視覚学会2006冬季大会
(工学院大学、2006年1月25日〜27日、26日発表)
静止画が動いて見える錯視に及ぼすフリッカーとまばたきの効果
北岡明佳(立命館大学)・芦田宏(京都大学)・村上郁也(東京大学)
since 2006年1月21日
「蛇の回転」
蛇の円盤が勝手に回転して見える。
Copyright A.Kitaoka 2003 (September 2, 2003)
この錯視の説明として、順応や応答関数といったものを考えるのが有力かもしれない。
フリッカーさせると錯視量が増えて見えるとともに、何か独特な「急な感じ」の動きが見える。
この現象を抽出すると
↓
まばたきおよびフリッカーによる回転錯視・仮現運動風タイプ
Image: 100 ms blank: 100 ms
時計回りにも、反時計回りにもリングが回転して見える。時々回転方向が反転する。その方向は注意によっても変えられる。これらの点は、仮現運動と性質が同じである。
Image: 200 ms, blank: 200 ms
Image: 300 ms, blank: 300 ms
切り替わりの間隔が長くても回転は観察できる。したがって、この回転錯視は、ブランクをはさんだイメージの縞模様同士が対応しての仮現運動ではない。
Image: 400 ms, blank: 400 ms
Image: 500 ms, blank: 500 ms
イメージがブランクに切り替わる時に錯視が起こる。
この回転錯視のモデルとして、@フーリエモデル、A陰性残像モデル、B縞誘導(grating induction)モデルが考えられる。どの説も、縞模様の半周期分の対応を取ることで、運動が見えると考えることになる。
Image: 50 ms, blank: 50 ms
普通のパソコンのGIFが表示できるのは10数Hz程度までのようである。
フラッシュムービーを使って、予想を確かめる。
真ん中は、Image: 100 ms, blank: 100 ms、両側は200msで縞模様1周期分回転(20º/200ms = 100º/s)
比較刺激より回転速度が遅く見える? そうならば、上記モデルと矛盾しない。
実験1
この錯視を起こすための提示時間は最短どのくらい必要か?
被験者 ナイーブな被験者2人とファーストオーサー1人。
刺激 イメージとブランクからなる。イメージは3重の縞模様のリング9個。縞模様は18周期の白黒正弦波の扇の一部。形と大きさはこのページの図と同じ。イメージ、ブランクとも760 x 760 ピクセル(モニター上で、28.5 cm x 28.5 cm)。視距離は120cm。イメージの黒は 0 cd/m2、灰は 57 cd/m2、白は114 cd/m2。ブランクは一様な灰色で、57 cd/m2。
装置 VSG2/5で視覚刺激を提示した。モニターはSONY GDM-F250。フレームレートは120Hz。
手続き 刺激は、イメージ、ブランクとも 8ms〜100ms (1〜12フレーム)の12種類の総当りで144通りとなる条件で、各1回ずつランダムに提示した。被験者は、各条件において、静止画像では見られない錯視的回転が見えたかどうかを報告した。
結果
黒のマス目は「見えなかった」条件、白のマス目は「見えた」条件
イメージとブランクを合わせて25ms(3フレーム)以下の時は錯視的回転は見られないが、それを超えると観察できるようになる。ブランクが8〜17msの場合は、イメージの長さが十分でも見えないことがある。その条件で見える場合は、「風のようなもの」が高速に回転して見える場合がある。一方、イメージの長さが短くても(例えば8msでも)錯視的回転は問題なく観察できるばかりか、フリッカーのガタガタ感が少なく、「気持ちよく勢いよく」回転しているように見える場合がある。
フラッシュムービー
設定上は、 Image: 317 ms, blank: 17 ms
高速回転が見える場合がある。
フラッシュムービー
設定上は、 Image: 190 ms, blank: 10 ms
高速回転が見える場合がある。
フラッシュムービー
設定上は、 Image: 17 ms, blank: 317 ms
風のようなものが高速回転しているように見える場合がある。
実験2
この錯視の見かけの回転速度はどのくらいか?
