フォーラム顔学2015(第20回日本顔学会大会)
2015年9月12日(土)10:10-10:25・中京大学

視線方向知覚の左方向優位性の個人差

2015年9月9日より


視線方向知覚の左バイアス


「モナリザ視線異方性効果」

左のオリジナルのモナリザは観察者か観察者の少し右方を見ているように見えるが、右の左右反転のモナリザは観察者のかなり左方を見ているように見える。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2012 (August 3)

立命館大学の都賀美有紀さんによると、左のモナリザの顔は観察者の前額平行面に近く見えるが、右のモナリザは彼女の左側が右側よりも奥に傾いたように見える。

2012年8月6日~8日 (一般発表) 北岡明佳 (2012) 「視線方向の知覚における左右の異方性」 日本視覚学会2012年夏季大会・山形大学工学部(米沢市)
顔は概ね左右対称なので、視線方向の知覚もおおむね左右対称であると考えるところであろう。しかしながら、左右の異方性があると 考えられる顔画像が見つかったので、実験データとともに報告・考察する。その顔画像は筆者が描いた人物イラストであり、その人物は筆者を見ているように描 いたつもりであった。ところがこの画像を左右反転すると、視線方向は正面ではなく、向かって左を見ているように筆者には見える。そこで、大学生146名に 8種類の画像(オリジナル、左右反転させたもの、目のみ左右反転させたもの、目以外を左右反転させたもの、およびそれぞれの倒立画像)を見せ、画像の人物 の視線の方向を評定させた。その結果、視線方向の知覚において、左右の異方性が見られた。この異方性は正立画像に見られ、倒立画像には見られなかった。キメラ顔の研究知見との関係などを考察する。

Kitaoka, A. (2014). Left bias of gaze perception in a cartoon face. Psihologija, 47(3), 315-318. PDF (open Access) --- Color images new!


人物の視線が観察者に向かっているつもりで北岡が描いたイラスト
『オリジナル画像』

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2011 (April 2)

授業内調査によれば北岡の見えと同じ観察者は 25% (37/146)。最多の見えは、「ほぼ観察者を見ているように見えるが、わずかに右を見ているようにも見える」で 38%、次いで多かった見えは、「わずかに右を見ているように見える」で 32%。


元画像を左右反転させたら、(北岡には)人物の視線が向かって左向きに見えた。
『完全左右反転画像』

授業内調査によれば北岡の見えと同じ観察者は 21% (31/146)。最多の見えは、「わずかに左を見ているように見える」で 53%。


元画像の目(と眉)だけ左右反転させたら、(北岡には)人物の視線が向かって左向きに見えた。
『目のみ左右反転画像』

授業内調査によれば北岡の見えと同じ観察者は 0% (0/146)。最多の見えは、「観察者を見ているように見える」で 71%。


元画像の目以外を左右反転させたら、(北岡には)人物の視線が正面向きに見えた。
『目以外左右反転画像』

授業内調査によれば北岡の見えと同じ観察者は 38% (56/146)。この見えが最多で、次いで多かった見えは、「ほぼ観察者を見ているように見えるが、わずかに左を見ているようにも見える」で 36%。



The eight stimuli


n = 146


結果と考察1: 平均的に正面に見える顔は Image 2 (下図) であった。


Image 2


Image 2 では、視線の方向に有意な左右差はなかった(χ2 = 1.52, df = 1, n.s.)。一方、Image 2 の左右反転画像(Image 3)では、視線は有意に左に見える割合が多かった(χ2 = 78.40, df = 1, p < .01)。その傾向を Image 2 の右に見えた割合と比較したところ、その優位方向(Image 3の左方向)への偏りは有意に多かった(χ2 = 48.13, df = 1, p < .01)。


