障による眼内レンズ装着者の超初期の
無彩色点の推移」
  9:50-10:40     篠森敬三(高知工科大学)「日常室内環境での色の面積効果」
10:40-11:30     北岡明佳(立命館大学)「色の錯視とその残像」

11:30-13:00     昼休み

13:00-13:50     岡嶋克典(横浜国立大)「色の見えの個人差とそのシミュレーション」
14:00-14:50     矢口博久(千葉大学)「メソピックビジョン・イメージングシステム」

以上


 以下、発表後に作成したもの



錯視残効が起きないように見える組み合わせ

(発表の時にViewerでデモしたものを動画にしたもの)



Produced by Akiyoshi Kitaoka 2008 (September 8)



(下図は、左の刺激に順応して、右の刺激を観察する図。なお、アンチエイリアシングあり)

  


モノクロのテスト刺激における錯視残効

(発表後、中内先生にデモしたものと同等のものを動画にしたもの。順応刺激の左の縞模様は白と黒であるが、テスト刺激ではそれぞれ青と黄が誘導されて見える。これは、順応刺激では黄と青に誘導されていた錯視の残効と考えられる。一方、テスト刺激の右側は白と黒に「正しく」見えるが、順応刺激の「本当の」色は黄と青なので青と黄が誘導されるはずである。そうならないのは、順応刺激に誘導された青と黄の錯視残効とキャンセルしあったと考えられる。)



Produced by Akiyoshi Kitaoka 2008 (September 8)



(下図は、左の刺激に順応して、右の刺激を観察する図。なお、アンチエイリアシングあり)

  


帰りの新幹線で中内先生にご提案頂いた輪郭線のテスト刺激における錯視残効

(順応刺激の左の縞模様は白と黒であるが、テスト刺激ではそれぞれマゼンタとオレンジが誘導されて見える。青と黄と言えないこともない。これは、順応刺激では黄と青に誘導されていた錯視の残効と考えられる。一方、テスト刺激の右側も同じように見えるが、順応刺激の「本当の」色は黄と青なのでもっと鮮やかな青と黄が誘導されるはずである。そうならないのは、順応刺激に誘導された青と黄の錯視残効の分が差し引かれたと考えられる。)



Produced by Akiyoshi Kitaoka 2008 (September 8)



(下図は、左の刺激に順応して、右の刺激を観察する図。なお、アンチエイリアシングあり)

  


普通の残像の観察・その1

(残像も順応刺激と同様、左右大体同じに見える。錯視残効がキャンセルしていると考えれば説明しやすい)


普通の残像の観察・その2

(残像は、左上は黄味がかって見え、左下は青味がかって見えるが、錯視残効と考えることができる)


とりあえず、おしまい