東北大学心理学研究室

超お宝! ヴント文庫

ヴント文庫の由来

東北帝国大学心理学講座初代教授になる千葉胤成はドイツ留学中にW・ヴント夫人がヴントの蔵書を売りに出しているという情報を得、イェール大学やハーバード大学など多くの大学との競争に勝って文庫を購入し東北帝大の蔵書とした。蔵書全体の価格は当時の値段で2万円であり大学の予算だけではまかなえず、地元の素封家・斉藤家が設立した斉藤報恩会からの援助も受けている。

千葉は後にこの当時のことを振り返り大福帳にイラスト入りの「ヴント文庫物語」を描写している。それによると千葉は最初、京都の大谷大学から依頼されて文庫を購入しようとしていたのだが、途中で自らが東北帝大教授に就任することになるや、東北帝大心理学講座のために文庫を購入することに変更したのである。いかに第一次世界大戦後の通貨事情が有利に働いたとはいえ、近代心理学の祖・ヴントの蔵書を日本の大学が購入したことは、世界からみた当時の日本の心理学の状況を考えると奇跡と言ってよい(高砂、1997)。千葉の熱意と努力が偲ばれる。
 このヴント文庫には製本済みの雑誌を含む単行書が6762冊、抜刷などの小冊子が9098冊が保管されているが、ヴントが所蔵していた本の冊数からすると全体の6割ほどではないかとされている。その内容が多岐にわたることについて調査を行った高橋(1991)は、「自然における人間の位置」に対する普遍的関心を反映しているのではないかと評している。


文献

高橋澪子 1991 ヴント文庫の周辺 第55回日本心理学会大会準備委員会発行小冊子(高橋澪子著1999『心の科学史』東北大学出版会に再掲)

高砂美樹 1997 ヴント文庫とシュトゥンプ文庫 佐藤・溝口(編)『通史 日本の心理学』 北大路書房 第2部5章3節、Pp.219-221。

現在、ヴント文庫は東北大学図書館の個人文庫室の中に保管されています。

文庫外観(写真の人物がヴント) 文庫の様子(モデル=心理学研究室助手・福野氏)


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