Image 3


  
Image 2             Image 3

個人差: 「左バイアス」(鏡映像で右向きの視線方向知覚より左向きの視線方向知覚の方が強いこと)を示した割合は 53%、バイアスなしは 37%、逆に「右バイアス」を示した割合は 5% であった(残り 5% は鏡映像同士で同じ視線方向を知覚した)。左バイアスは右バイアスよりも有意に割合が多かった(χ2(1) = 59.31, p < .01)。

画像の左右反転による視線方向の非対称性(左バイアス)が現れる場合が確認された。 


結果と考察2: 元画像(Image 1)では視線方向を右と答えた割合が多かった。一方、その完全な左右反転画像である Image 4 では視線方向を左と答えた割合が多かった。その偏りを比較したところ、Image 4 で左方向に見える偏りの方が有意に大きかった(χ2 = 27.79, df = 1, p < .01)。

  
Image 1             Image 4

個人差: 「左バイアス」(鏡映像で右向きの視線方向知覚より左向きの視線方向知覚の方が強いこと)を示した割合は 54%、バイアスなしは 40%、逆に「右バイアス」を示した割合は 4% であった(残り 1% は鏡映像同士で同じ視線方向を知覚した)。左バイアスは右バイアスよりも有意に割合が多かった(χ2(1) = 62.69, p < .01)。

画像の左右反転による視線方向の非対称性(左バイアス)が現れる場合がここでも確認された。 


Image 1 は 平均的視線方向が正面である Image 2 とは目が異なるだけであるから、Image 1の視線方向の右方への偏りは目の形状に原因があると考えられる(Image 3 と Image 4 の関係も同じ)。この要因を、「目の要因」と呼ぶことにする。

一方、Image 1は Image 3 とは目以外のパーツ(輪郭を含む)が左右反転の関係にある(Image 2 と Image 4 の比較も同様)。平均すると Image 1は右方、Image 3 は左方に視線が向いているように見えた*。この要因を、「顔の要因」と呼ぶことにする(目も顔の一部ではあるが)。Image 1 と Image 2 の関係と比較すると、「顔の要因」は「目の要因」よりも効果が大きいことがわかる。



得点化して分析しても結果は同じ


結果と考察3: 倒立顔では、画像の左右反転による視線方向の非対称性は平均したところでは認められなかった。


その他、倒立顔の方が正立顔よりも観察者の方を向いて見える割合が多かった(χ2 = 21.49, df = 1, p < .01)。

「視線方向知覚の非対称性」に顔倒立効果あり。

  
Image 5             Image 8

個人差: 「左バイアス」(鏡映像で右向きの視線方向知覚より左向きの視線方向知覚の方が強いこと)を示した割合は 35%、バイアスなしは 43%、逆に「右バイアス」を示した割合は 21% であった(残り 1% は鏡映像同士で同じ視線方向を知覚した)。左バイアスは右バイアスよりも有意に割合が多かった(χ2(1) = 4.88, p < .05)。

画像の左右反転による視線方向の非対称性(左バイアス)が現れる場合がここでも確認された。 



  
Image 6             Image 7

個人差: 「左バイアス」(鏡映像で右向きの視線方向知覚より左向きの視線方向知覚の方が強いこと)を示した割合は 27%、バイアスなしは 50%、逆に「右バイアス」を示した割合は 21% であった(残り 1% は鏡映像同士で同じ視線方向を知覚した)。左バイアスは右バイアスよりも有意に割合が多いとは言えなかった(χ2(1) = 1.14, n.s.)。

画像の左右反転による視線方向の非対称性(左バイアス)はここではなかった。 



半分だけでも?

北岡には左の目は左方を、右の目はやや右方を見ているように見える。


北岡には左の目は観察者を、右の目はやや左方を見ているように見える。



目のあたりだけ



左右対称



「ガンつけにいさんとガンつけないにいさん」

左のフリョー(死語か? 今は何と言うんだ?)はガンつけているように見えるが、左右反転した右のフリョーはそうでもなく、観察者の左の方を見ているように見える。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2012 (August 4)


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