三楽亭
上から見ると三角形の建物がある。北方文化博物館(新潟市)の中にある「三楽亭」である。その建物の内外にはきっと何か錯視あるいは変な見え方があるだろうと考え、調査に訪れた。調査日は2012年8月6日(月)、調査員は北岡明佳と對梨成一、研究資金は科研費とR-GIROであった。その結果、建物はほぼ正三角形なのに正三角形をあまり感じさせないという錯視があることがわかった。なお、三楽亭内部は普段は非公開である。
2013年4月12日より
三楽亭内部
Copyright Seiichi Tsuinashi 2012 (August 6) 新潟県新潟市江南区沢海・北方文化博物館にて、撮影日は 2012年8月6日(月)、以下同様
「ちゃんとした長方形の部屋を撮影したら写真が歪んで見えている」写真のように見えるが、実際の部屋は長方形ではなく、平行四辺形である。
図面
隅の角度は60度である。
奥の隅が直角の直角三角形に見えるが、正三角形である。
畳の形は平行四辺形
畳は鋭角60度、鈍角120度の平行四辺形である。 (魚眼レンズで撮影)
(2013年5月8日追加)
隅は60度の角度だと言われるとそんな気もするが、写真が歪んでいるだけのようにも見える。
この写真では棚や引き出しが平行四辺形に作られていることがわかる。
急須も三角形 (魚眼レンズで撮影)
室内全景
肖像画は三楽亭を建造した六代目伊藤文吉氏。カメラを持っているのは對梨成一研究員
三角形と言われれば確かに三角形である。しかし、実際に滞在してみて、特段の違和感はなかった。 (魚眼レンズで撮影)
天井
天井は三角形や平行四辺形である。 (魚眼レンズで撮影)
外観
普通の直角の角に見えるが、60度である。
この写真なら角度が60度であることがわかるかもしれないが、それでも角度は90度で写真が歪んでいるように見えることもある。
魚眼レンズで撮影すると、角度が鋭角であるように見えやすい。
建物の角は直角に見えようとするという傾向があるのだとすると、奇しくもそのような仮説が最近数学者の杉原厚吉先生(明治大学)によって提唱された(杉原, 2012)。
杉原厚吉 (2012) 投影の幾何学と立体錯視 心理学評論, 55(3), 296-306.
杉原仮説
仮説 1. 三方向の線のみを使って描かれた線画は、面と面が直角に接続されてできた立体を表すと、無意識のうちに思い込みやすい。 (p.301)
仮説 2. 人は、画像から立体を知覚する際に、直角立体とみなせる部分構造があれば、その部分は直角立体であるという解釈を優先する。 (p.305)
電話ボックスも三角亭
写真が歪んだように見える。
この写真は魚眼レンズで撮影したためか、角度が鋭角であるように見える。
資料
角田夏夫 (1985) 三角亭物語 続・豪農の館 北方文化博物館 1500円
「越後の三角亭」(=三楽亭)のことを書いたこの本によると、三楽亭は明治24年(1891年)に伊藤謙次郎(6代目伊藤文吉)によって建造された。同様な建物が、江戸時代には津(三重県)にあったという(伊勢の三角亭)。また、仙台にもあり、江戸時代からいろいろな人の手で継承され、現在は「馬渕株式会社の馬渕家の邸内にある」という(陸奥の三角亭)。この本には当時撮影したと思われる陸奥の三角亭の写真と図面が十数点掲載されている。この本の出版は1985年で、現在は2013年であるが、インターネットで検索したところ、馬渕株式会社は仙台市内に現存することがわかった(2013年4月13日アクセス)。また、この本には「陸奥の三角亭を購入したのは十二代目で昭和16年のことであり、現在の社長は十三代目に当たる」と書かれているが、同社のウェブサイトによれば、平成10年(1998年)に十三代目は社長を退いて会長になっている。陸奥の三角亭の現状については不明である。
豪農伊藤家の所蔵物を中心とした博物館である。 (魚眼レンズで撮影)
伊藤家のお屋敷 (魚眼レンズで撮影)
新潟市中心部からクルマで20分、京都からクルマで8時間。三楽亭内部は普段は非公開(外からは見える)。
謝辞 北方文化博物館には、三楽亭への特別の入室と撮影を許可して頂いたことを感謝します。加古川茉莉恵様にはご案内頂き、ありがとうございました。 北岡明佳・對梨成一 <2013年4月12日>
追伸 <2013年5月8日>
明治大学の杉原厚吉先生が、三楽亭模型を作って下さいました。下図ののぞき穴からのぞくと奥の隅は60度の角度なのだが、
直角に見える!