錯視図形を眺めると脳が活性化するというのは本当か?

2007年10月3日より


 「錯視図形で脳が活性化」というフレーズは、出版社カンゼンが出しているトリック・アイズ シリーズのコピー(宣伝用のフレーズあるいは文)です。ですから、それが本を買ってもらうための創作された文であることに留意する必要があります。たとえば、宣伝のためだといっても「錯視が癌に効く」と書けば薬事法違反で警察に捕まります。ですから、コピーにはウソではないことが書かれています。しかし、無難な本当のことというものは、たいていおもしろくないものです。ですから、コピーの多くは、視聴者が関心を持ちそうなことを、ウソにならない程度に誇張して書かれています。「錯視図形で脳が活性化」というコピーも同様です。

 錯視図形を見た時には、脳は活性化します。我々の研究グループはその事実を既に確認しました。活性化の定義にもよりますが、fMRI(機能的核磁気共鳴法による脳画像測定法)によれば、錯視図形を見ている時は何も見ていない時に比べて、大脳の後頭葉を中心に脳血流量が増加します。脳の活性化とは脳血流量の増加のことを指すことが普通なので、「錯視図形を眺めると脳が活性化する」というのは事実です。

 しかし、どのコピーにも、視聴者に心地よく錯覚してもらうためのトリックが仕掛けられています。多くの視聴者は、「脳が活性化するといいことが起こる」と思い込んでいます(あるいは、そういうことにしておこう、としています)。実際には、筋肉は使わないとみるみる萎縮しますし、使うとある程度強化されます。しかし、脳は使わないと萎縮するというデータはありませんし、使うと大きくなるということはありません。大脳古皮質の海馬でのみ、記憶の過程で神経細胞そのものが増えるという報告を聞いたことはありますが、学習や記憶による人間のこころの発達は、既存の神経系の活用にありますから、錯視図形を眺めた程度ではおそらく学力は向上しません。つまり、錯視図形を眺めると脳は活性化しますが、学力の向上、健康増進、痴呆の予防といった薬効は期待できません。

 正確に言いますと、本当にそういう効果があるかどうかという検証がなされたことはありませんから、錯視に薬効がないという証拠もありません。ですから、将来的には、何かの薬効が証明される可能性自体は否定できません。それならなぜ調べないのかと言いますと、研究にはお金と時間がかかるので、ある程度成功の見込みがないと、誰もやりたくないからです。

 ついでに言いますと、今のところわかっているのは、錯視図形を見ると後頭葉を中心に複数の領域が活性化することです。でも、後頭葉などは視覚の情報処理をしている脳神経系なので、当然の結果ではあります。錯視図形でなくても、似たような複雑な図形なら、同じように脳を活性化させることがわかっています。


 もし、学力向上に有効だと考えて錯視図形を眺めている人がいたとしましたら、錯視を眺めて息抜きをしたあとで、地道に勉強するのが学力向上に有効です。


    


     


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