2006年3月24日
第39回知覚コロキアム(知覚コロキウム)講演

フリッカーによる静止画が動いて見える錯視の分類

北岡明佳(立命館大学文学部)

2006年3月21日より


要約

静止画とブランクの2枚を10Hz程度の低速で交替に提示するとフリッカーが観察できるが、同時に静止画が動いて見える錯視が見える条件がいくつかある。この「フリッカーによる静止画が動いて見える錯視」の分類の軸としては、以下の3つが考えられる。第1の軸は、みかけの運動の方向が一定であるか、反転するかである。第2の軸は、静止画自体は錯視の起きない図形であるか、動いて見える錯視であるかである。第3の軸は、フリッカー誘導とまばたき誘導の間で、みかけの動きの方向が同じであるか反対であるかである。


(なめらかな変化の)Reverse phi

Anstis S M, 1970 "Phi movement as a subtraction process" Vision Research 10 1411-1430


Gregory and Heard (1983) のphenomenal phenomena

Gregory R L, Heard P F, 1983 "Visual dissociations of movement, position, and stereo depth" Quarterly Journal of Experimental Psychology 35A 217-237


Anstis and Rogers (1975) の "phi movement"

Anstis S M, Rogers B J, 1975 "Illusory reversal of visual depth and movement during changes of contrast" Vision Research 15 957-961


reverse phi と phi movement の合成? (その1)

(錯視量は増すけど・・・)


reverse phi と phi movement の合成? (その2)

(錯視量は増すけど・・・)


4フレームの Reverse phi

(動きはなんとか見える)

AnstisGregorymotion11.swf

AnstisGregorymotion11.mov


2フレームの Reverse phi

(動きは見えることになっている・・・)


仮現運動

(もちろん、2フレーム)

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2006 (March 21)


なぜか弱くなる仮現運動

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2006 (March 21)


フリッカーによる最近の運動錯視

第1の軸: みかけの運動の方向が一定であるか、反転するか

以下、反転性のフリッカー運動錯視の例

「目の回転」

目が右にも左にも高速に回転して見える。

Copyright Akiyoshi .Kitaoka 2006 (February 27)


上の動画は下の2枚を交替提示させたものである。

知覚しやすい方の画像

知覚しにくい方の画像


反転性のフリッカー運動錯視の例をもう1つ

「蛇のフィギュアスケート」

円盤が高速で回転しているように見える。

Copyright Akiyoshi .Kitaoka 2006 (February 22)


反転性のフリッカー運動錯視の例をさらに1つ

「床屋の乱立・アニメ版」

各リングが回転して見える。回転方向は一定ではなく、時々切り替わる。

Copyright Akiyoshi .Kitaoka 2006 (January 13)


一方向性のフリッカー運動錯視の例

「動く月の錯視」

図にカーソルを乗せると止まる。離すと再開。

1枚の静止画をフリッカーさせているだけなのに、上の月は右に、下の月は左に動いて見える。静止させると反対方向に動いて見える運動残効が発生する。静止画でまばたきを繰り返しても*、フリッカーの場合と同じ効果が得られる。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2005 (November 9)

*まばたきのやりすぎには注意して下さい。まばたきは網膜に振動を与えることになるので、例えば網膜剥離や眼底出血の危険因子を持っている人には危険です(強い近眼の人や糖尿病の人は要注意)。


一方向性のフリッカー運動錯視の例

「ほうき星の回転」

アニメーションは図にカーソルを乗せることで止められます。

静止画2枚でできているが、リングが反時計回りに回転して見える。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2005 (October 31)


一方向性のフリッカー運動錯視の例

「拍動」

心臓が打つように見える。

Copyright Akiyoshi .Kitaoka 2006 (February 17)


関連して

「ジャンプ」

上下にシフトさせるだけの2枚の画像でできた動画であるが、長方形が水平方向に動いて見える。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2005 (June 25)


フリッカーによる最近の運動錯視

第2の軸: 静止画自体は錯視の起きない図形であるか、動いて見える錯視であるか

静止画自体に動く錯視が含まれているもの

「金属製のタイムトンネル・アニメ版」

左の図を見ていると両図とも右に回転して見え、右の図を見ていると両図とも左に回転して見える。なお、雲のようなものが、見る位置に関係なく、左図では左回りに、右図では右回りに回転して見える。

Copyright Akiyoshi .Kitaoka 2006 (February 13)

静止画↓


静止画自体に動く錯視が含まれているもの、もう1つ

「桃洗い」

桃の輪が回転して見える。

Copyright Akiyoshi .Kitaoka 2006 (February 17)

動く錯視のある方の静止画↓


静止画自体に動く錯視が含まれていないもの

「地球の破裂」

図にカーソルを乗せると止まる。離すと再開。

1枚の静止画をフリッカーさせているだけなのに、「地球」の直径が大きくなっていくように見える。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2005 (November 1)


