「Land の2色法」のデモ

以下の画像は,「Land の2色法(Land, 1959)」をコンピュータ画面上で再構成したデモです.実際にスライド+プロジェクターで行った場合に比べると効果は弱いですが,まずまずかと思います.

以下,画像の作り方を交えながら現象をご紹介します.

(4)の画像の作成手順を Land の2色法 (Land's two-color projection) と呼びます.この画像で青みや緑色が少しでも感じられれば成功です.

何が面白いのか?

(4)の画像は白と赤の光の合成でできています.従って,本来は白→赤の間の色,すなわち「白,ピンク,赤」の3種類の色以外が知覚されることがあってはおかしいのですが,緑や青といった色が知覚される,というのがこの効果の面白い所です.
jpeg に圧縮した時点で多少変なことが起きている可能性はありますが,試しに(4)の画像を download して頂いて,緑色に見える色票のピクセルを Photoshop のカラーピックツールで見ると,せいぜい暗い茶褐色にしか見えないはずです.

もしおかしかったら,(2)と(3)を合成した際の psd ファイルを差し上げますのでおっしゃって下さい.

何がそう見せているのか?

人間の知覚が絶対的な感覚を持たないことの典型で,色は極めて相対的な感覚です.「白,ピンク,赤」しか物理的に存在しない世界に対して適応し,ある程度均等に色が存在する世界を作り出します.
例えば,Helson (1938)の実験によれば,部屋の照明光を単色光(単一波長の光)にして,白から黒までのグレイスケールを観察すると,本来その波長の光しか存在しないにも関わらず,暗い色票はその補色に見える,という結果が報告されました.
例えば,赤色の単色光(波長600nm付近)の照明の下では,反射率の高いグレイの色票は赤く見えるのに対し,反射率の低いグレイの色票は緑みを帯びて見えます.この現象は,発見者の Helson と,後にあらためてこの現象を紹介した研究者 Judd との名前を取って「Helson-Judd 効果」と呼びます.
この Helson-Judd 効果は適応的な感度変化の裏返しの現象で,最近の私の研究結果(投稿準備中)によると,順応の際に起こる非線形な感度変化が要因になっていると考えられます.

Land の2色法の傾向を見ると,白色点の移動(文献3〜6)に加えてこの Helson-Judd 効果に類似した現象が見られ,暗い色票などが赤の補色に知覚される傾向がありします.
ただ,詳細な所はまだわかりません.^^; ご意見ご質問等ございましたら栗木()までお願いいたします.

参考文献

1) E.H. Land, "Color vision and the natural image part II," Proc. Nat. Acad. Sci., 45, 636-644 (1959).
2) H. Helson, "Fundamental problems in color vision. I. The principle governing changes in hue, saturation, and lightness of non-selective samples in chromatic illumination," J. Exp. Psych., 23, 439-477 (1938).
3) D.H. Brainard, "Color constancy in the nearly natural image. 2. Achromatic loci." J. Opt. Soc. Am. A, 15(2), 307-325 (1998).
4) I. Kuriki and K. Uchikawa "Adaptive Shift of Visual Sensitivity Balance Under Ambient Illuminant Change," J. Opt. Soc. Am. A, 15(9), 2263-2274, (1998).
5) J.M. Speigle and D.H. Brainard, "Predicting color from gray: the relationship between achromatic adjustment and asymmetric matching." J. Opt. Soc. Am. A, 16(10), 2370-2376 (1999).
6) I. Kuriki, Y. Oguma and K. Uchikawa, "Dynamics of Asymmetric Color Matching," Optical Review, 7(3), 249-259 (2000).

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