日本視覚学会2012年夏季大会・山形大学工学部(米沢市)

「視線方向の知覚における左右の異方性」

立命館大学文学部人文学科心理学専攻(心理学域) 北岡 明佳 email HP
立命館大学 文学部 心理学専攻

2012/8/3より


人物の視線が観察者に向かっているつもりで北岡が描いたイラスト
『オリジナル画像』

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2011 (April 2)

授業内調査によれば北岡の見えと同じ観察者は 25% (37/146)。最多の見えは、「ほぼ観察者を見ているように見えるが、わずかに右を見ているようにも見える」で 38%、次いで多かった見えは、「わずかに右を見ているように見える」で 32%。


元画像を左右反転させたら、(北岡には)人物の視線が向かって左向きに見えた。
『完全左右反転画像』

授業内調査によれば北岡の見えと同じ観察者は 21% (31/146)。最多の見えは、「わずかに左を見ているように見える」で 53%。


元画像の目だけ左右反転させたら、(北岡には)人物の視線が向かって左向きに見えた。
『目のみ左右反転画像』

授業内調査によれば北岡の見えと同じ観察者は 0% (0/146)。最多の見えは、「観察者を見ているように見える」で 71%。


元画像の目以外を左右反転させたら、(北岡には)人物の視線が正面向きに見えた。
『目以外左右反転画像』

授業内調査によれば北岡の見えと同じ観察者は 38% (56/146)。この見えが最多で、次いで多かった見えは、「ほぼ観察者を見ているように見えるが、わずかに左を見ているようにも見える」で 36%。


結果と考察1: 北岡は左目の情報重視?

この図は左右対称であるが、北岡には左の目は左方を、右の目はやや右方を見ているように見えるため、(北岡には)知覚は左右対称ではない。



The eight stimuli


n = 146


結果と考察2: 平均的に正面に見える顔は Image 2 (下図) であった。


Image 2


Image 2 では、視線の方向に有意な左右差はなかった(χ2 = 1.52, df = 1, n.s.)。一方、Image 2 の左右反転画像(Image 3)では、視線は有意に左に見える割合が多かった(χ2 = 78.40, df = 1, p < .01)。その傾向を Image 2 の右に見えた割合と比較したところ、その優位方向(Image 3の左方向)への偏りは有意に多かった(χ2 = 48.13, df = 1, p < .01)。


Image 3

画像の左右反転による視線方向の非対称性(左方向優位)が現れる場合が確認された。 


結果と考察3: 元画像(Image 1)では視線方向を右と答えた割合が多かった。一方、その完全な左右反転画像である Image 4 では視線方向を左と答えた割合が多かった。その偏りを比較したところ、Image 4 で左方向に見える偏りの方が有意に大きかった(χ2 = 27.79, df = 1, p < .01)。

  
Image 1             Image 4

画像の左右反転による視線方向の非対称性(左方向優位)が現れる場合が再び確認された。 


Image 1 は 平均的視線方向が正面である Image 2 とは目が異なるだけであるから、Image 1の視線方向の右方への偏りは目の形状に原因があると考えられる(Image 3 と Image 4 の関係も同じ)。この要因を、「目の要因」と呼ぶことにする。

Image 1の右目は向かって左の白目部分が多いので、これが視線方向を右方に偏らせる要因となっている可能性がある。そうであるならば、北岡自身の知見とは異なって、平均的には視線方向知覚は右目重視ということになる。あるいは逆に、Image 2 の左目は向かって右の白目部分が多いので、これが視線方向を左方に偏らせる要因となっている可能性がある(北岡の知見と同じ)。この仮説の場合は、Image 2 では目以外の要因は視線方向を右方に偏らせる要因となっていて、目の要因とキャンセルしあっていると仮定する必要がある。結論としては、後者が支持される(Image 2 から目以外を反転させると Image 4 となるが、前者は視線は正面なのに後者は左方に偏るため)。

「目の要因」においては、左目の情報が重視されている可能性がある。


一方、Image 1は Image 3 とは目以外のパーツ(輪郭を含む)が左右反転の関係にある(Image 2 と Image 4 の比較も同様)。平均すると Image 1は右方、Image 3 は左方に視線が向いているように見えた*。この要因を、「顔の要因」と呼ぶことにする(目も顔の一部ではあるが)。Image 1 と Image 2 の関係と比較すると、「顔の要因」は「目の要因」よりも効果が大きいことがわかる。