被験者 実験1と同じ。
刺激 実験1と同じ。ブランクの提示時間は300msに固定。イメージの提示時間は 8ms〜100ms (1〜12フレーム)。
装置 実験1と同じ。
手続き 被験者は、各条件におけるフリッカー刺激のみかけの回転速度を角度単位で報告した。1セッションにおいては12条件をランダム順に測定し、合計5セッション測定した。
結果
イメージの提示時間が短い場合(50ms以下)は、1回に3分の1周(120º)以上回転して見える。イメージの提示時間が長くなるにつれて、みかけの回転角度は小さくなる。
ここまでの考察 オンオフごとにcounterphaseに対応を取って10度程度ずつ回転するようにみえる錯視と、高速に(一度に数十度から360度近くまで)回転して見える(説明のつかない)錯視の2種類があるようだ。
実験3
ブランクの輝度はこの錯視にどう影響するか?
被験者 実験1と同じ。
刺激 使用する輝度は、これまでの黒と灰、灰と白の間に中間の階調を1つずつ加えて5種類。暗い方から 0 cd/m2、28 cd/m2、57 cd/m2、85cd/m2、114 cd/m2。イメージのリングの縞模様は、暗い方が28 cd/m2、明るい方が85cd/m2とした。イメージ、ブランクとも提示時間は100ms (12フレーム)。
(Background = 0 cd/m2, rings at the blank = 57 cd/m2)
装置 実験1と同じ。
手続き リング以外の部分(background)は、イメージとブランクとも同じ輝度としたので、5条件。ブランク時に縞模様のリングが一様なリングになる場合の輝度も5条件。合計25条件。被験者は、各条件において、錯視的回転が見えたかどうかを答えた。
結果
黒のマス目は「見えなかった」条件、白のマス目は「見えた」条件
@ ブランク時のリングの輝度がイメージの縞模様の平均輝度の時、バックグラウンドの輝度にかかわらず、回転錯視が見える。
A ブランク時のリングの輝度がイメージの縞模様の低い側の輝度よりもさらに低い場合、バックグラウンドの輝度にかかわらず、回転錯視は見えない。
デモ
0 | 28 | 57 | 85 | 114 | |
0 | GIF | GIF | GIF | GIF | GIF |
28 | GIF | GIF | GIF | GIF | GIF |
57 | GIF | GIF | GIF | GIF | GIF |
85 | GIF | GIF | GIF | GIF | GIF |
114 | GIF | GIF | GIF | GIF | GIF |
実験4
「ブランクが一様な輝度」条件(まばたきに相当?)ではどうか?
被験者 実験1と同じ。
刺激 イメージは実験3の「バックグラウンドが57 cd/m2」条件と同じ。ブランクは一様な面で、輝度は5種類。暗い方から 0 cd/m2、28 cd/m2、57 cd/m2、85cd/m2、114 cd/m2。イメージ、ブランクとも提示時間は100ms (12フレーム)。
装置 実験1と同じ。
手続き 被験者は、各条件において、錯視的回転が見えたかどうかを答えた。
結果
イメージの輝度が 0 cd/m2 の時、被験者3人とも回転錯視は見えなかった。他の条件では見えた。
デモ
実験5
ブランクが黒の場合、錯視が起こるまでに必要な時間はどのくらいか?