フリッカーによる最近の運動錯視

第3の軸: フリッカー誘導とまばたき誘導の間で、みかけの動きの方向が同じか反対か

フリッカー誘導とまばたき誘導の間で、みかけの動きの方向が同じである場合

「弾丸の回転」

何もせず見ているとリングは反時計回りに回転して見える場合があるが、まばたきを続けながら見ると時計回りに回転して見える。

Copyright Akiyoshi .Kitaoka 2005 (November 3)

この図は動画ではないので安全ですが、まばたきのやりすぎには注意して下さい。まばたきは網膜に振動を与えることになるので、網膜剥離や眼底出血の危険因子を持っている人には危険です(強い近眼の人、高血圧や糖尿病の人は要注意)。

フリッカー版↓


フリッカー誘導とまばたき誘導の間で、みかけの動きの方向が同じである場合、もう1つ

「金の襖」

カーソルを載せると止まる。カーソルを離すと再開。

1枚の静止画をフリッカーさせているだけなのに、真ん中を見ていると、上の列は右上に、左上の列は左下に動いて見える。フリッカーを停止させると、逆方向に動いて見える。この錯視の一部は運動残効である。最適型フレーザー・ウィルコックス錯視も貢献する。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2005 (November 1)


フリッカー誘導とまばたき誘導の間で、みかけの動きの方向が反対である場合

「カセットテープ」

図にカーソルを乗せると止まる。離すと再開。

1枚の静止画をフリッカーさせているだけなのに、リングが回転しているように見える。回転はどっちの方向にも見える。右のリングを見ているとそれは時計回りにゆっくり回転して見えるが、その時左のリングは時計回りに速く回転して見える。目を左のリングに移すと、左のリングは反時計回りにゆっくり回転して見え、その時右のリングは反時計回りに速く回転して見える。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2005 (November 1)

一方、まばたきでは、左のリングは反時計回りに、右のリングは時計回りに回転して見える。


閑話休題ではないですが

「蛇の回転」

蛇の円盤が勝手に回転して見える。

Copyright A.Kitaoka 2003 (September 2, 2003)

蛇の回転のページ
蛇の回転・錯視量増強版
 蛇の回転・フリッカーによる錯視量増強版
蛇の回転・いろいろ

基本錯視を説明した論文(最適化型フレーザー・ウィルコックス錯視)(PDF)

この作品の無断での商業利用はお断り致します(教育・研究利用は歓迎)。


この何もしなくても動いて見える錯視を最初に報告したのは、Fraser and Wilcox (1979) と考えられる。

Fraser, A. and Wilcox, K. J. (1979) Perception of illusory movement. Nature, 281, 565-566.


次の研究論文は、20年後の Faubert and Herbert (1999) と私(北岡)は思った。彼らは、このような図で回転して見える錯視を「周辺ドリフト錯視」(peripheral drift illusion)と名づけた。

Faubert, J. and Herbert, A. M. (1999) The peripheral drift illusion: A motion illusion in the visual periphery. Perception, 28, 617-621.


続く論文は、Naor-Raz and Sekuler (2000) と考えられる。

Naor-Raz, G. and Sekuler, R. (2000) Perceptual dimorphism in visual motion from stationary patterns. Perception, 29, 325-335.


さらに続く論文が、Kitaoka and Ashida (2003) である。

Kitaoka, A. and Ashida, H. (2003) Phenomenal characteristics of the peripheral drift illusion. VISION (Journal of the Vision Society of Japan), 15, 261-262

この論文で、「周辺ドリフト錯視」の錯視量を大いに増強する法則を見つけた、つもりであった。


ところが

周辺ドリフト錯視とは、まばたきする時に瞬間的に起こる錯視的運動のことであって、ゆっくり動いて見える錯視とは別物であることに、最近私(北岡)は気づいた。単なる私の勘違いである。

本文1ページ目に方法が書いてあった。下記黄色マーク部分が重要な箇所である。


やっと本日のメインテーマ(反転性フリッカー運動錯視)です。

「蛇のフリッカー回転」

リングが回転しているようにみえるが、2枚の静止画を交替に出しているだけである。

Copyright Akiyoshi .Kitaoka 2006 (February 4)


「ルーレット」

リングが回転して見える。回転方向は一定ではなく、時々切り替わる。2枚の画像でできている。

Copyright Akiyoshi .Kitaoka 2006 (February 4)


視覚学会2006冬季大会発表スライド (未公開)


「高速どんぐるりん」

どんぐりの輪が高速に回転して見える。

Copyright Akiyoshi .Kitaoka 2006 (February 16)

普通の「どんぐるりん」↓


「ぐりぐりまなこ」

目がぐりぐり動いて見える。

Copyright Akiyoshi .Kitaoka 2006 (March 1)


「素振り」

手が左右に動くように見える。speed line(日本語では「オバケ」と言うらしい)付きの仮現運動である。

Copyright Akiyoshi .Kitaoka 2006 (March 2)


Thank you


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