*Image 1で右方に見える偏りは Image 3 で左方に見える偏りよりも有意に多かった(χ2 = 6.13, df = 1, p < .05)。

本研究における「顔の要因」は「目の要因」よりも視線方向知覚に及ぼす効果が大きいことがわかった。


結果と考察4: 倒立顔でも「顔の要因」と「目の要因」は観察された。
一方、画像の左右反転による視線方向の非対称性は認められなかった。


その他、倒立顔の方が正立顔よりも観察者の方を向いて見える割合が多かった(χ2 = 21.49, df = 1, p < .01)。

倒立顔でも、「目の要因」においては、左目の情報が重視されている可能性がある。

「視線方向知覚の非対称性」に顔倒立効果あり。



その他、得点化して分析しても結果は同じ


「顔の要因」についてはたとえばウォラストンの効果が考えられる。ウォラストン効果に左右の非対称性は知られてはいないと思われるが。



「ガンつけにいさんとガンつけないにいさん」

左のフリョー(死語か? 今は何と言うんだ?)はガンつけているように見えるが、左右反転した右のフリョーはそうでもなく、観察者の左の方を見ているように見える。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2012 (August 4)




「モナリザ視線非対称性効果」

左のオリジナルのモナリザは観察者か観察者の少し右方を見ているように見えるが、右の左右反転のモナリザは観察者のかなり左方を見ているように見える。

Copyright Akiyoshi Kitaoka 2012 (August 3)

立命館大学の都賀美有紀さんによると、左のモナリザの顔は観察者の前額平行面に近く見えるが、右のモナリザは彼女の左側が右側よりも奥に傾いたように見える。


い 

北岡明佳の錯視のページ



2012年8月6日~8日 (一般発表) 「視線方向の知覚における左右の異方性」 日本視覚学会2012年夏季大会・山形大学工学部(米沢市)
顔は概ね左右対称なので、視線方向の知覚もおおむね左右対称であると考えるところであろう。しかしながら、左右の異方性があると考えられる顔画像が見つかったので、実験データとともに報告・考察する。その顔画像は筆者が描いた人物イラストであり、その人物は筆者を見ているように描いたつもりであった。ところがこの画像を左右反転すると、視線方向は正面ではなく、向かって左を見ているように筆者には見える。そこで、大学生146名に8種類の画像(オリジナル、左右反転させたもの、目のみ左右反転させたもの、目以外を左右反転させたもの、およびそれぞれの倒立画像)を見せ、画像の人物の視線の方向を評定させた。その結果、視線方向の知覚において、左右の異方性が見られた。この異方性は正立画像に見られ、倒立画像には見られなかった。キメラ顔の研究知見との関係などを考察する。

日本視覚学会2012 年夏季大会プログラム
期 日: 2012 年8 月6 日(月)8 日(水)
場 所:山形大学工学部(米沢キャンパス)4 号館
〒992–8510 山形県米沢市城南4–3–16
(山形新幹線・奥羽本線「米沢」駅下車,タクシーで約10 分)
(http://www2.yz.yamagata-u.ac.jp/access/)
主 催:日本視覚学会
後援:米沢コンベンション協議会
協 賛:米沢工業会,ナモト貿易
・一般講演(口頭発表)は発表時間10 分質疑5 分の計15 分です.

2 日目(2012 年8 月7 日火曜日)

10:30–11:45 セッション1 座長:栗木一郎(東北大学)
7o01 後頭隆起を基準としたMT 野の位置に見られる人種差
四本裕子1,中嶋 豊2,佐藤隆夫3
(東京大学大学院総合文化研究科1,電気通信大学大学院情報システム学研究科2,
東京大学大学院人文社会系研究科3)
7o02 視線方向の知覚における左右の異方性
北岡明佳(立命館大学文学部)
7o03 サル下側頭葉皮質の動きの処理について
中島 啓1,川嵜圭祐1,澤畑博人1,鈴木隆文2,長谷川功1
(新潟大学医学部生理学第一教室1,脳情報通信融合センター2)
7o04 視覚障害者の行動特性からみたヒト視機能の本質
仲泊 聡1,2,西田朋美1,飛松好子1,小林 章1,吉野由美子1,
小田浩一3,神成淳司4
(国立障害者リハビリテーションセンター1,東京慈恵会医科大学2,
東京女子大学3,慶應大学4)
7o05 3D 映像視聴時の調節・輻輳の移動と画面輝度,瞳孔径の関係について
小嶌健仁,塩見友樹,上本啓太,岡田悠希,宮尾 克
(名古屋大学大学院情報科学研究科)