被験者 AKのみ。
刺激 イメージは実験4と同じ。イメージの提示時間は8ms (1フレーム)。ブランクは一様な面で、輝度は9種類。暗い方から 0 cd/m2、14 cd/m2、28 cd/m2、43 cd/m2、57 cd/m2、71 cd/m2、85cd/m2、99 cd/m2、114 cd/m2。ブランクの提示時間は変動。
装置 実験1と同じ。
手続き 極限法で、錯視が起こるブランクの長さの閾値を求めた。上昇系列は、8ms(1フレーム)(見えない条件)から8ms(1フレーム)ずつ上昇、下降系列は、100ms(12フレーム)(見える条件)から8ms(1フレーム)ずつ下降した。ただし、ブランクの輝度が 0 cd/m2の条件では、下降系列は200ms(24フレーム)からであった。
結果
ブランクの輝度が縞模様の輝度よりずっと低くなると、錯視を起こすために必要なブランクの長さが急に長くなる。
考察
●この方式での回転錯視には少なくとも2種類あって、混在している(見えの回転が遅いものと速いのもの)。 高速回転錯視成分のさらなる考察
●遅い回転錯視は、フーリエモデルと陰性残像モデルで説明できるかもしれない(縞誘導モデルでは説明できない)。
●ブランク時に縞模様より輝度が低くなると錯視量が急減するメカニズムについては、さらなる研究が必要である。
Thank you
「台風ご一行様・アニメ版」
中止ボタンで止まる。更新ボタンで再開。
各リングが回転して見える。回転方向は皆様の意思のままに。
Copyright Akiyoshi .Kitaoka 2005 (October 10)
「床屋の乱立・アニメ版」
各リングが回転して見える。回転方向は一定ではなく、時々切り替わる。
Copyright Akiyoshi .Kitaoka 2006 (January 13)
イメージがブランクに切り替わる時の回転角度が90º〜180ºより小さいように見える。
高速回転錯視の考察
60Hz。真ん中のテストイメージは、最初に33ms刺激が出て、300msブランク。両端の比較刺激は、最初に17msリングが出て、次の17msは最初のものから 5º (縞模様の4分の1周期)回転したリングが出て(その部分的角速度は60Hz x 5 deg = 300 deg/s)、300msプランク。
両端のリングにも、「高速回転錯視」が見える。ただし、回転方向は実際の回転方向に固定されている。
60Hz。真ん中のテストイメージは、最初に33ms刺激が出て、300msブランク。両端の比較刺激は、最初に17msリングが出て、次の17msは最初のものから 2.5º (縞模様の8分の1周期)回転したリングが出て(その部分的角速度は60Hz x 2.5 deg = 150 deg/s)、300msプランク。
実際の回転速度を半分にした場合、「高速回転」速度は低下するようであるが、半分にはならないようである。
60Hz。真ん中のテストイメージは、最初に33ms刺激が出て、300msブランク。両端の比較刺激は、最初に17msリングが出て、次の17msは最初のものから 7.5º (縞模様の8分の3周期)回転したリングが出て(その部分的角速度は60Hz x 7.5 deg = 450 deg/s)、300msプランク。
実際の回転速度を2倍にした場合、「高速回転」速度は上昇するように見えるが、2倍にはならないようである。
今後考察すべきことがら
1. representational momentum などとの関係。
2. 「蛇の回転」錯視との関係
3. 別のタイプのフリッカー型回転錯視との関係
4. その他
比較刺激
4frame で 60Hz、すなわち 20 deg / 4 frame = 300 deg /s
4frame で 50Hz、すなわち 20 deg / 4 frame = 250 deg /s
4frame で 40Hz、すなわち 20 deg / 4 frame = 200 deg /s
4frame で 30Hz、すなわち 20 deg / 4 frame = 150 deg /s
4frame で 20Hz、すなわち 20 deg / 4 frame = 100 deg /s
2006年2月6日追加
Image: 100 ms blank: 100 ms
in phase
計算通りカクカク動いて見える。
counterphase
風のような高速回転が北岡は見える。
2006年2月6日追加
2006年2月9日追加
錯視的回転が北岡には見える。
2006年2月16日追加
ブランクの縞模様相当部位に "motion streak" あるいは「オバケ」が付いているバージョン
北岡には高速回転が見える。
下は標準形
「オバケ」が90度ずつの場合
北岡には1回あたり90度の高速回転が見える。